042
「俺の名前はカンネイで、こいつがチュウタツで、さっき走って行ったのがケイサイだ」
僕達が契約を受け入れ町から踵を返すと、すこし進んだところに、昨日の小柄な男二人が道の石垣に座り込んで待っていた。カンネイは一連の出来事を報告すると、ケイサイが素早く駆けてどこかへ行ってしまった。あれは確かカンネイに投げ飛ばされたほうの男だった気がする。
「僕は明日。こっちがラジエルで、そちらがディーオンさん」
互いに自己紹介をするのは、ラジエルもディーオンもカンネイを訝しんでいるからで、カンネイ側も、金的をして顎を砕いたチュウタツが、怯えた目で僕を伺っているので、カンネイが間に挟まってくれている。
「俺達は流民なのは見たら分かるわな。んでだ、昨日みたいなことをしないと、明日の食い扶持もないんだわ。ああ、別に行動を正当化したいわけじゃないぜ。俺は戦うのは好きだが、ほとんどの奴らは畑耕したり木を切ったりするのが似合っている奴らだ。そんな奴らも追い剥ぎをしなきゃ生きていけない時代ってことを言ってるだけだ」
そうカンネイは言うものの、ラジエルはいい顔をしていない。犯罪は犯罪との表情だ。僕も犯罪だとも思う反面、思考が回らなくなり、どうしても生きる為なら犯罪を犯す気持ちは分からなくもない。おそらく、カンネイたちが流民になった理由は。
「税……」
「旅人でも知ってっか。そうだ、馬鹿げた量の税を払えなきゃしょっ引かれて、ドキツイ賦役か刑場行きだ。だから村を捨てて流民になる。捨てた田畑は国に差し押さえられ、地域産業は止まる。だがそこに次の誰かが住むわけでもない。国が土地だけを所有しているが、なにも活用しない状況だ。それならと村に帰ろうにも、律儀に定期巡回がやってきやがり、不法者を狩りやがる。で、中央は富国ときたもんだ。明日、旅人目線でどう思う?」
「鬱憤は溜まるね」
税とは目的を持ち、国を回すためにあるもので、中央だけが潤っているならば中央以外は国とは認めていないとも考えられる。しかも、差し押さえたその土地を利用しないのが、意味がわからなかった。
廃村は人が死んだからいなくなったんじゃない。人が居られなくなったから廃れたのは本当なのだろう。納得していると、カンネイは強く舌打ちをした。
「憤懣だぜ。この国は中央に一過集中し、なにも還元されない中央近くから潰れていく。元国民は呂樹へ入るか、中央の手が薄い地方の町に逃げるしかない。だが全員が全員そうとはいかない。俺らはどちらもできず、こうしてその日暮らしさ」
「それは……辛いね」
なんと声をかけたものかと絞り出した言葉はありきたりだった。それでもカンネイは悪い顔せず、だろ? と、強かに頷く。彼は義憤で動ける人のようだ。
「でも、どこに住んでいるの?」
「巡回のない廃村を転々としている。今向かっているのもそこだ」
定期的に巡回があるなら、宿を転々とすればいいわけか。すぐに家々を離れることになるだろうし、家財を持って旅をしなけらばならないから、善い考えとは言えない。それでもやらなければ生きられないのだろう。
「どうして昨日はあの村に?」
「木材を運ぼうとしていたんだよ」
人の通りが少なくなっていくことで、いつの間にか主道から外れていることに気がついた。
「廃村に人が出入りしているって噂にならないの?」
「そりゃあな、利益になる締め付けの行動だけは早いから、抜き打ちで巡回をする時もある。ただ俺達も馬鹿じゃない。巡回の情報を掴んでいるから来る前に逃げ出せるってもんよ……なあディーオンのねえちゃんは大丈夫か?」
最初は前を歩いていたディーオンは、僕と並走するくらい歩速を落とし、今では最後尾にいる。今朝はまだ血色の良かったほうだが、昨晩のように青白く、目線が地面に向いて歩くことだけに集中しているようだ。僕が足を止めると、おもいっきり背中にぶつかられた。
「ああ、すまない」
よろよろと僕を避けて前進するディーオンの腕を掴むと、いとも簡単に後ろへと身体が倒れたので受け止めた。着込んでいる甲冑の硬さと、頭部からこもった熱が伝わってくる。首筋に触れると、汗ばんだ肌が、夏の岩肌のように熱せられていた。
「凄い熱だ、ラジエル水タオルを用意して」
「いらん、まだ立って歩ける」
「そんなわけないですよ」
立ちあがろうとするディーオンを無理にでも地面へと持っていく。掴んでいる腕を払おうと抵抗してくるが、その腕も上がらない始末だ。
パージに対してあれだけ過敏に動けるディーオンがこの状態なのは、大丈夫とは思えない。
「村はまだ遠いが、馬で先に運ばせたほうがよくないか?」
水タオルを用意したラジエルは、汗の球が浮き出たディーオンの顔を拭う。カンネイの言うことは尤もだが、病人を託せるほど信頼関係はないのだ。しかし、ディーオンの苦い表情を見るに考える時間は少ない。
「村には医者も薬もあるし、医療道具も簡易だがある。信じられないだろうが、呂樹人は契約は反故にしないんだぜ」
「……分かりました。ディーオンさんを頼みます」
ディーオンの抵抗する意思はあるも、声にもならなかった。無理やりバサラの背中に乗せて、案内役としてチュウタツが手綱を握った。
「ハザラ、ディーオンさんが弱っているから、ゆっくりね」
「この騎手振り落としてもいい?」
「駄目、我慢して。あとでうんと褒めてあげるから」
「うーん。じゃあ我慢する」
不満そうな声をだしてバサラは二人を乗せて駆けて行く。
「馬と会話できんのか?」
「まさか、そんな芸当ができるなら旅なんてしてないよ」




