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しんじゆうしましょ -俺とシズエの364日-  作者: 真野魚尾
第二章 ミントブルーの追憶

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第13話 続・思い出してみましょ

 シズエの助けもあって、俺は複製の技を身につけた。

 もちろんそれがゴールでは決してない。俺の目的は記憶を取り戻すことであって、そのための手段を増やしただけなのだ。


「シズエ、ちょっとコンビニ寄ってもいいか?」


「えー。おにぎりなら昨日も食べたでしょ」


「一回食い物から離れような?」


 調査のため、俺はあらかじめ()(せん)やクリップ、ハサミなどの小物を複製しておく。

 もっとも、俺の複製スピードはシズエに遠く及ばない。シズエなら一瞬で完成させてしまうところを、物によっては数分かかることさえザラだ。


「私も手伝おっか?」


「気持ちだけもらっとくよ。練習もしておきたいしな」


 本音としてはもう一つ、シズエにばかり負担はかけたくないというのもある。また倒れるような無茶はしないと思うが、一日に使える心の力、霊力には限りがあるのだ。


 仕組みが複雑な物、あるいは単純に大きな物ほど再現するのに多くの霊力を消費する。

 極端な話、家をまるごと複製したりするのは不可能だ。仮にできたとして持ち運びの問題もつきまとう。霊能力といえども万能ではないのだ。


「……よし。待たせたな、シズエ」


 複製の手応えとともにのしかかる疲労感は、教習所で初めて車を運転したときの感覚に似ている。じきに慣れていくだろう。


 ピンクの日記帳とミントブルーのペンが入ったカバンのポケットに、俺はクリップ類をしまっておいた。



  *



 シズエとの旅を始めて34日目。


 ここ数日はアパートの空き部屋に毛布を持ち込んで寝泊まりしていた。何をしているかというと、俺が死んだ時期の特定作業だ。

 具体的には、近くの図書館で新聞や雑誌のバックナンバーを複製し、その当時の出来事や話題を調べていく。


「8月分は終わりだね。次こっち。まとめておいたから」


 好奇心旺盛なシズエは自分でも記事を拾い読みしながら、調査に協力してくれている。


「助かるよ。さて、ここからは腰をすえて読むとするか」


 俺が何気なく写真週刊誌をめくると、色っぽいグラビアページが目に飛び込んできた。

 しかも、その瞬間をシズエにばっちり見られるというオマケ付きだ。


「あっ……私席を外しますんで、ごゆっくり」


「変な気遣いはやめろ! たまたま載ってただけだ!」


 ――といったハプニングはさておき。


 去年の前半に起こった事件、芸能ゴシップ、話題になった映画などは俺もよく覚えていた。

 だが、季節が秋へと差しかかるにつれ、記憶が曖昧になっていく。年末のニュースにいたっては、見たことも聞いたこともない出来事ばかりだった。


 最終的に一つの仮説が導き出された。


「俺が死んだのは、去年の9月から10月あたりの可能性が高いな」


「私と会ったのが2か月前だから、リュウが霊として目覚めるのに半年ぐらいかかってるね」


 シズエほどではないが、俺にも空白の期間が存在していたことがわかる。

 たとえば現世に対する強い未練が、覚醒までの時間を早めたと考えるのは早計だろうか。


「……悪霊、か」


「えっ?」


「恨みとか憎しみとか、そういう感情が俺を目覚めさせたとして、悪霊呼ばわりされるのもうなずけるなって思っただけだ」


 そのくせ肝心の内容は忘れているのだから、なんとも間の抜けた話だ。

 シズエは俺をじっと見つめたあと、ぽつりと漏らした。


「なんか卑屈でヤダ。リュウらしくない」


「そう言われてもな……」


 記憶喪失になることで、生前に犯した罪や責任から都合よく逃げてるだけなんじゃないか――そんな俺の内心を見透かされた気分だった。


 シズエがしょんぼりとした顔をしているのは俺も嫌だ。たとえ過去から逃げたのだとしても、シズエの気持ちからは逃げたくない。


「シズエは俺を悪霊だと思うか?」


「思わない。もしリュウが誰かを憎んだり、罪を犯したんだとしたら、それはリュウの優しさが裏目に出ただけに決まってるから」


 驚いた。口を開けば小言と説教ばかりの俺が優しいだって?


「シズエはずいぶんお人好しだな」


「信用できない?」


「そんなことはないが……」


「気づいてる? 最近リュウ、道でワンコとすれ違っても吠えられなくなってきてる」


 言われてみればそんな気もするが、俺の邪気が薄れてきたせいだとでも言いたいのだろうか。

 だとしたら、それはシズエのおかげだ。


「どこかの能天気と一緒に暮らしていたせいで、悪霊も浄化されてきたのかもな」


「そうそう。リュウは余裕で構えてたほうがカッコイイよ」


 俺もそんなふうにシズエが笑顔でいてくれたほうが……可愛いと思う。


「リュウ、どうかした?」


「あ、えーと……秋ごろだったな。俺が死んだ時期ってのは」


「そういえばリュウの誕生日も秋だよね、10月26日」


 記憶が定かならば、俺は入社3年目の24歳だ。つまりは誕生日を迎えずに死んだことになる。

 おそらくはその近辺に、俺を死して悪霊へと変えた何かがあったのだ。


「楽観的かもしれないけど、その時が来れば自然と思い出せそうな気がする」


「じゃあそれまで私もリュウと一緒にいてあげるね」


「ああ、よろしく頼む」


 とはいえ、俺もただ黙ってその日を待つつもりはなかった。

 死んだ時期に関しては見当がついた。そうなれば、次に気になるのは死んだ場所だからだ。

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