第一章 10『トラウマだったから』
ループものの鉄則、それはできるだけ前回と同じようなストーリをたどることだ。だが、決して前回のようにしてはいけないものがある。それを回避するために色々とプレイヤーは試行錯誤し関門を潜り抜けていくもの。
要するに俺が言いたいのは、この状況を今回はどうしていくかだ。
「えーと、俺が色々考えて策を練ってたっていうのにまさかの展開に俺はいら立ちを隠せねぇぞ。」
路地裏で待機してアスナロがナンパされる前に話をつけてここから離れるつもりだったんだけど、まさかまさかのナンパされてから路地裏に来たっていう経緯だったのね。
俺はてっきり路地裏にいたアスナロが偶然通りかかったのか路地裏に入ったのを見計らってなのかそこら辺はわからないが、それで獣人達がナンパしに行ったのかと思っていた。だが、結果と言えば状況は前回とあまり変わらないときた。
「何ぶつぶつ言ってたんだよ。」
「こっち見んな!早くここから出ていけ。」
相変わらずの口の悪さに耳が痛いが出ていくわけにもいかないんだよな。
現在の状況を話すと前回通りアスナロが三匹の獣人にナンパされている。いや、ここはしつこくナンパされていると言った方が臨場感が増すかな。
まぁ一つ違うと言えば俺が獣人達よりも先に路地裏にいたことくらいだろうか。あ、後いうならアスナロをこの時点で認識できていることぐらいかな。
「いやいやいや。それはひどくない?一様俺は最初っからここにいたわけで、お前らが後から来たんだろ。」
強気の姿勢をを見せてなめられないように啖呵を切る。
実際のところ前回のことを考えると怖くて足が震えるんだけども。だって足を銃弾でぶち抜かれてるんだよ⁉ 怖いわけがないじゃないか。それに加えて殴られ蹴られ他にも痛い思いもいっぱいしたし。
だけど、今回は前回の俺と同じと思ってもらっては困る。俺最強!とか思ってた無謀な俺とは違い今回は獣人たちの出方がそれなりに把握できてるんだ。そこらへんのことを知ってるということで俺には少し自信があった。
「なんだお前。俺たちにたてつこうっていうのか?」
大柄で筋肉質な体つきの獣人。前回では俺のパンチが全く効かなく俺の足をぶち抜いたトラウマな獣人だ。ほんと、こいつだけは卑怯な手を使ってでもぼこぼこにしてやりてぇ。とか思いつつ俺は強気な姿勢を崩さず言った。
「いや別に。ただ俺が言いたいのは真昼間から女の子をナンパしてるなんてよっぽど童貞が極まってるとしか言えないんだよな。そんなにお前ら切羽詰まってんの?」
とことん獣人達を挑発する。
今までの鬱憤も交えつつ獣人達に悪口を言うのは気持ちがいいぞ。とか思いながら次の展開を予想する。
おそらく頭に血が上って殴りかかってくるだろうな。童貞が極まってるとしか思えないって言っちゃったし。しかも俺にとったら特大ブーメランだし。
まぁ予想していた状況とは少し違うけど、大方俺が考えた策にはどっぷりとはまってくれそうだな。
不敵に笑みを浮かべ獣人たちの反応を待った。
「色々と言ってくれるじゃねぇか兄ちゃん。そんなに死にたいのか。」
当然ながらの殺人予告に俺はしめたと思いまた獣人をおちょくるかのように言い始めた。
「いやいや、そんな気はもっぱらねぇよ。死ぬならお前らだけにしてくれ。ナンパ野郎ども。」
「そうか。死にたいようだな。だったらこの場で死ね。」
おっと、少し怒らせすぎたかな。達者に物事を言いすぎると予想を超えた展開が訪れるのはこれからの課題点として、俺にも俺なりの意地があるってもんなんよ!
