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「えっ、ハルちんギルドの会長になったんですか?!」
ギルドが所有している屋敷の客室に案内され、スクエアテーブルを囲む席に着いたところでラジエルは追及した。
室内には僕とラジエルとカンネイ、ハルちんとリョウイがいる。一緒に呂樹へ入ってきたギルド員は、荷解きや、今後の準備のために別れた。
「いやの、手伝っておっただけなのじゃが、いつの間にかあれよあれよと、なっとったんじゃ」
客室に来る途中、人数分の茶が入った湯呑みを持ってきたハルちんは、一口口をつけてからそう言った。委員長気質のラジエルの眉が吊り上がるのを、僕は見逃さなかった。
「もっとちゃんと説明してください! 連絡を取る手段がなくて困っていたんですからね!」
腰を浮かせて、ハルちんに唾を飛ばすラジエル。なにやら、呂樹で執行者全員が落ち合うと決めたのはハルちんらしく、記憶喪失になったことを棚に上げつつラジエルは憤慨している。
「ハルジノーネ会長は元々地区会補佐役だったのです。本来ならば補佐役で留まることのない飛び抜けた才を持っておられますし、前会長と懇意の仲でもあります。我々が無理にお願いしたのです」
リョウイが諭すと、ラジエルは浮かせた腰を落とした。どうやら憤懣を飲み込んだようだ。
「前会長とは盤棋仲間なだけじゃし、わしにあれ以上は務まらんて」
「なにを仰いますか。ハルジノーネ会長がいらっしゃらなければ、呂樹支部はギルドとしての形を無くしていたでしょう」
「それは……そうかもしれんがの」
ハルちんとリョウイの表情に小さな影がさす。
「……なにかあったんですか?」
知りたがりの僕が訊ねると、リョウイがこちらを向いた。
「法改正によりギルドのクエストの中に国指定のものを追加できるようにしたのです。そうすることで、すべてのクエストの報酬に、税をかけることができるようになったんです。簡単に言えば、権利侵害ですね」
「クエストに関しては、ギルドを通してのやりとりが契約じゃ。そういう契約のもとで貿易の品々や、討伐や伐採に付与する諸税に関しては既に払っておる。じゃのにクエストに税をかけられると、二重に払うことになるのじゃな。そうなると、クエストの報酬も減り、クエストを受けるものも減る。さすれば利安で単純なクエストも減る。そうやって金の巡りの循環が悪くなるのじゃな」
民間企業に国が介入してきて、利上げを吸っているせいで、庶民が苦労しているって認識であっているだろうか。
「前会長と副会長は、ギルドの総意のもと呂樹国主ら中枢へと告訴しましたが、謀反の恐れあり、と投獄されたのです」
「けったくそ悪いぜ」
カンネイが苛立ちながら茶を飲んだ。僕もそう思う。カンネイから聞いた呂樹より外の話、今聞いた話、国民を縛りつけて国が荒んでいても見て見ぬふり。むしろ、より国を荒れさせている。
呂樹内は綺麗だ。今まで通ってきたどの町よりも綺麗だ。店先はゴミ一つなく、柱の塗装が剥げていることもない。目抜通りは活気があって、人々はそこはかとなく笑顔であった。ただ、皆本気で笑っているようには見えなかった。見てくれだけが、綺麗。
リョウイは続ける。
「前憲法改正でギルド内部に設置された部署の役人が、国の命令でギルドの会長に抜擢されようとしたところに、ハルジノーネさんを擁立したのが今の現状です」
「わしは表立ってなにかするのは嫌だったんじゃがの、こ奴らに泣きつかれての。内政でてんてこまいじゃよ」
ハルちんは肩に手を置いて首を回す。仕草が年寄り臭いなんて口には出すまい。
「……ではすぐに旅立てないという訳ですね」
「ん、まあそういうことにはなるの」
「オジさんも、ハルちんも、目を離すとすぐ好き勝手して困ります」
ラジエルは頬を膨らませて腕を組んだ。こちらは怒った仕草が幼いなんて、口に出せるわけもなく。
「おお、そういえば阿保弟子のむさ苦しい図体が見えんの? 逸れたのかの?」
「オジさんは……」
ラジエルはリョウイとカンネイを一瞥する。二人に不正者のことを話しても良いものか戸惑っているのだろう。
「よいよい、他言無用言うても人の口に戸は建てられんて。それにリョウイは信頼できる」
と言いつつカンネイを見やるハルちん。
「カンネイは浅慮ですが、信用に足る存在です。私が保証します」
リョウイがカンネイの信用を担保すると、カンネイの口元が少し緩んだ。たしかにカンネイは馬鹿だけど、仲間の情報は一切漏らさなかった。
ラジエルはここまでの道中でオジさんと別れるようになった出来事を話した。




