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AWAYOKUBAーギャルゲは異世界で  作者: 成瀬葵
第一章  激動
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第一章  9『この世界は』

「えっ――?」


 俺は辺りを見回してつい戸惑いの声を上げた。暗かった空が全くの昼間。人通りが多いこの道は見覚えがある。

 相変わらずごった返す道には相変わらず頭部に角が生えた馬が砂埃を上げながら馬車を引いてるし、気温は暑いわけでもないけど獣人たちのあのもこもこした毛皮を見ると「冬だったらさぞ大活躍なんだろうな。」と嫌味交じりに感想が頭をよぎる。

 日差しもいいし、久々に外に出て気持ちがいい。いや、気持ちがいいのは十分わかってるんだよ。


「で、今の状況が全く理解できないんだが。」


 言いながら周囲を見回し、映る光景は先ほどの通り。一つ気になることと言えば日が高いな、ぐらいだ。

 確か俺の認識ではとっくに西の空に太陽さんは沈んでいたはずなんだけどな。部屋の電気をつけずに毎日ギャルゲをやっていた俺にとったら夜と昼の感覚なんてもっぱら感じたことないんだけど。

 異世界に来たということだから『この世界では一瞬で夜が終わります!』とかいう天文学的なことを語られたら納得できるけど、さすがにそんなことはないだろう。

 だが、明確に違うものがある。


「体が、軽いな。殴られた感覚もないし、足も全然痛くない。」


 獣人に殴られ蹴られた傷跡もないし、もう一つ言えば側頭部を声が出なくなるほど強く殴られたはずなのにそこを触っても痛みなんて全く感じない。当然手当てしてもらったとか、治癒魔法をしてもらったとかそういうのもない。

 それどころか愛着しているパーカーは砂埃や靴裏で踏まれた汚れも見当たらない。スニーカーの方も汚れもなくもともとのすり減った靴底だけが目立つ。ポケットの中のものも全部あるし、あらゆる意味で元通り。


 ―――わけがわからなくて頭が痛いぞ。


「異世界さんは俺をどれだけいじめたら気がすむんだよ。召喚されただけでもいい迷惑だっていうのに。」


 傷跡のことはアスナロの前例があるので傷口がないことには納得がいく。だが、銃弾が貫いた俺の右足に手当ての跡である包帯が巻かれていないのを考えれば、状況は何も変わらない。

 俺は結局、殺されたんだろうか。ただ一瞬にして意識を失ったのは覚えている。殺された。そうやって言い切るには何かと不十分だった。第一に痛みを感じなかった。殴るとかいう行動を相手はとってきたんだ。だから殺すという行為も乱雑なはずで、要するに痛みは感じるはず。

 それらを色々と踏まえると


「死者蘇生とかいうのがあるけど、そんな類のやつなのか?」


 ならなんで俺は今ここにいる。確かに俺は店にいたんだ、アスナロと一緒に。それで少年の声、だったと思う。あの死体の人物を殺したであろう相手に俺は殴られて、そしてもだえる少女を見て――。


「アスナロ、あいつは!」


 彼女の死体を見つけてしまったんだ。真っ白な髪が血によって赤く染まって、胸部に刺さった短剣に頸動脈をばっさりと切られた少女。あれを思い返すだけで胸が痛い。胸糞が悪い。後悔でしかない。

 なにより、オズがこの世界をギャルゲだと称したことに、ひどい苛立ちを覚えたんだ。


「アスナロの何か役に立つって・・・言ったんじゃねぇのかよ、俺。」


 今から何をしたらいい。彼女を探すか?それとも途方に暮れるのか?その二択のみだったら答えはもう見えている。俺がすべきことは、アスナロの役に立つこと、そう決めたんだ。

 心がそう決まったが刹那、ある者が視界に映った。路地裏へと続く道からのっそりと現れたのは見覚えのある人物。それは俺にこの世界でギャルゲをしろと言った張本人だった。


「・・・オズ。」


 困惑が混じる頭にそれを塗り替えるかのように怒りが染め上がる。ヒロインが死ぬ、しかもプレイヤーの目の前で。そんなクソゲーをさせる彼に冷静な態度をとるというのは無理だった。


