第26話 しんじゅうしましょ
俺はシズエと心を通わせられたことで、幸せとは何なのかを知った。
けれど、同時にいつまでもこのままじゃいられないこともわかっていた。
過去を認めて未練にも区切りをつけた俺たちが、どうして今でも現世にとどまっていられるのか。
答えははっきりしていた。俺たちを現世に縛りつけているのは、お互いに対する執着だ。
このいびつなあり方は、遠からず俺たちの心までをも人ならざるものへと変えてしまうだろうと、俺もシズエも直感していた。
「ねえ、リュウ。旅行の日程ちゃんと決めておかない?」
「そうだな。俺も同じことを考えてた」
旅立ちの日――シズエに言わせれば新婚旅行の初日――俺たちは一つの約束を交わした。
*
157日目。タツキとリユの墓参りをした。
159日目。シズエの墓参りをした。
185日目。山に紅葉を見に出かけた。
191日目。俺の誕生日をシズエと祝った。
195日目。一日じゅう愛し合った。
201日目。温泉めぐりを始めた。
224日目。俺を悪霊呼ばわりした僧侶と再会したが気づかれなかった。
243日目。ほかの幽霊と出会って話をした。
249日目。一日じゅう愛し合った。
257日目。初詣に出かけた。
295日目。雪合戦をして遊んだ。
318日目。一日じゅう愛し合った。
………………。
…………。
……。
そして、シズエと俺が出会ったあのときと同じ季節がめぐってきた。
*
364日目。
あたりを覆う一面の淡い青色はネモフィラの花畑だ。
「ここでいいんだな?」
俺がたずねると、シズエは桜色のスカートをひるがえして、花畑の真ん中へと駆けていく。
「うん。今日が晴れでよかった」
大きく伸びをするシズエの姿に、向こうの景色が透けて見え始めていた。
「なんだよ。もうお別れする気満々か?」
「リュウだって、さっきから頭薄くなってるよ」
「おい、もうちょっと言い方考えろよ」
俺たちは笑い合いながら、透き通っていく自分たちの身体を相手に寄せる。
「綺麗な光の粒になってサラサラ~みたいなの想像してたんだけど、実際はけっこう地味なもんだね」
お互いの存在を確かめるように、俺たちはもう一度抱きしめ合った。
「それにしても二人一緒に成仏なんて、まるで心中みたいだな」
「約束、忘れないでね」
「ああ。もしまた出会えたら、そのときは365日目を二人で祝おうな」
俺はシズエを、シズエは俺を見つめたまま、手を取り合う。
最期の瞬間まで俺の目に映っているのが、俺の手に触れているのがシズエであってほしいと願いながら。
二人で空色の向こうへと溶けていった。




