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しんじゆうしましょ -俺とシズエの364日-  作者: 真野魚尾
第一章 ネモフィラの咲く季節に

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第8話 遠征しましょ

 10日目の昼どき。俺たちは電車に揺られ、遠征先へと向かっていた。


 俺はシズエと隣の座席に座る。平日だけあって車内は空いているが、仮に満員だったとしても幽霊の俺たちは場所を取らないので関係はない。


「今さらだけど、タダ乗りってのは気が引けるな」


「まだ言ってるの? これくらい霊割だって、霊割!」


「そんな学割みたいな……」


 シズエの言い分はともかく、俺たちが料金を支払うのは物理的に不可能なので、いいかげん割り切るしかなさそうだ。

 このあとの予定を考えればなおのこと。


「それにしても、霊ってのは乗り物にまで乗れるんだな。こうなると俺たちの身体に擬似的な重力とか摩擦力みたいな作用が働いてるとしか……」


「リュウは理屈っぽいなぁ。もっと直感で物事を(とら)えないと、身につくものも身につかないと思うよ」


 シズエから物体複製のやり方を習い始めて1週間が経つも、いまだ成果はなし。それはいい。シズエが苦心して編み出した技術が、一朝一夕で真似できるとは俺も思っていない。


 ただ、少々根を詰めすぎていたきらいがあるのは自覚していた。今日はそんな気分転換も兼ねての遠出であったわけだ。




 電車を降りた俺たちは、駅前で目的地への地図を広げる。


「シズエ、それ逆さまじゃないのか?」


「えーっ? でも私たちが来た方角がこっちだから……」


「違う違う! 今いる駅はここだって!」


「方向さえ合ってればよくない? リュウはホント細かいなぁ」


「それでよく今まで旅してこられたな……」


 ゴールデンウィーク直前の観光地は人もまばらで、そぞろ歩くには最適な時期だ。

 海浜公園や展望台――シズエの気まぐれに付き合って、つい俺までもが寄り道にうつつを抜かしてしまった。




 結局、お目当てのリゾートホテルにたどり着いたのは午後3時。ちょうどおやつ時だ。


「間に合った~」


 スイーツビュッフェの会場へ駆け込むシズエを、俺も早足で追いかける。


「そこまで慌てなくても。残りの時間はまだあるだろ」


「元になるもの食べ尽くされちゃったら複製できないでしょ」


 それはそうだが、メニューの補充ぐらいそのつどされるだろうに――という野暮はさておき、シズエの誘いがなければこんな場に来る機会はなかったはず。せっかくだし、雰囲気ぐらいは楽しんでいくとしよう。


「俺もご馳走になるとするか」


 そうは言ってみたものの、触れる物は片っ端から俺の手をすり抜けていく。

 皿一枚すら取り出せない俺をよそに、シズエは食器やケーキトングを素早く複製していた。


「いただきまーす」


 シズエは複製を行う際、毎回物に向かって手を合わせる。

 俺もそれにならって、きちんと礼を欠かさない。持ち主の許可なく物を頂いていることに変わりはないのだが、心情の問題だ。


 まあ、それを差し引いても、不法侵入の常習犯である俺たちがどの面下げてという話だとは思うが。


 ふとシズエの皿を見ると、真っ先にゲットしていたと思われるティラミスタルトが目に入った。


「シズエはティラミス好きなのか?」


「うん。小学校のとき流行ってて、今でもお気に入りみたいな」


 言われてみれば、俺もティラミスを初めて食べたのは平成後期――ちょうど小学生の頃だ。シズエが俺よりも数年前に命を落としたと考えれば辻褄(つじつま)が合う。


「へー、そりゃ奇遇だな。俺も同じだよ。まさかシズエと同世代だったなんてな」


 シズエの表情がぱあっと輝くのまでは予想できた。

 ただ、そのあとの発言までは想定外だった。


「えっ、そうなんだ! 懐かしいよねぇ、エリマキトカゲとかウーパールーパーとか」


「……ん? それは俺知らない……」


「ウソぉ! ホッピングとかローラースケートで遊んだりしなかった?」


「いや……ローラーブレードなら知ってるけど……」


 どうも話が噛み合わない。もしかしたら――と思いつつ、俺はおそるおそるたずねてみた。


「あの……念のため聞くけど、シズエが生まれたのって……」


「私? 昭和生まれですけど」


 そのとき俺が食器を持っていなくて本当によかったと思う。絶対に落としていただろうから。

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