「そのまま返すぜ!」
前回は顔にパンチを食らわせて全く効果がなかったこの獣人。毎日鍛えてるんだろうし銃の扱いでも見事なもんだった。だが、ただのモブキャラがこの俺イツキ・ミゾラ様に死ねだなんて戯言も甚だしいぜ!
威勢よく俺は獣人の懐へと忍び込み先制攻撃を食らわせた。今回は手ごたえあり。少し柔らかい感触が足を流れ俺は『勝ったぜ』と言わんばかりの表情を見せた。
「股間ってさ、唯一鍛えられない場所だって知ってた?」
「お、お前・・・卑怯だぞ。」
もだえながら獣人が荒い息使いでそう言う。
「今回はかっこ悪いところ見せたくなくてさ。お前に勝つにはこの方法しか思いつかなかった。勘弁してくれな。」
「・・・クソめ。」
吐き捨てるかのように獣人は意識を失った。
股間を蹴られるとは思ってもいなかったのだろう。挑発して怒らせたのは意識をそらすための陽動に過ぎなかったんだけどまさかここまでの効果だとは。大きな体してても股間だけはどうしても鍛えられないもんな。
毎日筋トレだけは欠かさなかった俺は思いっきり蹴りを食らわせられれば股間ならあの獣人に勝てると踏んでいた。ここで毎日ギャルゲばっかりしていた俺にも強みがあるってことが証明されたわけだ。ただのギャルゲ好きとはわけがちがうってことよ。
「さてと、確かこいつの銃はここら辺に・・・。」
懐を物色して俺は「あったあった。」と言いながら獣人の銃を手にした。
仲間がやられたことに動揺した残りの獣人達はそれを見てさらに体が固まった。
なぜこの男が仲間の獣人が銃を持っていることを知っているのか。ましてやその場所まで。疑問に重なる疑問に彼らは額から流れる焦りを表す汗を首を振るってかき消した。
「何故おまえが、そいつが銃を持っていたことを知っている?」
「そりゃあ一度足をぶち抜かれてみたらわかるんじゃねぇの?」
あの時の記憶は鮮明に覚えている。痛い思いをして感じた嫌な思いが決して消えないとはまさにこのことだろう。あの時の獣人の行動が今ではいい道具になってくれてるんだが、まぁあの時は痛かったな。
「忘れたいことは忘れられないことってもんだろ?だから知ってたまでのことだ。あんまり気にすることじゃないだろ。」
この場の優越は完全に俺に傾いている。
女の子の方は隅っこの方で前回みたいに座ってるようだし、今回に至っては俺がかっこ悪いところを見せずにすみそうだ。いや、逆にかっこいところ見せて好感度アップ的なやつになるんじゃないのか⁉
それなら今ここで残りの獣人達をちゃちゃっとかたづけてやろう。
「よし。今の状況どっちが優勢かお前らにもわかるよな?だったら今すぐここから出ていってくれないかな。じゃないと俺の銃が火を噴くぜ?」
一度は言ってみたかったんだよな。『俺の銃が火を噴くぜ?』なんてかっこい言葉が言えただなんてやっぱり異世界さん最高だわ。
都合よく言い分を変えているのは悪いと思うけど、やっぱり二回目となればイベントも達成しやすくなるもんなんだな。一番強い獣人を倒し、残りは前回では殴り勝てた敵が二人。今回はいける!
