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「なんと、聾丹を焼いたのは貴方方なのですか?!」
「落ち着かんね。この子らは成り行きじゃ、焼いたのは制御できなくなったドラゴンじゃろて。それにの、人が下さずとも裁きは自ずと受けるわ」
ハルちんに諭されてリョウイは興奮した口を結ぶ。他人から見れば、ドラゴンを操縦していたディーオンと仲間になったとなれば、僕達は犯罪者と見られても致し方ない。そうなることを理解しつつ、ディーオンを受け入れたのだ。
「むう、それにしてもギルドの会長も困ったものじゃが、魔物が現れたとなると話はさらに困ったもんじゃの」
ハルちんは困ったそぶりを見せずに茶を啜る。
「魔物ってのはそんなに強いのか?」
魔物のことを知らないカンネイが前のめりに訊ねた。僕もよくは知らない。
「強い弱いの前に、魔物は魔術でしか殺せんからの。この国では魔術が抑止されておるし、魔術を使えたとしても高齢者ばかりじゃしのお。もし魔物に侵入されれば、わしらのようなスキル持ちでしか殺せんから、大量の死人が出ることにはなるの」
「じゃあ本当なら早く手を打たなきゃならねぇんじゃないのか?」
「じゃから困っとるんじゃろて」
オジさんは、仲間を集めて魔物を斃すと計画していたが、三十人にも満たないスキル待ちでなんとかなるのだろうか。あの黒い剣を持った魔物は、ゾンビを従えていたし、数の暴力でなすすべなく、ラジエルのようになるのではないか。そんな不吉な未来を予想してしまう。
「魔物の真意に関してはギルドが調べます。今はそれよりも、いち早くアイキ様を見つけ出さなければいけません」
リョウイが切迫している話題へと切り替える。魔物との単語を聞いて顔を青くしていたラジエルが、ようやく話に入ってきた。
「その……アイキ様は囚われているのですよね?」
「ええ。宮の奥にいるのは分かっているのですが、そこまで入り込める人材がいないので、それ以上の情報が入ってこないんです」
「あっ……ですから私達が?」
「はい。あなた方に宮へと侵入してもらいます」
「僕たちがって、そんな簡単に入り込めるものなんですか?」
「アイキ様は三日後に結納なさるのです」
「結納?!」
カンネイが大声を張り上げたが、リョウイに睨まれ肩をすくめた。
「その結納式に必要な催しものの旅芸人として入ることになっています。そのための偽造証明書です」
「どなたと結納なさるんですか?」
「現国主である、コウサイです」
現国主の名前を初めて聞いた気がする。カンネイも皆、名前を憚るようにしていたせいだろう。
カンネイがなにやら腕に筋を立てて震えているが、僕は触れないようにした。
「ま、そこはギルドの仮会長であるわしも出席するから、不都合なことがあっても対応できおうな」
「不都合といえば、問題はまだあります。今朝から因縁をつけてきているあの教会員です」
僕のせいで引き連れてきてしまった問題に、居心地が悪くなった。
「あやつは何者ぞ?」
「あれはおそらく教会の軍部に身を置く長槍のカベージではないかと」
長槍のカベージ。僕は頭の中でその名を転がす。脇腹が痛みを取り戻すように躍動した。
「やり返すべきだったよ」
女子の幻聴で過去に同じことを言われたことを思い出す。たしか、小学生のころに突き飛ばされた時だったか。僕は涙を目に溜めて睨むだけで、やり返しはしなかった。やり返せば、同じところまで堕ちるのを知っていたから。知っていたつもりだったから。僕が我慢すれば、そこで因縁は絶たれるのだ。
「二つ名があるとは、部隊長かの?」
「はい。粛清者としての名も高い人間です」
二人の会話に耳を戻すと、聞き慣れない単語がでできていた。
「粛清者ってなんですか?」
陰気を取り払うように訊ねると、より陰気な空気が流れる。ハルちんは他言無用じゃぞ、と話しだした。
「粛清者とは、天命の恩恵を受けて生きている者を殺す者のことじゃ」
「天命の、恩恵?」
「うむ。ギョームが制定したこの国は死に関わる不幸が訪れないのじゃ、例えば自然災害じゃと、奇跡的に人間に死傷者はでず、重度な病気じゃと、死ぬことなく完治するとかじゃの。ま、寿命を不健全に全うすると言えばいいかの。しかし、それらの不幸は全てノルン国外にいる者たちへと訪れる。おぬしらは外の光景を見てきたのではないかの?」
あの光景が人為的なのは知っていたが、不条理が外へ向かう仕組みは知らなかった。つまり、予期せぬ死を賜る人達がこの国では老衰でしか死なないってことか。
でもそれじゃあ、呂樹の貧困な現状はどうして出来上がっているんだ? 人為的だから? そんな疑問はハルちんの声がかき消した。
「教会の奴等はどうやってかは知らんが、国内でその恩恵を受けて寿命以上に生きている人間を見つけ出しては粛清しているのじゃ。それが粛清者じゃ」
「執行者……もどき」
ラジエルがぽつりと呟いた。おそらく、聴覚過敏な僕にしか聴こえていない。
「横暴であろう? じゃが奴らは教義により、元ある正しい世界に戻しているだけだと主張するじゃろう。それに粛清対象を人ではなく動く死体とみなしておるから罪悪感のカケラも持ち合わせておらん。部隊員は全員がその理念をもとに動いておるし、部隊長はその指示を仰ぐ者じゃ。関わり合いにならんのが最善策じゃな」
教会とは関わらないほうがいいと、オジさんが言っていた意味が説明を聞いてようやく分かった。
「邪魔してくるなら力尽くでなんとかすればいいんじゃねぇか?」
すぐに暴力的な発想に落ち着くのがカンネイ。まあ、すでに話し合いで落とし所を見つける段階は過ぎているから、その発想に至るのは仕方のないことかもしれない。
「この中であの訛り男に勝るとすれば、わしくらいじゃな。おぬしらは致命傷に気がついた頃に死んでおる」
「はっ」
カンネイは鼻で笑う。華奢で戦闘も知らなそうな美少女に上から目線で言われたら、力自慢ならば誰だってそんな態度にはなる。
僕はハルちんが見た目では計り知れない力を秘めていることを知っているので、カンネイが教育されるのを黙って見ることにした。
「カンネイとか言うたの? ちょいとわしを投げ飛ばしてみい」
ハルちんは立ち上がり、客室の空いている部分まで移動し、ほれ、と腕を伸ばす。カンネイは不敵に立ち上がり、遠慮なく腕をとって投げ飛ばそうと腰を入れた。
「あ?」
転がっていたのはカンネイで、喉に手刀を突きつけられている。腰を入れたカンネイが空中で一人でに回転し、床に叩きつけられた。その様にしか見えなかった。やっぱり、これはハルちんのスキルなのだろうか?
「スキルではないぞ、体術じゃ」
僕の頭の中を看破しながらハルちんは手刀を納めた。
「こ、こんなの不意打ちだろ!」
「不意打ち結構。一撃一殺の場でわしが殺気を出さずに獲物をもっとったら、おぬしは死んでおったってことじゃぞ。あの訛り男はそれができる、と見込んでおる」
カンネイは武でも論でも手も足もでずに押し黙った。
「ま、関わるであろうおぬしら二人は、城へ入るまでわしがみっちり鍛えてやるから安心せい」
語尾にハートマークがついているくらい甘ったるい声のハルちんに怖気がした。どうやらカンネイも同じで、顔を青ざめさせていた。




