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08 お兄様は通常運行

ここ数日で分かったことがある。

キアランお兄様が甘々モードなのは、体調を崩した私を心配しての事だと解釈していたが


違った。


恐ろしいことにコレがお兄様の通常モードなのだ。

ディアナの日記にもそういう描写が散見される。


「キアランにいさまはすぐにおひざだっこする」

「ディアはもうじぶんでなんでもできるのに」

「ごはんだってひとりでたべれるのにすぐにアーンしようとする」


…うん、幼女相手ならわかる、可愛いもんな。

しかし、現在15歳、あ、まだ14か、ディアナの誕生日は冬だ。

でもまぁ14だろうが、15だろうが幼女ではない。

繰り返して言いますが、大人とも言えないけど幼女ではない。

にもかかわらず、ハグ、キス、頬ずり、だっこ、頭ナデナデ、その手のことが日常茶飯事だ。

ディアナはこれを普通の事として受け入れていたのかと驚いたが、そうではないようだった。


「いやっていうとしょんぼりする」

「一人で食べれるっていったら泣きそうになった」


…うん、今では傾国の美青年のお兄様だけど、小さい頃は傾国の美少年だった。

その美少年にしょんぼりされたり、泣かれそうになったりした幼女は悟ったのだ。


「兄様が嬉しそうだから」

「しょんぼりした顔は見たくない」

「泣かれるよりは」


ディアナとてキアランが嫌いなわけではない、むしろ大好きなのだ。

その兄の為に、自分の羞恥心と兄の心を秤にかけ、兄の心を選んだのだ。

蛇足だが、この類の記述のある日の添削はお兄様ではなくお父様だ。

お父様が不在と思われる日=お兄様に見せる日には一切書いていない。

ちなみに、お父様添削は綴りの修正のみ。

お兄様添削はちょっとした感想が書いてあって添削というよりは連絡帳のようなので、違いは一目瞭然である。

幼女の拙い日記に幼女の分かるレベルの語彙で感想を添えるお兄様。

「がんばったね」「えらかったね」「いいこだね」

うん、お兄様の優しさとディアナへの気遣いが感じられる。てか小さなころからダダ甘かっ!

そのお兄様がこの記述を目にしたならば、奈落の底まで落ち込み大変面倒な事態になるであろうことは想像に難くない。ディアナは空気の読める幼女だった。

そんなわけで悟りの境地に至った幼女ディアナだったが、ベタ甘の兄に対して少々塩対応になったのは仕方ないだろう。

しかし、筋金入りのシスコンであるベタ甘お兄様は多少の塩対応では全くめげないのだ。そのしょっぱさも彼にかかれば「親密であるが故の気安さ」と解釈され「親しさの証明」と受け取られるのだ。

この世界の常識がわからず、接触過多のお兄様に動揺して、赤くなったり固まったりしていた私は「珍しく照れてる」「初々しい」「可愛い」と解釈されていた。

なので「いつもより他人行儀だけど、それも可愛くていい」との発言だったのだ。


………頭痛い。


ちなみにお父様も、館の使用人もお兄様のシスコンぶりとディアナの塩対応には慣れている。よほどのことがない限りは生ぬるく…もとい、温かく見守っている。


そんなお兄様にとって私の王立魔法学園入学は晴天の霹靂だったわけだ。

今まで手元にいた可愛い可愛い妹が学園の寮に入ってしまう。

いや、貴族でも平民でも魔力を有する者は全員15になる年に入学する。

王都に屋敷の無い貴族もいるので、全員が寮に入るのだ。

実家が近いものは平日は寮で過ごし、週末は家に帰る。私もそのパターンだ。

もちろんお兄様だって同じように入学し、入寮し、学生生活を過ごした。

週末、終業の鐘の音と共に学園を後にし、普通なら始業の前日に戻るのに、当日の朝ぎりぎりまで館に滞在し、私に見送られながら登校していたけどね。蛇足だが、お兄様と同じ年のカイも一緒に入学し、お兄様の帰宅強行スケジュールに付き合わされる学生生活を送った。

お兄様とカイがいない日々は淋しくもあったけど、ルシィがいつも一緒にいて、それなりに楽しく過ごしていたように思う。戻ってきた週末はこれでもかというほど甘やかされて構われていたしね。


私が覚醒したあの日は日本でいうところの金曜日、風の日である。

授業を終え着替えて丁度屋敷に戻るところだったので、そのまま屋敷に運ばれ、

土曜日=星の日は丸々寝込んで、日曜日=月の日に目覚めて、また気絶。

その後は体調不良を理由に屋敷に留め置かれ、今日は風の日である。

つまり、丸々一週間、授業をお休みしたわけだ。

一週間のお休みは非常に助かった、その間にディアナと芹那は絶妙に混じりあい、

今の私、言うなれば新生ディアナとなったわけです。

記憶の曖昧な部分は日記という手掛かりを得て補完できる目途がたった。さすがに10年分近くある日記を一気に読むことはできないので、追々ではあるが。

全く五里霧中状態から解放されて精神的にもかなり落ち着いた。

なので…


「お父様、そろそろ学園に戻ろうと思うのですが」


朝食の席での私の発言に、お兄様はガガーンっと擬音が入りそうな勢いで顔色を変えた。

うん、今のお兄様の心象風景は多分ベタフラッシュ。


「ディッ…ディアッ?」


あからさまに狼狽えるお兄様、美貌が台無しです。


「一週間もお休みしてしまいましたし…」

「いやいやいやいや、まだ本調子じゃないだろう?無理をしない方がいい」

「もう回復しました。すっかり元気です」

「そんなことないだろう?食だってすっかり細くなってしまって」

「今朝の朝食もしっかり完食しました」


今、お兄様の目の前で、ふんわりオムレツとカリカリベーコン、人参のサラダとライ麦パンにコンソメスープ、がっつりしっかり平らげて、現在食後の紅茶でしょうが。

私とお兄様のやり取りを呆れた眼差しで眺めてるお父様、生ぬるく見守っていただきありがとうございます。幸いにも使用人たちは食事のサーヴを終えて退室していた為、残念なお兄様を晒すのはお父様だけで済んだけど、うんホント残念、残念お兄様も可愛いけどね。


「そうだな、私もそろそろ戻る頃合いだと思っていたよ」

「父上!」

「落ち着きなさいキアラン、お前はディアの事となると分別を失くしてしまうのか?」

「……申し訳ありません」


お兄様を渋くして、大人の魅力をプラスしたようなお父様が、私の意見に同意してくれる。

おおぅ、余裕の表情に低音ボイスでお兄様を窘めるお父様、かっこいいぞー。


「ディア」

「はい、お父様」


私に向き直ると同時に柔らかい笑みを浮かべるお父様。

お兄様が度を越したシスコンなのに隠れてしまってるけど、実はお父様も相当私に甘い。


「今回の事はマティアス殿下が原因ではないかと聞いているが、どうなのだ?」



中々学園に戻れないのでお兄様が出ずっぱりです。

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