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カンネイ達が加わっている反政府組織の名前は錦会という。流民でない人々からは襤褸賊と呼ばれていたところ、蔑称が気に入らないので、襤褸と対照的であり、錦という清廉さを国に突きつける意を込めてその名に決まったという。
錦会は呂樹へ近づくにつれ規模が大きくなった。それほどまでに呂樹近郊の村が無いことを意味するので、言葉で聞くよりも悲惨な光景が広がっていた。
道中では野犬が人の腕の骨を持って走り去るし、着る物も持ち物もない屍体が藪のなかにあったりと、人が出入りするからこそ、外で見た、時が止まった村よりも生々しい。
皮が張っただけの骨ばった子供達が近づいてくるも、カンネイは追い払うのを徹底した。そうしなければ、無限に付き纏われるからであり、一時の施しが、その子供のためにならないからでもある、らしい。いずれ、近づいただけで問答無用で袋叩きにされることになる、とカンネイは言う。村の警備兵だったカンネイが、そう対応せざるおえなかったのかは、知らない。ただ、僕が見てきた現実では、目に入らなかった知らないことが多すぎた。
稀にすれ違う商人の馬車は、厳重に国の警備兵が取り巻いている。また、錦会ではない野盗がそういった馬車を襲い出す瞬間を遠巻きに目にした。
助けたかったが、僕達は面倒ごとに巻き込まれるわけにはいかないので、道を変えて、影に徹して呂樹への距離を縮めていった。目指すは麦村である。
麦村に向かったのは、僕、ラジエル、カンネイ、チュウタツ、ケイサイの五人だ。ディーオンは身重の身のためにチョウビ達に任せてきた。ディーオンも脂汗かく顔で渋々承諾済みである。
出発前、ディーオンのお腹は鎧が着用できないほど大きくなっていた。まさか数日でそこまで大きくなるとは思ってもいなかったので、誰もが不思議がっていた。
卵が産まれる事実は、ディーオンが伝えるべきだと話し合っているので、僕たち以外誰も知らない。彼女は天にもう一度認められたのだから、村の人々を存外に扱わないだろう。ディーオンは、必ず追いつく、と見送ってくれたので、僕は信じてみようと思っている。
「俺は現地の人間だけど、こいつらの親は移民なんだよ」
道中の野営地で、カンネイがチュウタツとケイサイをさす。魔物が消え、ギョームが国を制定した時、外からの移民を多く取り入れた。国境が山で塞がれているとはいえ、呂樹はノルン国北部や西部よりも入国しやすく、移民の数が多いらしい。
当初は移民のために首都ノルンから経済援助を得ていたが、国官の着服が多岐に及び、露呈してたので経済援助の額が減少し、ノルン国から制裁をうけた。そんな自業自得を棚に上げて、より移民から搾取できる手段を沢山実行した結果、この時代になったようだ。
まず第一世代の移民を住宅、就労補助を謳い文句にして首都近郊に住まわせた。当初は個々人に課せられる税は軽い税であったが、月が経つほどに個人の税率を上げていき、税を払えない家人を賦役にし、呂樹内の奴隷にする。その実態が時が経つにつれて明らかになった。そして空いた家に、また新たに地方の移民を入れる。その繰り返しだ。
第二世代、カンネイ達はその事実を知っているので、国は村全体の税率をあげる政策をした。賦役に行く者の数が増え、帰ってくる者はいなかった。村は成り立たなくなる。これが現状。
賦役から帰ってきたものはいないので、この国の奴隷は働き手ではなく、人権のない道具でしかないようだ。世界史で習ったことが、目の前で起こっており、それがあまりにも残酷すぎて、まだ漠然としか受け入れられていない。
寝ても覚めてもしばらく、この国はどうすればよかったのか、との考えが頭から離れなくなった。
「俺らの親の世代は移民を忌み嫌っていたからな。この土地に元から住んでいるのに、移民には補助があって自分達にはないって、いつも愚痴ってたぜ。で、村の中で対立が起こるんだよ。そうしていれば目の前の簡単な敵に集中して、本当の敵が目に入らなくなるんだ」
また次の日の道中で話してくれたカンネイは、昔日に怒りと虚しさを乗せていた。ラジエルさえも知らない細かい情報と、そんな悲しいことを話させてしまい、僕は感謝した。
するとカンネイは、お前はいい奴だな、と背中を強く叩かれた。その力強い感謝がハクを思い出して、胸が痛んだ。
彼は今、あの魔物と戦っているのだろうか、オジさんは剣岳砦に辿り着いたのだろうか。教会のこと、ハルジノーネさんのこと、アイキ救出のこと。屍体、腐敗、暴力。見聞きする現実と現状が、チリチリと胸の中にあるなにかを削っていく。
「この世は奪うか、奪われるかだぞ」
道中で死に体の痩せこけた猫が、枯れた鳴き声でそう言った。




