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しんじゆうしましょ -俺とシズエの364日-  作者: 真野魚尾
第一章 ネモフィラの咲く季節に

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第9話 思い出してみましょ

 俺たちはビュッフェ会場の空いた席に対座する。


 シズエの皿にはタルトやケーキが所狭しと載っていた。一方、俺の前にもシズエから複製してもらったモンブランとコーヒーゼリーが並ぶ。


 複製物は卓上をすり抜けて落下したりはしない。ということは、テーブル自体にも何らかの作用が及んでいるものと推測される。


「まーた難しいこと考えてる。リラックスだよ、リラックス」


 シズエはブルーベリータルトをフォークでつつく(かたわ)ら、俺をたしなめた。

 俺だってそうしたいのは山々だが、霊界の法則のほかにも新たな問題が飛び出してきて、頭が混乱状態なのだ。


 まさかシズエが昭和50年代の生まれだったとは。


「シズエって、30年以上もたった一人で旅してきたんだよな」


「んー……どうだろ。ぶっちゃけそのうち半分ぐらいは寝てたようなもんだし」


 これまた初耳だ。シズエによれば、意識がはっきりしてきたのはここ十数年のことらしい。

 だからこそ、俺も同じように休眠状態から目覚めた霊なのだと勘違いしたのだ。


「けど、シズエは生前の記憶を失ったりはしてないよな」


「私は……逃げたかったよ。生きてたときの記憶から」


 そんな顔をされたら、何があったかなんておいそれと聞き出せないじゃないか。


「でも、記憶のほうから追いつかれちゃったみたい。それが多分、私の目覚めた瞬間なんだと思う」


「そうだったのか」


「気ままに一人旅です~とか言って、今でも逃げ続けてるのは変わらないけどね」


 無理に笑ってごまかすんじゃない。


「一人じゃないだろ、もう」


「……そうだね。うん。もう暗い話はおしまい! 甘い物食べて忘れよ!」


 再びケーキを頬張りだすシズエを見て、俺はひとまず胸を撫で下ろした。


「さっきはごめんな。同年代だとか(ぬか)喜びさせて」


「早とちりはお互い様でしょ。むしろ大先輩として私のほうが謝らなきゃ」


「大先輩ね……」


 改めて実感が湧かない。シズエと俺の間に親子ほどの年齢差があったなんて。俺の目の前にいるのは、少し大人びた顔立ちをした18歳の少女でしかないのだ。


「でもさ、ホントのとこリュウっていつ生まれなの? もしかして自分の誕生日も忘れちゃったとか?」


 言われてみれば、わからないはずがないのだ。俺は24という年齢をはっきり覚えているのだから。

 ちゃんと思い出せ。


「俺の誕生日は20XX年の…………10月26……――」


 だめだ。なぜだか意識が途切れてしまう。俺は危うくテーブルに突っ伏すところだった。


「リュウ、大丈夫!?」


 身を乗り出すシズエに、俺はすぐさま聞き返した。


「シズエ……今、俺なんて言ってた?」


「10月26日だって。リュウの誕生日」


「……そうか。覚えておくよ。ありがとう」


 日付を聞いてもまるでピンとこないが、過去を思い出す手がかりにはきっとなるはずだ。


「リュウ、つらいなら今日はこのまま泊まってく?」


 平気だよ、と返すも、シズエはどことなく腑に落ちなさそうな面持ち。俺は察した。


「俺をダシに使うんじゃない。最初からそのつもりで来たんだろ。オーシャンビューのシーサイドホテル」


「バレたか」


 わざわざ遠出してきたんだ。たまにはリゾート気分にひたるのも悪くない。

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