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不正者執行されるべし  作者: 菅田原道則


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031

 低い姿勢で走りながら、プラックの元へと跳躍する。飛んでいる最中に、プラックの隣に、濡れ鼠になったシークがいるのを発見した。


「シークさん!」


 シークは左腕から、ケープに滲むほどの出血をしていた。僕の二の言葉を遮るよう右の掌を向ける。


「大丈夫、見た目が派手なだけ」


 その言葉に安心してはいられない。シークの笑い顔が引き攣っているからだ。


「ぼ、ぼくを置いて逃げてください、足手纏いです」


 肩と脚に矢が刺さって、身体を起こせないプラックが提案するも、僕は首を振った。


「ごめんなさい、僕のせいです。でも、逃げません。次で終わらせます」


 プラックは何かを言いたそうに口を開けたが、痛みに喘いだ。


「相手も」


 シークが発声したところで、弩の発射音が微かに聞こえた。僕は音の方へと飛び上がって、矢とすれ違った。後ろで悲鳴はしなかった。


 矢はさっきまでいた切り立った壁のある場所から放たれていた。到着した時には身を消せる場所だ。当然、竜騎士の姿はない。


 パージは足跡を探した。何度も同じ場所を移動しているなら、足跡が残っているはず。矢の装填の間なら探せる。


 発見した。足跡を見つけて追うと、壁と地面の間に隙間が空いている場所があった。隙間の前が隆起していて、近づかないと見つけられないようになっている。この中に入って対岸に移動していたのだろう。


「お前の負けだ」


 入るべきか考えていると、つい数時間前まで耳にしていた、しゃがれた声がした。声のした方を向いても、誰もいない。だが、声の主であるブラディは確実に近くにいる。


「滝の方を見てみろ」


 陽動だと考えたが、僕が見られずにいられなかったので、首を向ける。そこにはシークの背後に弩を突きつける竜騎士の姿があった。プラックは気絶しているのか、顔を地面につけて、うつ伏せになっている。


「抵抗すれば人質を殺す」


 本気だろう。不正者は、人の命を厭わない。慈しまない。手を差し伸べても、払いのける。他人の心を知りたがらない卑怯者。殺されても仕方ない人間。悪性な腫瘍が僕の思考を侵していくのが分かる。これは、心の奥底で思わないようにしてきた事だ。


「どうして、どうしてそこまでスキルに固執するんだ! 人の命を犯してまで生きたいのか!」


 僕は声の方に、今まで溜めていた鬱憤を吐き出した。


「生きたいさ。それに、これは天使共への復讐だ。お前達のような天使の傀儡が、命の価値に口を出すなど片腹痛い。アケビと言ったか? 結局、他人は他人だ。自分を助けるのは自分だけだ。お前は、どっちだ?」


 我慢ならなかった。もう、ずっとしてきたから。


 シークとプラックを人質に取られ、僕が投降すれば、話し合う機会はできる。だが、どちらも話し合いに応じる気はないだろう。そういう奴らなのだ。


 ナイフを握る手から一瞬力を抜く。気を抜いた瞬間に、僕の身体は声のした草むらに駆ける。


 ナイフを突き刺すと、肉に突き刺さる感触があった。目の前で暖かな血が吹き出し、鮮やかな羽を持つ鳥が、血に溺れながら声にならない声で鳴いた。


「奴は動い」

「ギュオオオオン」


 対岸から聞こえたブラディの声を掻き消す咆哮。その咆哮に生温かさを思い出し、僕は竦む。


 滝が割れて、白い角を持ち、七色に光る鱗を反射させるドラゴンの首が現れる。ドラゴンの眼は前に見た時より鋭く、怒気を纏っていた。


「何してるファフ! 大人しくしていろ!」


 竜騎士が声をかけると、またドラゴンは叫んだ。


 好奇は今。


「なっ」


 竜騎士が息を呑んだ声を上げた時、僕の身体はドラゴンに向かって跳躍していた。


 ドラゴンの頭に着地して、ナイフを右眼に刺す。耳が痛くなるほどにドラゴンが叫びを上げて首を振ったので、頭を踏み、そのまま対岸へと着地した。


「やめろファフ! 落ち着け!」


 濡れた肌が乾いていく、振り向くと、ドラゴンの顔がこちらを向いて顎を開いていた。喉の奥が黄色に輝いている。まだ着地した態勢のまま、動き出しが遅い。


 目が乾いていた。そして、見逃すことなくドラゴンの高熱のブレスが発射される。ブレスが到達する前に、横腹に痛みが発生し、痛みの方向を見ると、鞭が身体に巻き付いていた。


 鞭の先にはシークがいて、力強く僕を引いた。僕の身体は滝壺へと向かい、ブレスが頭上を通っていき、熱波が襲いかかってきたので、腕で庇う。


 腕の隙間から、シークの身体がのけ反ったのが見えた。鞭から力が抜けて、弩を放たれたのだと理解する。顔が歪むのと同時に、真上にあったブレスが方向を変え、左下を向いた。


 向かう先には、シーク達がいた。


 

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