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しんじゆうしましょ -俺とシズエの364日-  作者: 真野魚尾
第一章 ネモフィラの咲く季節に

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第6話 お着替えしましょ

 明けて3日目。

 今日もスーツ着たきり雀の俺とは対照的に、シズエは薄手のニットにワイドパンツという新たな装いだ。


「リュウも四六時中スーツじゃ落ち着かないでしょ。私がコーデしてあげる」


 俺を気遣ってくれているのかと思いきや、浮かれっぷりがしっかり表情に表れているのがシズエらしい。




 ()くして俺たちは散歩がてら服屋へと向かっていた。

 連れ立って歩く線路沿いの歩道には街路樹が植えられている。そのうち一本の根もとに、淡い青色をした可愛らしい花が咲いていた。


 ぼーっと眺めていた俺の視線にシズエが先回りしてくる。


「綺麗だね。リュウはなんていうお花か知ってる?」


「いや。残念ながら」


 スマホがあれば画像検索もできるのだろうけど、シズエが言うには精密機械などは複製できないらしい。おそらく再現するには物の構造が複雑すぎるんじゃないか、というのが俺の見解だ。


「正解はネモフィラでした」


「なんだ。知ってたのか」


「ちなみに花言葉は〝どこでも成功〟〝初恋〟〝あなたを許す〟だって」


「物知りだな…………ん?」


 俺はシズエの手の中にポケットサイズの本を発見する。背表紙には花言葉辞典の文字が堂々と躍っていた。


「カンペとかありかよ。それはそうと、本も複製できるんだな」


「うん。雑誌でも漫画でも作れるよ。リュウも欲しい? えっちな本とか」


 シズエは事あるごとに俺の動揺するラインを探るかのようなマネをしてくる。


「はいはい。そのうちな」


「えっ、ホントに? どんなのがいいとかリクエスト受け付けてますので!」


 完全に調子づいているシズエだが、仮に俺がえげつない本をリクエストしてきたらどうするつもりなのだろうか。

 今回に限らず多少の悪ふざけは大目に見るとしても、シズエにはどこかで釘を刺しておかねば、とは俺も思っていた。




 ややあって、俺たちは目的の服屋に到着した。ごく普通のメンズ服を扱うカジュアルショップだ。


 俺は無反応な自動ドアをすり抜け入店する。幽霊が律儀に出入り口を使う必要はないわけだが、生きていた頃の流儀を捨てきれない自分がまだいた。

 そうしないと、どんどん人間からかけ離れていってしまいそうで。


「トップスから行こっか。まずはTシャツだよね」


 シズエは張りきってそこらじゅうの服を剥ぎ取るように複製していく。当の俺は早速おいてけぼりだ。


「服なんて着れりゃなんでもいいよ」


「ダメー! そんなこと言ってるからリュウはモテないんだよ!?」


 いちいち俺の悲しい過去をほじくり返さないでほしいのだが。


「こっちのポロシャツとかどう? 似合うと思うんだけど」


「えー。ちょっとオッサンっぽくないか?」


 なんだか妙な感じがした。例えるなら母親の選んだ服を着せられる男子中学生のような気分だ。もっとも、俺は家族に関する記憶がないので一般的なイメージにすぎないが。


 俺の姿は更衣室の鏡に映らないので、確認は小さな手鏡だけが頼りだった。次第に面倒になってきた俺は、シズエのなすがままに着せ替え人形と化していく。


 そんなこんなで、時計の針はいつしか午後を回っていた。


「なぁ、もう十分だろ……?」


 俺は服の上下から靴やソックスまでを一新され、さらには数日分の着替えを詰め込んだリュックを背負わされていた。


「うーん……デニムとカットソーじゃ無難すぎるような」


 なおも食い下がるシズエのこだわりに俺は音を上げる。


「普段着に意外性とか要らないっての!」


「やっぱりあとワンポイントだけ――」


 そう言ってベルト売り場に行ったシズエの様子がどうにもおかしい。はじめは品物を物色しているのかと思ったが、うずくまったまま動いていない。


「シズエ……? ……おい、シズエ!」


 もし俺が生きていた頃だったら、きっとこう言うだろう――このときばかりは血の気の引く思いがした、と。

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