最終話 ネモフィラの約束
お目当ての高校に進学してから一週間が経つ。
放課後、私は友だちと三人で部活の見学をしに校内を回っていた。
私は中学から続けてるバドミントン部にするって決めたけど、ほかの二人はまだ迷っているみたい。
「料理部と茶道部楽しそうだよね」
「わかる。あたしも文化系にしようかな」
廊下を通り過ぎようとしたとき、ふと私の耳にアコースティックギターの音色が飛び込んできた。
音のほうを振り向くと、そこには軽音部の部室があった。
思わず足を止めた私に、友だちが不思議そうにたずねてくる。
「ミズエってバンドとか興味あった?」
「んー……なんとなく見ていこうかなって」
そう答えながら、私の手はひとりでに部室のドアをノックしていた。
「失礼します」
教室の中ではギターを抱えた新入生の男子と、部長らしき上級生が話をしていた。
「キミ、ギター上手いね。でもボーカル志望なんだ」
「はい。ゆくゆくはオリジナル曲も……――あっ」
机の上から一枚の紙がひらりとすべり落ちて、私の足もとへ飛んできた。紙を拾い上げる瞬間、私の目が書面の文字を映し出す。
入部届。氏名フリガナ――イヌカイ リュウイチ。
「これ、あなたのですか?」
私は吸い寄せられるように新入生の彼へ近づき、紙を手渡していた。ブレザーを着崩した彼の精悍な顔立ちに、どこか懐かしいものを感じながら。
「うん。ありがとう。君も入部希望?」
「私は見学に来ただけで……どうぞお話続けてください」
私は友だちと一緒に教室の隅へと移動する。
その間も私は彼から目が離せずにいた。この気持ちが何なのかを知りたい一心で、彼の一挙一動を見守っていた。
「それじゃリュウイチくん、よかったら一曲歌って聴かせてよ」
部長さんのお願いに彼が「はい」と返事をする。途端に私の胸が高鳴った。
「……あの! 私も聴いていっていいですか?」
突き動かされるまま願い出る私を、彼はまっすぐに見つめて。
「俺も。君に聴いてほしい」
その日、私は二度目の初恋をした。
〈了〉