「わかった。」
歯をギシギシと噛みながら一人の獣人が昏倒する獣人を担ぎ応答した。また前回のように『次ぎ会ったら殺してやる』とでも言っているかのような言葉を吐き捨てて。
そして路地裏から出て行った。
「・・・ふう。」
全身の力が風船の空気が抜けていくかのように緩まった。アスナロには今回何の手数も掛けずにましてやかっこ悪いところも見せていない。よし、幸先がいいぞ。これで一様第一イベント達成ということだな。
「大丈夫か?」
アスナロのもとへと向かう。長くつやのある白髪にかわいらしい容姿に加えて俺を見つめる金色の瞳。俺が顔を赤らめるのは必然的だった。
だが、彼女にとったら俺のことは初対面の男。もちろん気を許してもらえるわけもなく若干の警戒心を感じた。それでも俺は座り込む彼女に手を差し伸べた。
「・・・うん。」
アスナロの声が聞こえる。
それと同時にあの時の記憶が鮮明によみがえってくる。俺は何もできずに彼女を死なせてしまった。ただただアスナロのことを抱きかかえて悔しさを大声で隠すことしかできなかったあの夜を。
後悔と憎悪を俺はその時感じたのだ。でも今はアスナロが目の前にいる。もう一度やり直せることがどれだけ都合のいいものなのか、それを感じながら俺は複雑な心境の中言った。
「だったらよかったよ。」
どんな表情をしていたなんて俺にはわからない。でもこの時アスナロには俺から何かを感じたかのように静かに俺の手を取って立ち上がった。同時に彼女は口を開けた。
「・・・ありがとう。助けてくれて。」
「・・・・・!」
アスナロの一言に俺は一瞬言葉を失い呆然と彼女の顔を見つめた。やっぱりかわいい一択の彼女の顔を見つめるのは少し気恥ずかしさを感じるがそうするしかなかった。
ナンパからアスナロを助ける。前回ではナンパからアスナロを助けようとして獣人に返り討ちに会うという最悪な展開を目の前で披露してしまった。それに呆れてかアスナロは自らの力で俺を助けてくれて獣人達を追い払ってくれた。その時だって俺がお礼を言わなきゃいけないというのに彼女は『ありがとう』と言ってくれた。
その時感じた複雑な気持ちをなしにすると、人にお礼を言われるのがどんなけ嬉しいものなのか感じることが出来た。今だってそうだ。彼女は俺にお礼を言ってくれた。
あの時見たアスナロの死体が頭の中に残るけど、今はアスナロがここにいる。助けることができて、彼女はここにいるっていう実感がわいて、今は何て言うのか嬉しいを通り越して『満足』だな。
「いやいや、お礼なんてよしてくれよ。」
少し照れくさく感じて俺は後頭部の髪を撫でまわす。
「ケガとか・・・してない?」
「え・・・?あ、全然全然!この通りピンピンしてるぜ。今からでも地球一周できちゃうくらい元気!」
腕をぶんぶん振り回し愛想よく笑みを浮かべながら言う。テンパって呂律が少し回らないけど。
「・・・本当にありがとう。何かお礼が出来たら・・・。」
「お礼・・・⁉」
お礼、お礼お礼お礼・・・お礼かぁ。ここはかっこよく『お礼なんていいですよ。助けることが出来ただけでも俺は満足ですから』ってどや顔でいうのがセオリーかな。
いや待てよ。そういえば前回はこの後アスナロとオレンジ髪の少年を探す手伝いをしたんだっけ。前みたいに手伝う口実が今回はない。ということは次なるストーリーに進むためには
「じゃあさ、なんか君の助けになることがしたいかな。」
「助け・・・?」
アスナロがそれはお礼になっていないと言っているかのように首を横に振る。そしてそれから口を開けて言った。
「逆に私が、あなたの役に立ちたいくらい・・・。あなたへのお礼なのに、私がまた助けてもらうのは、おかしい。」
「おかしくはないぜ?俺がきみの助けになる。それを君は素直に受け入れる。それが俺の役に立つっていうことになるからそれがお礼っていうことでどうかな?」
少し強引に話をまとめちゃったかな。確かに自分でも何言ってるのかよくわからないけど口実いえば口実になっているはず。彼女が俺の役に立つというなら、俺がやりたいことに協力してほしい。そういう意味なんだけど。