「ひどく困惑しているようだが、あえて言おう。お帰り、我がプレイヤー。」


「お帰り、だと?何でお前はそんな悠長でいられる。何でそんなに冷静でいられる。お前のゲームで、人が死んだんだぞ⁉」


 怒り心頭に俺は声を荒らげて言う。道を行きかう人々はなんだなんだと言わんばかりに視線を寄せてくる。擦れ違いざまに見てくるものや少し離れた場所で立ち見しているやつや。

 そんなことお構いなしに俺は続けていった。


「アスナロが、俺の目の前で死んだ。血を流して寝ていた。これが、本当に、本当に、お前が言うギャルゲというものなのかよ・・・!」


 あの事を思うとよくわからない気持ちになる。きっと彼女が死んだことに対して怒っているわけじゃなくて、きっともっと別のことにも怒っている。言うとしたなら、人が死ぬギャルゲなんてさせるな、と。


「確かに彼女は死んだ。だが、それが運命だったと思えばいいだろう。君はこうして生きているんだ。嬉しいことじゃないか。」


「運命だとかどうだとかを、聞いてるんじゃないんだよ。俺は!」


 言いかけて言葉が出なくなった。その原因は俺のある一つの疑問によるものだった。


 ―――そもそも俺は何に対して怒っている?


 この世界はギャルゲと言ったオズに対して怒っているのか、それとも何もできなかった自分に怒っているのか。ただ、あの光景を『嘘だった』そんな言葉で隠すためにただ人に怒りをぶつけたいだけなのか?

 自分の気持ちが分からないままオズに怒りをぶつける自分に少し疑問を感じた。だから俺は言いかけていた言葉を飲み込んで口をつぐんだ。


「どうやら君は、今自分が置かれている状況をうまく理解できていないようだ。その言動を見ればひどく動揺しているのは明らかだ。だから、」


 オズの透き通る声だけが大きく聞こえる。大通りを行きかう人々の喧騒よりもずっと大きくて耳に届く声だ。


「少し話をしようか。」



      ※



 連れてこられたのは見覚えのある路地裏だった。それは間違いなくアスナロと出会った場所で、俺がこの世界でギャルゲをすることになったとオズから伝えられた場所。

 相変わらず日が当たらず薄暗い。ナンパするにはもってこいの場所だ。そんなことが頭をよぎる中、オズが振り返って俺に対して不敵に笑みを浮かべた。


「さて、一つ言っておくが私は君が見てきた光景は全てわかっている。ゲームの管理者として私は常に君の行動を把握しているからだ。だから、ここから君に色々と話すつもりだが、『何で知っているんだ?』という質問はなしにしてほしい。話がうまく進みそうになくなるのでね。」


 俺が見てきた光景をすべて知っている。つまりこいつはアスナロが死んだ瞬間を見ていたというのか。言い換えればこいつはあの時俺たちのすぐそばにいたというのか。

 疑問に疑問が重なる。この男はずっと高みの見物をしてきたということなのか。先刻の不敵な笑みは一体何なのか。何もかもが疑問だった。


「納得がいかない。とでも言いたそうだね、我がプレイヤー。それは無理もないことだ。ヒロインの死を間近にし、何もわからず全てが元に戻った世界へと戻ってきたのだから。」


 ヒロインの死。それはアスナロのことだ。ここでギャルゲをすることになって、それの攻略対象であるこのゲームのメインヒロイン。オズに言われた通り自分で判断し考える本物の恋愛に近いゲーム。

 なのに、ヒロインが死ぬなんてことがあって、当惑が隠せないのは事実。なぜ何もかもが元通りになっているのかもわからないのも事実だ。


「色々言いたいことがいっぱいだよ。まぁそれのほとんどは愚痴と文句なんだけどな。」


 オズは俺の言葉を聞くや否や分厚い本を片手に広げ、小さく咳払いして口を開けた。


「では、そんな君に話したいことがある。まさかこんなにも早く来てしまうとは思いもしなかったのでね。」


 そのまま続けてオズは真剣なまなざしで俺を見据えた。開いた本のある一ぺージを指でなぞりながら見渡した後のことだった。


「我がプレイヤー。君は負けたのだよ、ゲームに。」


「・・・はあ?」


 当然ながら理解が追い付かない。急にそんなことを言われても誰もが納得しないんじゃないかっていうような一言だ。

『ゲームに負けた』それが意味するものは、オズの次なる言葉によって明らかになった。俺の動揺を誘って。


「つまり、ゲームオーバーだ。君は、ギャルゲで一番やってはいけないこと、『ヒロインをバットエンドに導かせてしまった』のだよ。」


 バットエンド。それは好感度の低さや一時の選択肢のミスによって引き起こされるストーリーの終わりを告げる言葉だ。アニメでもよくあるだろう。バットエンドに物語が終わってしまう話が。

