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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第5章:本能寺の変・完全版 ~そして麒麟は飛翔する~

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第4話:極上の南蛮ワインと、魔王の卒業式(改稿版)

「申し訳ありません、上様。途中で血の気の多い野次馬たちの整理に手間取りまして」


俺は、腰の刀をカチャリと音を立てて鞘に完全に納め、張り詰めた空気を解きほぐすように、わざとらしく苦笑してみせた。

背後で槍を構え、俺に飛びかかろうとしていた蘭丸たち小姓衆は、信長が楽しげに笑い、俺が刀を収めたことで、完全に毒気を抜かれ、呆然と立ち尽くしていた。


「下がっておれ、蘭丸。こいつは俺の客だ」

信長の命令に、蘭丸たちは訳が分からないまま、恐る恐る部屋の隅へと後退した。


俺はふすまを静かに閉めると、懐から「コルク栓の瓶」と「二つのガラスの杯」を取り出し、信長の前に進み出た。


「さあ、上様。今宵の主役のための、極上の美酒をお持ちいたしました。……魔王の『卒業祝い』にございます」


俺が取り出したのは、堺の今井宗久から、この日のためだけに極秘で仕入れさせた、年代物の最高級の南蛮赤ワインだ。

俺がトクトクと、血のように真紅の液体を杯に注ぎ、一つを信長に差し出すと、彼はそれを受け取り、香りを楽しむように軽くグラスを揺らし、満足げに鼻を鳴らした。


「ふん。天下を完全に平定し、用済みとなった魔王を、自らの筆頭家老が軍勢を率いて『謀殺』する。……貴様らしい、悪辣で、最高に美しく劇的な筋書きだ。のちの世の歴史書にはさぞかし、俺の無念と貴様のどす黒い野心が、面白おかしく書かれることだろうな」

「ええ。学者たちは何百年も、私の謀反の動機について頭を悩ませることでしょう」


俺は自分の杯を持ち、胡座をかく信長と真正面から向き合って見据えた。


「天下を統べるには、血の匂いが染み付いた魔王のカリスマではなく、法と議会、そして経済による安定した統治が必要です。戦を終わらせるための暴力は、平和な世においてはただの猛毒に過ぎない。……上様がこのまま日本の玉座に座り続ければ、行き場を失った破壊衝動によっていずれ無意味な大粛清が始まり、国は自壊する。だからこそ、ここで『織田信長』という強大すぎるシステムを強制終了シャットダウンさせねばならなかった」


俺はグラスを掲げ、信長のグラスとカチンと澄んだ音を立てて乾杯した。


「……ですが。上様のその比類なき才能と、常識を破壊する力をこの狭い日本で持て余し、ただ狂って腐らせていくのは、世界にとってあまりにも大きな損失だ。だからこそ、私が大悪人となって、上様をこの窮屈な鳥籠から解き放ちます」


俺は、ワインを一口含み、深く頭を下げた。


「上様。日本の魔王としての役目は、今日で終わりました。これより先は、海の向こう……『世界の覇者』となってください」


俺がそう告げると、信長はグラスの赤ワインを、喉を鳴らして一気に飲み干した。

「ぷはっ……! 違いねえ。血の味よりも、こちらのほうが遥かに美味いわ」


信長はグラスを放り投げると、懐から、俺が数日前に安土城で手渡した『分厚い羊皮紙の束』を取り出し、緋色の毛氈の上にバサリと広げた。

それは、堺の今井宗久に数年がかりで極秘に建造させていた、蒸気機関と鋼鉄の装甲を持つ超大型ガレオン船『NOBU号』の詳細な設計図。

そして、これから信長が向かう……明国(中国)、天竺インド、そして白人列強が支配する南蛮ヨーロッパの国々が精緻に描かれた『世界航海図』だ。


信長は、その羊皮紙の表面を愛おしそうに撫でながら、肩を震わせ、やがて腹の底から湧き上がるような、豪快な笑い声を上げた。


「あっははははは!! 傑作だ! まさか俺の人生の最後に、こんな極上の悪ふざけが待っていたとはな!! 天下人を死んだことにして、鉄の化け物のような船に乗せ、見知らぬ異国の王どもを力でねじ伏せてこいと申すか!」


信長は立ち上がり、俺の肩をガシッと力強く、骨が軋むほど強く掴んだ。

その瞳には、かつて安土城で見たような虚無の影は一切ない。広大な世界という、己のすべてをぶつけるに足る新しい「遊びキャンバス」を与えられた、純粋な歓喜と暴力的なまでの野心が燃え盛っていた。


「十兵衛! やはり俺が、あの美濃の立政寺で、足利義昭の金ピカの神輿の後ろに隠れていた貴様を『最高値で買った』のは、俺の生涯における大正解だったぞ!!」


信長は、俺の肩を揺さぶりながら、顔を近づけて笑った。

「お前の底知れぬ未来の頭脳は、この俺の想像すら遥かに超えてみせた! お前がいなければ、俺はとっくにどこかの戦場で野垂れ死にするか、狂って自害するしかなかっただろう!」


炎に包まれた本能寺の奥深く。

日本の歴史の頂点に立った二人の男の、誰にも見られることのない、笑い声とワインの香りに満ちた極上の「卒業式」の時間は、静かに過ぎていった。

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