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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第5章:本能寺の変・完全版 ~そして麒麟は飛翔する~

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第5話:破壊神の涙と、最高値の家臣(改稿版)

信長は俺の肩をガシッと掴んでいた両手に、さらに強い力を込めた。


「上様……?」

俺が戸惑うように声をかけると、信長は俺の肩を掴んだまま、ゆっくりと目を閉じた。

その獰猛で、常に前だけを見据え、誰の意見にも耳を貸さなかった野獣のような目に。


――ポロリと。一筋の透明な涙が、こぼれ落ちた。


「……十兵衛。俺は、退屈で死にそうだった」


信長の声は、かつてないほど穏やかで、そしてひどく掠れていた。

それは、第六天魔王という恐るべき天下人の仮面を完全に脱ぎ捨てた、一人の男としての、そして一人の人間としての偽らざる本音だった。


「天下を獲った後、自分が何をすればいいのか分からず、狂いそうだった。毎日、すべてを焼き尽くす幻影を見ては、目を覚まして虚無に襲われていた。己の存在意義が分からず、ただ玉座で老いさらばえていく日々に絶望し……自分の手で、愛する身内や家臣を意味もなく殺し尽くす前に……いっそ、誰かに殺されたいとすら、思っていたのだ」


「……はい」

「天下を統べるというのは、これほどまでに孤独で、冷たいものだったのかと思い知った。……だが、お前は俺を救ってくれた」


信長はカッと目を見開き、その瞳に再び、あの燃え盛るような『破壊神』の炎を宿した。

だがそれは、かつての冷酷な狂気ではなく、純粋な少年のように未来への野心に満ちた、眩しいほどの光だった。


「お前は俺に、誰も見たことのない『外の世界』という、果てしなく広大な、無限の遊びキャンバスをくれた。そして、お前自身が史上最悪の逆賊という泥を被り、この窮屈な日本という鳥籠から、俺を外へと逃がしてくれた。……礼を言うぞ、十兵衛。我が最高の家臣であり、ただ一人の友よ」


戦国の世を恐怖で震え上がらせ、神仏すら恐れず、誰にも頭を下げたことのない第六天魔王が。

俺に向けて深く、深く頭を下げたのである。


「っ……!!」

俺はたまらず膝をつき、両手を畳について「……もったいなきお言葉にございます」と深く頭を垂れた。

胸の奥から、言葉にならない熱いものが込み上げてくる。視界が滲んで、上等な琉球畳の目が歪んだ。


思えば、俺が前世の記憶に目覚め、歴史改変を始めた最初の理由は「自分の過労死バッドエンドを防ぎ、愛する妻・熙子と平穏に暮らすため」という、極めて個人的で利己的なものだった。

だが、この不器用で、孤独で、誰よりも純粋だった男と共に戦い、時代を駆け抜けるうちに、いつしか俺の目的は変わっていた。


俺の常識外れの未来の提案を、彼はすべて面白がって受け入れ、誰よりも俺の知略を信じてくれた。

だからこそ、俺はこの男の最期を、絶対に「悲劇」で終わらせたくなかったのだ。狂気に飲まれて自害する孤独な末路など、彼には似合わない。俺は今日この瞬間、彼を笑って世界へ送り出すためだけに、命を削って走り続けてきたのだ。


「……信長様。貴方様の覇道は、ここからが本番です」

俺は袖で涙を拭い、顔を上げて力強く微笑んだ。

「さあ、お時間です。外の火の手が回り、何も知らない私の兵たちがこの奥座敷へ踏み込んでくる前に。……退路を開きます」


俺は立ち上がり、部屋の隅へと向かった。

そして、あらかじめ目印をつけておいた畳の一枚を力強く蹴り上げた。

ゴゴゴ……と鈍い音を立てて床板がスライドし、その下には、ぽっかりと暗闇が口を開けていた。

あらかじめ俺の配下の伊賀忍たちに莫大な金を与え、何ヶ月も前から極秘裏に掘り進めさせておいた、京の郊外へと続く広大な地下通路エスケープルートである。


「おお……! 地下に、このような抜け道が……!」

部屋の隅で腰を抜かしていた森蘭丸や小姓たちが、信じられないものを見るように目を見開いた。

俺は彼らの方を振り返り、扇子で地下通路を指し示した。


「蘭丸。お前たちも、ここで無駄死にする必要はない。上様の『世界遠征』には、お前たちのような忠義に厚き若い力が必要不可欠だ。上様をお護りし、海の向こうの新しい世界で、存分にその槍を振るってこい」