 それと同じことだ。ヒロインを何らかのことでバットエンドに導いてしまえばすべてはセーブポイントへと戻る。それがギャルゲの概念であり、ほかのゲームにもおそらくあるであろう機能。そう、全てはセーブポイントへと戻り何もかもが元に戻ることになる。


「信じたくないけど、つまり何もかもが元通りになっているのは・・・アスナロが死んでしまったせい、なのか?」


「さすがは我がプレイヤー!私が言いたかったことはその通りだ。君はヒロインである彼女を死なせてしまったがためにセーブポイントへと戻ってきてしまったのだよ。まぁ君の場合まだセーブも何もできいないから初期位置に戻ってきたのだけれどね。」


 じゃあつまりだ。オズが言ったことと、俺が導き出した答えをすべてつなぎ合わせると


「要するにこのギャルゲーでのゲームオバーになる理由はメインヒロインであるアスナロが死ぬことか。」


「そういうことだね。」


 涼しい顔をしたオズにやたらと腹が立つ。アスナロが死んでしまったことによってすべてが元に戻ったのはわかった。オズはいつも俺のことを見ていることもわかった。ただ一つ納得がいかない。

 ギャルゲが好きな俺に取ったらたった一つだけが納得いかない。


「じゃあこの世界をギャルゲと称する管理人のお前に聞きたい。」


「何でも聞いてくれ、我がプレイヤー。」


 オズはこのゲームの管理人なんだ。だったら今から俺が言うことに対してもわかってくれるはず。伝わってくれるはずだ。

 俺は口を開けた。


「ヒロインが死ぬギャルゲって、ギャルゲっていうのかな。」


 オズが少しの沈黙をつくって言う。


「・・・と言うと?」


「だってさ、ギャルゲってたくさんの女の子を色々考えをめぐらせて攻略していくゲームだろ?つまり恋愛要素しかないはずなんだよな。なのに、何でこの世界でのギャルゲはヒロインが死んじゃうんだろうって思ってよ。」


 そう思うと色々とこの世界はおかしい。ギャルゲをするにあたって異世界要素何ていらないしましてやリアルに人が死ぬなんて言うのもいらないだろう。なのにこの世界でアスナロは死んでしまった。一瞬の間に人一人が死んでしまうまるでギャルゲとは言い難い冒険もののゲームをしているようだった。

 冒険ものというには少し優しすぎるか。ストーリー性が鮮明に書き出された戦闘ゲーム異世界版!みたいな感じだろうか。

 そんなものが今の俺には感じられた。


「君の言い分はわからなくもない。だが、信じなければいけないことがある。このギャルゲはヒロインが死ぬ。そういうギャルゲなんだよこの世界は。君がどうこう言おうが変わらないのだよ。」


「そうだよな。アスナロを死なせれなければいいんだ。オズが言うところによると、これからは前回みたいに同じようにストーリーが流れていくんだよな?」


「ああ。」


 だったら色々と思い当たる節はある。ギャルゲにおいてはどんな難関があってもやりきれる自信が俺にはある。ヒロインを死なせない。それが今回のイベント達成条件だ。これをクリアして、アスナロとの親愛度を上げる!


「まだ、ナンパの獣人達は来てないし、アスナロも来ていない。このままこの路地裏に残るのもありだしアスナロを探しに行くのも策だ。さて、どうするか。」


 考え悩む俺を見て安心したのかオズが背を向けて行った。


「私が言いたいことは言い終えた。とにかくヒロインを死なせればすべてが元に戻る。それだけ肝に銘じておいてくれ、我がプレイヤー。」


 オズはそう言い残して俺の前から姿を消した。

 日差しがさしかかる大通りへと消えていくオズの背中が少しづつ小さくなっていた姿はあの時俺がアスナロを路地裏から追いかけに行ったときに似ていた。


「アスナロ・・・。」


 吐き出す空気のように彼女の名前が小さく漏れた。




 



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