024
「一体どういうことなんですか?!」
教会からの帰り道、人通りも多い中も気にせず、ラジエルはオジさんに詰めるように大声で質問する。前を歩いていたオジさんは歩幅を緩めることはない。
「二人ともお腹空かないか?」
代わりに質問が返ってきた。そのせいでずっと機嫌の悪いラジエルの顔がさらに気色ばむ。隣にいる僕はいつ爆弾が破裂するのかが気で気がならない。爆発したときは、僕が間に入ろう。
オジさんが歩を緩めてから両手を開き、僕達の間に入ってきて、僕達の肩に大きい腕を置いた。
「つけられてる」
僕の肩が動き、本当か確かめる為に周りを見回そうとする。
「目線動かさない、前だけ見る」
抑揚のないオジさんの声で視線を戻した。
「なー、ラジ子、ぷりぷりしないでよ。美味しいもの食べて機嫌直してよ」
打って変わり、いつもの調子で話すオジさん。僕とラジエルは前だけを見つめて、身体を強張らせながら歩き続ける。しっかり歩けているだろうか。
「た、食べ物で釣ろうたってそうはいきませんよお」
ラジエルは声を上擦らせながら話を戻した。咄嗟の演技はむいていないみたいだ。
「気配は一人だけど、もしかしたらもう一人いるかも知れないな……ラジ子の好きなものを晩御飯にしていいから、ほら、言ってみて?」
「ええっ?! 無茶振り過ぎますっ……えっとぉ、お肉、お肉食べたいです!」
ラジエルの大根役者振りを聴きつつ、行き交う人々の中で尾行者っぽい人を、自然に装って探すも僕には判別がつかない。気配で分かるものなの?
「肉、いいねえ。さっき串焼きの店があったな。今日の晩御飯はそこにしよう、オジさん奮発しちゃうぞっ。少年もそれでいいか?」
「えっ、あ、はい」
二つの声色を使い分けるオジさんに僕は萎縮している。大人の顔と、少年のような顔、一体どちらがこの人の本当の顔なのだろう。もしかしたら、まだ見せていない顔があるのかもしれない。
「手を出してくるつもりはないようだから、肩の力を抜くように」
オジさんは僕達の肩を優しく叩いて、また前を歩き出す。
「あ、爺さんも誘ってあげないとだな」
「遅いぞ、なにをしとった!」
宿屋へ帰ってくると、ベッドの上から怒鳴り声とともに、しわがれた顔が覗いてきた。
「悪い、教会の人にお世話になってた。悪いついでに、ご飯食べに行かない? これからの話もあるしさ」
オジさんは親指を立てて背後をさした。ブラディの頬がひくひくと動いている。今まで僕達は秘密の話をしていたことになっているのに、これからの話を提案されるのは、自分抜きで纏まった話を聞かされると思っても仕方ない。実際は僕達も剣岳砦に行くとしか、話は知らないのだけども。なんにせよ、オジさんはブラディの神経を逆撫でさせるのを楽しんでいるようにしか見えない。
「お前、また面倒ごとを……」
大きく舌打ちをしてブラディはベッドから軽い身のこなしで降りてきた。
「全部話せよ」
「話すさ、それが俺のやり方。俺はあんたと手を取り合いたいだけだ。払いのけられてもね」
「払いのけていいのは一回だけなのだろう?」
「そりゃあ、限度ってものがあるからな」
「偽善者が」
「それはお互い様。あんまり酷いこと言うと晩御飯奢らないよ? お酒、いらないの?」
ブラディは憎きものを見る目で睨みつけてから、鼻を鳴らして廊下を歩いていった。




