第八章
「シーク、可哀想」
月明かりだけが照らす、妙山の滝壺に近い岸辺に人の影が複数あった。その影の一人であるサーチャーが、炭化した死体に憐憫の眼差しを向けて呟いた。
「シークは背中から矢を受けています。アケビさんを助けてドラゴンの炎を受けたならば、竜騎士なるものか、ブラディなるものかの仕業です。そうですね?」
オラクルの視線は携帯端末を持つビジョンに注がれる。
「はい……申し訳ありません。まさかドローンを破壊されるとは思いませんでした」
「反省したのならば次の行動で示しなさい。良いですね?」
厳しくも優しい言葉に、ビジョンは涙目になりながらも、強かに頷いた。
「これからどうするんですか姐さん」
「もちろん、シークを亡き者にした人物を見つけ出します。隊長も興味を示していられたようですしね」
ようやく不正者の足取りが掴めた彼女らは信仰心が燃えていた。
教会も不正者を追っていた。不正者は教会の教義に強く反し、この大地の資産である生物に害をなす者であるからである。教会員の認識では不正者は魔物と変わらない。
現在教会が居場所を掴んでいる不正者は、ギョームとギョームの側近である『医者』『占い師』と、はぐれの不正者『捕食者』『幽霊』だけである。不正者を除けば、英雄も把握されていた。
それぞれの対象に監視者がついているが、未だに殺害に至っていないのは、どれも保有しているチートスキルが関係しており、一対一の決闘も、暗殺することが叶わないからだ。
しかし、教会に属している軍隊には、チートスキルと対等に渡り合える力、電力で動く機械の力がある。伸縮自在の刀や槍、ドローンにモニター、この世界にはない近代的な力を教会は保持している。それは教会にいる執行者『発明家』の賜物であった。
軍の上位にいる者には、それなりの発明が与えられている。オラクルの所属する遊撃部隊の隊長もまた、そうである。
「隊長も動いてるんですか?!」
「ええ、呂樹方面へ網を張るようですよ。サーチャーとビジョンはアケビさんを追って、隊長と合流を、私はハクを連れ戻すのと、砦の様子を見るために剣岳砦へと向かいます。よろしいですね」
オラクルの問いに、二人は敬礼をする。
「ではシークと、この方を埋葬しましょう」
緊張した表情を和らげて、オラクルは足元にある死体達を慈しんだ。
三人が埋葬を終えて去ったあと、翼竜、ワイバーンが空から埋葬地に飛来し、墓を認めると降りてきた。ワイバーンの背中には黒と白の看護服に身を包んだ女が一人乗っており、危なげな降り方で地に足をつけた。
名が刻まれていない墓の前まで移動すると、柔らかい土を素手で掻き分け始める。短い爪の先に土とは違う手応えを感じたときに、優しく土を払っていくと、焦げた死体があらわになる。
「ああ、酷いことをなさる」
唇を噛んで左手を自身の脚にあて、右手を死体の胸に触れる。
「ああああっ!!!」
彼女の絶叫が夜の山にこだまする。彼女の両脚は焼け爛れ、機能を停止し壊死してしまった。壮絶な痛みに彼女は前へと倒れてしまうも、しかし、胸板で受け止められた。黒く炭化した肌が、瘡蓋のように剥げてゆく。それがが彼女がよく知っている胸板の厚さと温かみに変化していった。
「痛いだろう? 傷を移しなさい」
優しい声色が彼女の耳に心地よく響く。彼女は右手を彼の脚へと移動させて、スキルを発動させた。瞬く間に彼女の脚は傷もなく元通りになり、代わりに右手で触れていた彼の脚が炭化する。だがそれもすぐにボロボロと表面が崩れていき、筋肉質な正常な脚が復活した。
「心配かけたね、フロー」
全裸の男はフローレンの頬を撫でる。フローレンは潤んだ瞳で頷いてから、お寒いでしょう、と用意していた毛布を男へとかけた。
「今回はどういった死因で?」
「ドラゴンに焼かれてしまったよ。そのまえには矢を二回受けた」
「地域監査なのですのに、どうしてそのようなことになるのですか?」
「運が悪かった……いや、良かったと言うべきか」
フローレンは首を捻りながら、墓穴から這い出した男についた土を払う。
「新参の執行者に会った」
男の言葉にフローレンは土を払う手を一瞬だけ止めたが、すぐに行動に戻った。
「それは……英雄様ではないのですよね?」
「ああ、子供だった。しかしあの子供は化ける。どう化けるかは分からぬが、少なくとも英雄と同等、もしくは超えるかもしれない」
「なんとも脅威ですね」
払い終わって立ち上がると、男に礼を囁かれ、フローレンは会釈する。
「私達の脅威になるのは違いない」
「それにしては嬉しそうですけど」
フローレンはいつもより声を弾ませた男に、困った顔をする。男はフローレンに指摘されて、目を大きくさせた。
「そう見えるか?」
「ええ」
「ではそうなのだろうよ」
と、男は愉しそうに笑った。
「御自愛くださいませ。……このまま首都へ帰りますか?」
「フローが迎えにきてくれたのだ、帰ろう」
「はい。では帰りましょうギョーム様」




