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錦会と結託して一週間後、ようやく呂樹近郊の麦村に辿り着いた。広い田園の中にある村で、呂樹近郊でまだ廃村になっていない稀有な村だが、それはギルドが裏で手を回して税を賄っているかららしい。この村から呂樹は半日もかからない目と鼻の先なのに、膝下の不正に気がつけないほど、呂樹の権力は呂樹内だけに縛られている証拠だった。
ギョームが作ったこのノルン国という箱庭を、さらに小さくし、締めつけを強くすれば、国の庇護を失った多くの民はまともに生きれない。現に、道中でよくよく思い知らされた。
「麦村の村長、シュウです。お話は伺っております、どうぞ中へ」
三十代くらいの若い村長が出迎えてくれて、宿になる家へと案内してくれる。中にはシュウと同年代くらいのお淑やかな女性と、女性に寄り付く男児がいた。事前に個人の家だと聞いていなかったら驚いていたところだ。
僕らはこの家でしばらく住まうことになっていた。呂樹の中に入るためには、中の人物と何度か連絡しないといけないらしい。
挨拶のあと、久しぶりにお腹に溜まるご飯を食べた。母親の代わりにラジエルと一緒に食器を洗っていると、カンネイが男児と打ち解けようとしたが、風貌が悪人面なので男児が僕達のところへ逃げてきた。
「突然お邪魔してごめんね。あの怖いお兄ちゃんが君を怖がらせたら僕に言ってね、叱っておくから」
膝を曲げて微笑むと、男児は目を瞬かせた。
「あのお兄ちゃんより強いの?」
体格から性格までなにもかも劣っているのだけども、僕はカンネイよりも強い。最初の会敵だけではなく、ここまでの道中で試合形式の再戦を挑まれたが勝った。
「うん。あの人が泣いて謝るくらいには強いよ」
だから自信をもって言えた。男児は嘘だあ、と疑念が乗った明るい声を出す。
「じゃあなんで食器洗ってるの?」
雑事は基本内仕事をする女性の仕事なのが呂樹の常識だ。階級社会がある以上、そういう概念があるのは別に構わないが、自分の身の回りのことを自分でできないのは、僕はもどかしく感じる。
「手が空いている時間があるなら、自分で使う道具くらい整備できないとね」
そう言って立ち上がり食器を洗いなおす。ラジエルのおかげで話している間にあとは濯ぐだけになっていた。男児はなにやら考えたあとに、一緒に食器を濯いでくれた。
「おい明日、俺を小物みたいに言ってくれたな」
居間へと戻ると、カンネイが近づいてきて脇に手刀を突き入れられそうになったのを払いのける。
「大物なの?」
「いずれはなるさ。だから箔を削ぐことを吹聴するな」
不敵にいうカンネイは本当に大物になりそうな雰囲気はあった。実際彼は、錦会の幹部であるし、武闘派集団の隊長の一人でもある。錦会の悲願が成就した暁には、それなりの地位にはつけそうだ。
「まあ考えとく。それよりも、僕達はどうやって中に侵入するの? 荷物の中に紛れたり?」
「にんべん師が身分証明書を作ってくれるんですよ」
話を聞いていたシュウが参加してくる。
「偽造証明書を作る人の総称です」
にんべん師とは? と顔に出ていたようで、ラジエルが教えてくれた。
「証明書の肝となる番号は、様々な理由で空番号になる時があります。その空番号を割り振った証明書がギルドの商人を通して、二日後に届くことになっています」
「空番号が生まれるのもそうだが、それを商品として売買しているのを容認しているんだぜ。ま、そのおかげで潜入できるんだけどよ」
身分証明書は呂樹では人権に等しい。それを商品にするなんて人の命を踏みにじっている。拳を強く握ってしまうが、僕の目的は政治を糾すんじゃない。呂樹内にいるハルジノーネさんと、アイキさんを見つけることだ。
「明日は義憤に駆られるタイプじゃないもんね。合理的にいかなきゃ」
誰にも聞こえない声と共に、目の奥底が痛んだが、気に留めることはしなかった。
予想通り、二日後にギルドの商人がシュウの家へやってきた。シュウは商人と暗号伝聞でやり取りして、蓋つきの箱を受け取った。
商人が帰り、受け取った箱を居間まで持ってきて、蓋を開けると、中には身分証明書が三枚入っていた。
「どうやら三枚しか用意できなかったみたいですね」
シュウの言葉に五人で顔を見合わせた。だが話し合うこともなく、僕とラジエルとカンネイが使用することになった。ケイサイとチュウタツは、門前までの護衛である。
ただ、一つ問題が発生した。身分証明書の二枚が女性用だったのだ。