アスナロは首をかしげて、『意味が分からない』とでも言っているかのようだった。
あちゃあ、さっき思ったことを口にして言えばよかった。
まぁでも
「まとめるとだな、俺の役に立ちたいんだったら俺に協力し欲しいっていうことなんだけど・・・いいかな?」
少し傲慢な気もする。本当は彼女一人で倒せた獣人を俺が横やりを入れて無理やり彼女を助けたようなものだ。前回では銃で俺が先刻倒した獣人を仮死状態にしていたし、正直言って彼女は俺より強いはずなのに。
それに加えて何でアスナロは今回も何も言わずに俺がいちゃこらやっている間に壁にもたれて座っていたのだろう。
まるで俺が負けるのを待っているかのように。
いや、今こんなことを考えたってしょうがない。今はストーリーを進めることが最重要。できるだけ同じ物語をたどらないといけないんだから、変に話を加えるのはまずい。
そんな疑念を感じていた俺にアスナロは言った。
「いいよ。」
そう言って彼女は懐から写真を取り出した。その写真に写っていたのはオレンジ色の髪をした少年だ。
「だったら、私を手伝ってほしい。」
「あぁ。まかせてくれよ!」
※
「二回目にしてはうまくいっているようだね、彼。」
橋の上。ここは人通りも少なく森の中にあるということで今は誰も人はいない。いると言えば当事者のみの現状だ。
「また君か。」
オズが不満げに喉を鳴らした。人気のない場所だというのになぜこの男は自分に付きまといこうも能天気に話を進めることが出来るのか。若干の呆れと怒りを交えながら声のする方に振り返った。
「また僕だよ~。そんなに不満げな顔をしないでくれよ。一様これでもオズに話したいことがあるから出向いたんだ。」
「出向いたといってもここはコウリョだ。それに人気のない森の橋。もっと言えばこの先には前回我がプレイヤーがゲームオーバーになる原因であったレストランがある。何を私が君に言いたいかぐらいはわかるよな?」
不敵な笑みを浮かべながら彼は欄干に手をかけた。小川に流れる一枚の葉を目で追いかけて言った。
「まさか、僕がオズやオズのプレイヤーをはめたとでも言いたいのかい?」
顔までは見えない。ただ彼の後姿だけが目に映る。相変わらず子供っぽさは今でも変わらない彼の後姿をみて少し気が抜けたようになった自分を改めて言葉を並べた。
「いや、あのような展開は聞いてなかったもので。君のプレイヤーがどのようなゲームをしているのかも知らないのにあのようなことをされては私の方も少しばかり考える。」
「なるほど。確かにそれは僕の方に非があるね。そこは申し訳なかった。が、これはオズと僕が協力して我がプレイヤー同士、ゲームを成功させようというものなんだ。そこはわかるだろ?」
落ちていた石を拾い上げ小川に放り投げる。「あ、ビンゴ。」と声が聞こえて何かを狙って投げたのだろうかと思いながらもオズは少々声を荒らげて言った。
「だが、私も少し君のプレイヤーに同情してしまったのだよ。彼女は自分が死んだことを覚えていないのだろう?その穴を我がプレイヤーが埋めることが出来るのか、正直言ってかなり難しいと思うんでね。」
彼はオズの言葉を聞いて鼻で笑う。
「少しは自分のプレイヤーを信じてやれよ。口ばっかりで真意が全く見えないのは昔から変わらないな、オズは。」
「そのせいで失敗したことはあるのだが、自分の性格を変えるのは難しいものだと今思い知らされているところだよ。」
愛想笑いを浮かべながらオズは言った。昔のことを思い返すのは胸が痛む。自分のせいで破滅の道に追いやってしまった一人の青年のことを考えると、今でも全く当時と変わらない自分が嫌いだ。
ゲームの管理者として一番やってはいけないことは、ゲームの趣旨とは異なることをプレイヤーに教えることだ。
「とりあえず、今は君のプレイヤー次第だ。あの展開を見事にぶち壊し次なる物語へと進めるかにかかっている。」
「あぁ、そうだな。」
オズはぎゅっと手を握った。




