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しんじゆうしましょ -俺とシズエの364日-  作者: 真野魚尾
第二章 ミントブルーの追憶

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第20話 地獄の果てまでお供しましょ

 水槽越しに降り注ぐ青い光が俺たちを照らしていた。

 シズエは床に目を落としたままたずねる。


「どういう意味?」


「俺が悪霊だったのには、やっぱりそれなりの理由があるんだよ。嫌な予感しかないんだ。俺の記憶が戻ったら……俺が本性を現したら、きっとシズエを傷つけるだけじゃ済まないと思う」


 だからもう一緒にはいられない。

 死因を知るのは俺だけでいい。


 わかるだろ。シズエ。


 今すぐ別れようだなんて思ってはいなかったけど、ぐずぐずしていたら未練がふくらんでいきそうで。

 何も知らずに通り過ぎていく人の波にまぎれて、俺はこのまま去って行こうかとも考えた。


「あのさぁ」


 シズエは発するなり、俺の方へつかつかと歩み寄ってきた。


「なんかカッコつけたこと言ってるけど、結局私に嫌われたくないだけだよね?」


 呆気にとられた俺は何も返すことができなかった。

 シズエは俺を正面に見すえたまま、片時も目を逸らさずにまくしたてる。


「自覚ないみたいだから教えてあげる。リュウって割とわかりやすいタイプだから。この際はっきり言うけどリュウ、私のこと好きだよね?」


 俺が気圧(けお)されてしまうほどにシズエは堂々としていた――ある一点を除けば。


「それはいいが……耳真っ赤にしてまで言うことか?」


「ほらぁ! そういうとこ!」


「いてっ」


 これは俺が大人げなかったか。シズエに肩を小突かれたが、文句は返せない。


「リュウがいくじなしだから私がこんな頑張んなきゃいけないんだからね!?」


「それは……そうだな。なんかごめん」


「今回は許す。以後気をつけるように」


 シズエはふと立ち上がると、俺の腕に身をからませてくる。

 正直めちゃくちゃ気恥ずかしい。だけどシズエのまっすぐな想いに触れた今、すぐに振りほどくのも不実に思えた。




 その後、俺たちは連れ立って水族館の売店へやって来ていた。


 売り場には定番のぬいぐるみから文房具、Tシャツや缶バッジまで、目移りするほどのお土産グッズが並んでいる。


 あれが欲しい、これも可愛い――とりとめのない話をしながら、一通り店内を回った頃、突如として話題が蒸し返される。


「でさぁ、どうなの? 私に対する気持ちは? 認めるわけ?」


 シズエはすっかり開き直ったようだ。俺から言質を取ろうと小悪魔モードで迫ってくる。


 俺は迷っていた。実年齢はともかく、シズエの見た目は18になりたての高校生のままなのだ。

 また、それ以上に俺はシズエの存在を、顔も思い出せない妹に重ねているだけなんじゃないか、という疑問がぬぐえないでいる。


「記憶を取り戻すのが先だ。不完全な俺のままじゃ発言に責任が持てないからな」


「リュウは真面目だなぁ。さっさと流されちゃえば楽なのに」


 おいやめろ。俺の理性をゆさぶるんじゃない。


「本当に俺について来てもいいのか? 死ぬ前にさんざん悪さしたろくでもない男かもしれないぞ?」


「えー。今さら幻滅したぐらいでリュウのこと見放したりしないし」


「幻滅する前提かよ……」


 苦笑いする俺に、シズエの強い眼差しが注がれる。


「今までリュウにはいっぱい助けられてきた。そういうのなかったことにできるほど私、薄情な女じゃないから。見くびらないでほしいんですけど」


 こうまで言われては、俺も腹をくくるしかない。


「シズエは強いな。尊敬するよ」


「尊敬もいいけど別の気持ちも欲しいな~、なんて」


「……代わりと言っちゃなんだけど、これやるよ」


 俺はこっそり複製しておいたペンギンのキーホルダーをシズエに手渡す。ブルーとピンクのペアになったぬいぐるみマスコットだ。


「ありがとう。この模様、マゼランペンギンだね」


「へえ。詳しいな」


「んふふ」


「……?」


 よくわからないが、シズエが嬉しそうなら俺も満足だ。ちょっと遅めの誕生日プレゼントは――このときは思いもしなかったけど――俺たちの門出祝いも兼ねていたのかもしれない。


 願わくばもう少しだけ、この夏休みが続いてくれればいいのに。


 そう思っていたのに。

 運命の秋を待たずして、失われた過去はむこうから俺を連れ戻しに現れる。




 『妹? あんた、……の兄貴か!?』


 夢の中で、あの男の耳ざわりな声が鳴り響いた。

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