035
広い道であったであろう場所の道に面していた家々が黒色を交えて倒壊し、破壊地点の終着点には、微動だにしないドラゴンが倒れていた。ドラゴンの近くにオジさんの背中を見つけてバサラを誘導する。闊歩する音を聞いて、オジさんが振り返った。なんとなくその顔は憂いを帯びている気がした。
「少年か……身体は大丈夫か?」
責任を感じた声だった。オジさんに責任を追及するほど、いまの僕は荒んでいない。
「ギシギシいっていますけど大丈夫です」
そう気丈に振る舞うことにした。
「ドラゴン、倒したんですね」
「ああ、これから死体をどこへ持って行くかを相談するところだ」
オジさんはドラゴンの頭部へと視線を移動させる。ドラゴンの頭に人がひとり寄り添うように立っている。あのウェーブのきいた赤髪は竜騎士であろう。
「彼女、ディーオンがトドメを刺した」
それが仲間になる信頼の証だと言わんばかりだった。彼女の心変わりは分からない。彼女を信じるよりもオジさんを信じたほうが楽である。だが、楽をしたことによって、僕は人殺しになった。今度は同じ過ちを犯したくない。そう決めて、バサラから降りてディーオンへと近づく。
「なんだお前か、私を殺すのか?」
僕の気配を認めつつもディーオンは、目を瞑ったドラゴンの頬を撫でるのをやめない。
「……そのドラゴンは大切な存在だった?」
「……そうだな」
ぶっきらぼうに言うものの、手はやはり止まらない。そんな気持ちを持ち合わせているのに、どうして他人をいとも容易く踏み躙れるのかは、僕には到底理解できない。でも、これからこの人が歩み寄ってくれるなら、理解できるかもしれない。
「僕も大切な人のために使命を果たすつもりだ」
「そうか、ならはやく果たすんだな」
「勘違いしないで、貴女は僕達とともに使命を果たしてもらう」
「……お前も私を信じるのか?」
緩慢に首を移動させてディーオンは僕を見る。僕は首を振った。
「信じないよ。でも貴女がこれからの振る舞いで信じさせて」
冷めた瞳には焼ける家屋を背景にした僕が映っている。それが一瞬だけ滲んだ気がした。ディーオンは顔をドラゴンへと戻し、大きく息を吸って天を仰いだ。
「そろそろいいか? このままにしておくわけにはいかない。近くに葬れる場所はないか?」
話がついたところで、寄ってきたオジさんが言う。ディーオンが指で目元を拭ってから振り向いた。
「私達が使っていた拠点がもう一つ近くにある。だが、どうやって運ぶつもりだ?」
「担いで行く」
無理だろうとは言えなかった。オジさんのスキルであれば可能だし、不可能なことを発言する人ではない。その力を見たのかディーオンは、発言をすんなり受け入れた風体だった。
「あちらの谷だ。距離はおよそ一万五千ヤードだ」
ヤードポンド法に疎い僕はどのくらいの距離かは分からない。それはオジさんも同様らしく、ラジエルへと目で訊ねた。
「十三点七キロメートルです」
「ありがとうラジ子。一息に、とはいかないが、二回くらいでいけるな」
トンはある重さのドラゴンを担ぎ、七キロの距離を一回の跳躍で移動してしまうのは、やはり異常だろう。
「僕達はバサラで追いかけます」
重荷になるのはごめんなので、提案する。オジさんは、そうか、ラジ子を頼む、と言ってドラゴンの腹の下に位置付けた。ディーオンが首周りに乗り、捕まったのを確認してから、一呼吸の内に二人は空の暗闇へと形を消していった。
ようやく集中が切れてきたのか、呻き声や鳴き声が耳に入ってくる。僕はラジエルへと振り向いた。
「ねえラジエル、ちょっと遅れても大丈夫だよね?」
「国の警備隊が来るまでなら大丈夫だと思いますよ」
逡巡せずに返してくれるラジエルに微笑んだ。
この惨状は僕達の落ち度だ。見聞き、手を伸ばせる範囲の人達は救助したい。それがせめてもの償いだと僕は思い、すぐに行動に移した。




