第9話 思い出してみましょ
俺たちはビュッフェ会場の空いた席に対座する。
シズエの皿にはタルトやケーキが所狭しと載っていた。一方、俺の前にもシズエから複製してもらったモンブランとコーヒーゼリーが並ぶ。
複製物は卓上をすり抜けて落下したりはしない。ということは、テーブル自体にも何らかの作用が及んでいるものと推測される。
「まーた難しいこと考えてる。リラックスだよ、リラックス」
シズエはブルーベリータルトをフォークでつつく傍ら、俺をたしなめた。
俺だってそうしたいのは山々だが、霊界の法則のほかにも新たな問題が飛び出してきて、頭が混乱状態なのだ。
まさかシズエが昭和50年代の生まれだったとは。
「シズエって、30年以上もたった一人で旅してきたんだよな」
「んー……どうだろ。ぶっちゃけそのうち半分ぐらいは寝てたようなもんだし」
これまた初耳だ。シズエによれば、意識がはっきりしてきたのはここ十数年のことらしい。
だからこそ、俺も同じように休眠状態から目覚めた霊なのだと勘違いしたのだ。
「けど、シズエは生前の記憶を失ったりはしてないよな」
「私は……逃げたかったよ。生きてたときの記憶から」
そんな顔をされたら、何があったかなんておいそれと聞き出せないじゃないか。
「でも、記憶のほうから追いつかれちゃったみたい。それが多分、私の目覚めた瞬間なんだと思う」
「そうだったのか」
「気ままに一人旅です~とか言って、今でも逃げ続けてるのは変わらないけどね」
無理に笑ってごまかすんじゃない。
「一人じゃないだろ、もう」
「……そうだね。うん。もう暗い話はおしまい! 甘い物食べて忘れよ!」
再びケーキを頬張りだすシズエを見て、俺はひとまず胸を撫で下ろした。
「さっきはごめんな。同年代だとか糠喜びさせて」
「早とちりはお互い様でしょ。むしろ大先輩として私のほうが謝らなきゃ」
「大先輩ね……」
改めて実感が湧かない。シズエと俺の間に親子ほどの年齢差があったなんて。俺の目の前にいるのは、少し大人びた顔立ちをした18歳の少女でしかないのだ。
「でもさ、ホントのとこリュウっていつ生まれなの? もしかして自分の誕生日も忘れちゃったとか?」
言われてみれば、わからないはずがないのだ。俺は24という年齢をはっきり覚えているのだから。
ちゃんと思い出せ。
「俺の誕生日は20XX年の…………10月26……――」
だめだ。なぜだか意識が途切れてしまう。俺は危うくテーブルに突っ伏すところだった。
「リュウ、大丈夫!?」
身を乗り出すシズエに、俺はすぐさま聞き返した。
「シズエ……今、俺なんて言ってた?」
「10月26日だって。リュウの誕生日」
「……そうか。覚えておくよ。ありがとう」
日付を聞いてもまるでピンとこないが、過去を思い出す手がかりにはきっとなるはずだ。
「リュウ、つらいなら今日はこのまま泊まってく?」
平気だよ、と返すも、シズエはどことなく腑に落ちなさそうな面持ち。俺は察した。
「俺をダシに使うんじゃない。最初からそのつもりで来たんだろ。オーシャンビューのシーサイドホテル」
「バレたか」
わざわざ遠出してきたんだ。たまにはリゾート気分にひたるのも悪くない。