「明智殿……っ! ははっ! ありがたき幸せ!!」

蘭丸たちは、己の主君が死ぬのではなく、新たな世界へ旅立つのだと完全に理解し、歓喜の涙を流しながら深く平伏した。彼らもまた、死の絶望から一転、未知なる冒険への切符を手にしたのだ。


「上様。この地下通路を抜けた先には、私が用意した最新の馬車が待機しております」

俺は、地下を覗き込む信長に最後の説明を行った。

「そのまま京を脱出し、堺の港へ向かってください。すでに今井宗久殿が、大坂湾の沖合に超大型装甲外輪船『NOBU号』と、世界を航海するための数千の屈強な水夫を用意して待っております。……帰蝶様も、すでに向かわれました」


「帰蝶が……! くくっ、あの女め、俺より先に世界への切符を受け取っておったか。違いねえ、俺の妻はそうでなくてはな」

信長は嬉しそうに笑い、俺の肩をポンと叩いた。


「うむ。……日本は、お前に任せたぞ、十兵衛。俺が向こうで心置きなく暴れ回るための資金援助や、武器弾薬の補給、絶対に忘れるなよ?」

信長は「悪党め」と悪戯っぽく笑う。

「もちろんです。その代わり、世界中で巻き上げた財宝から、利子はたっぷり返していただきますがね」

俺が皮肉で返すと、信長は「強欲な奴め!」と腹を抱えて笑い、蘭丸たちと共に地下通路の闇の中へと軽やかな足取りで姿を消した。


その後ろ姿は、恐ろしい魔王などではなく、これから新しい世界へ大冒険に出かける少年のように、希望と野心に満ち溢れていた。


「……御武運を、我が友よ」


彼らが完全に抜け出たのを確認し、俺は床板を元に戻した。

これで、信長を逃がすという最大のミッションは完了した。だが、まだ俺にはやらねばならない「歴史の空白を埋める作業」が残されている。


俺は、部屋の奥の押入れを開けた。

そこには、俺が事前に牢屋から引きずり出して用意しておいた、「信長と体格がよく似た、死罪人の死体」が転がっている。

俺はその死体を引きずり出し、信長が先ほどまで着ていた南蛮ビロードの寝巻きを着せ、己の刀を抜いた。


(すまんな。だが、天下を欺くためには必要なのだ)


俺は冷徹に刀を振り下ろし、死体の顔面を激しく斬りつけた。

何度も、何度も。のちに誰が見ても絶対に「織田信長である」と判別ができないほどに、顔を原型をとどめない肉塊へと変える。

そして、部屋の隅に用意しておいた壺を蹴り割り、中に入っていた油を死体と、周囲の畳、襖にたっぷりと撒き散らした。


外の炎の熱気が、いよいよこの奥座敷の障子を焦がし始めている。

煙が部屋の中に充満し、息苦しさが増してきた。


俺は、手にした松明の火を、油を撒いた死体へと無造作に投げ落とした。


ボワァァァァァッ……!!


油を吸った炎が猛烈な勢いで爆発するように広がり、死体を、そして本能寺の奥座敷を瞬く間に飲み込んでいく。

皮膚が焼け焦げ、骨が炭化していく異臭が鼻をつく。この激しい炎と建物の倒壊に巻き込まれれば、この死体は完全に灰燼に帰し、ただの「炭化した骨の欠片」としてしか残らないだろう。


これで「織田信長」は、日本の歴史から完全に消滅した。

俺は「主君殺しの大悪人」としての汚名を、文字通り完璧に被ったのだ。歴史上最大のミステリーの真相は、誰にも知られることなく、すべてこの業火の中に消えたのである。


「……さて」


俺は、燃え盛る炎を背にして、ゆっくりときびすを返した。

魔王は無事に鳥籠から飛び立った。だが、俺のプロデュースはこれで終わりではない。

さあ、次は第二幕だ。

この炎が意味するものを「己の天下への切符」と勘違いし、遠く備中高松の泥沼の中で狂喜乱舞して戻ってくるであろう、あの「野猿」を迎え撃つための、最高に悪辣な舞台の準備が残っている。


「来い、秀吉。俺が最高に絶望的な罠を張って、お前を待っていてやる」


歴史オタクによる、究極の歴史改変プロデュースは、いよいよ最終局面へと向かっていく。

燃え盛る本能寺の炎を背に歩く俺の顔には、大悪人にふさわしい、冷酷で不敵な笑みが刻まれていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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