表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第4章:魔王の孤独と「本能寺」へのカウントダウン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/109

第4話:玉座に降り積もる、冷たい灰(改稿版)

その日の深夜。

俺は、信長の小姓である森蘭丸からの極秘の呼び出しを受け、安土城の天主てんしゅ――信長の私室へと足を運んでいた。


「上様。明智様をお連れいたしました」

蘭丸が静かにふすまを開けると、そこには、異様な光景が広がっていた。


豪華絢爛な金箔の壁。床には毛足の長いペルシャ絨毯が敷かれ、部屋のあちこちには、俺が南蛮商人から取り寄せさせた精巧な機械式時計や、美しいガラス細工、そして黄金の地球儀といった、途方もない価値を持つ宝物が無造作に転がっている。

だが、その部屋の主である織田信長は、たった一つの薄暗い蝋燭の灯りだけを頼りに、部屋の中央で一人、酒杯を傾けていた。


「……入れ、十兵衛」

信長の声は、昼間の軍議で見せた激しい怒りとは打って変わり、酷く静かで、ひんやりと冷たかった。


俺が部屋に入り、静かに平伏すると、信長は無言で俺の前にヴェネツィアングラスの酒杯を置き、南蛮の赤ワインを注いだ。


「飲め。今日は、君臣の礼は抜きだ。……ただの、酒の相手をしろ」

「……はっ。お言葉に甘えさせていただきます」


俺は杯を手に取り、一口だけ喉に流し込んだ。極上のワインの味が、張り詰めた胃の腑に熱く染み渡る。


「……十兵衛。天下とは、かくも冷たく、つまらぬものか」


信長は、薄暗い天井を見上げたまま、ポツリと呟いた。

その横顔は、天下布武を成し遂げつつある絶対権力者のものではない。ただの、すべての熱を失って絶望している男の顔だった。


「俺はな、ずっと夢見ていたのだ。この腐りきった乱世を、古い権威をすべて焼き払い、俺の手で新しい国を創り上げる日を。……だが、いざお前の持ってきた知恵と兵器で、天下の形が完全に見え始めた今。……俺の心の中には、何もない」


信長は、自らの胸をドンッと叩いた。


「かつて桶狭間で、少数の兵で今川の数万の大軍に突っ込んだ時。……浅井・朝倉に包囲され、姉川で死線を彷徨った時。あの時は、確かに俺の血は沸騰し、世界は極彩色に輝いていた。一瞬の油断が死に直結するあのヒリヒリとした熱だけが、俺が『生きている』と実感できる唯一のものだったのだ」


信長の言葉が、静かな部屋に重く響く。

俺は何も言わず、ただ黙って彼の独白に耳を傾けていた。


「だが、今はどうだ。お前が完璧に整備したこの仕組みの上で、俺はただ安全な城の奥に座り、書類の数字を眺め、降伏の血判状に判を押すだけのカラクリ人形だ」


信長は、自虐的な、ひどく歪んだ笑みを浮かべた。


「敵がいない。誰も俺に逆らわない。すべてがお前の計算通りの予定調和だ。……なぁ、十兵衛。俺の腹の中には、まだ世界を丸ごと焼き尽くせるほどの凄まじい炎が、狂おしいほどに燃えたぎっているというのに。……もう、この日の本には、俺が燃やすべき『薪』がどこにもないのだ」


信長は、ギリッと奥歯を噛み締め、手にしたガラスの杯をメリメリと音を立てて握りしめた。


「平和な国を創るための天下布武だったはずだ。だが……今の俺には、玉座の上から、自分が燃やし尽くした敵の冷たい灰が、ただ静かに降り積もっていく景色しか見えない」


戦場で命を削り合っていた頃の熱だけが、彼を人間として生かしていた。

だが、俺が持ち込んだ未来の知識(合理性)が、その戦場という舞台を彼から完全に奪い取ってしまったのだ。


「……上様」

俺は、杯を置き、覚悟を決めて口を開いた。


「平和とは、そういうものです。英雄の血湧き肉躍る戦記などなく、ただ毎日が同じように繰り返され、民が安心して畑を耕せる退屈な日々。それこそが、私が上様と共に創り上げたかった世界です」


俺の言葉に、信長はゆっくりと俺を見据えた。

その目には、深い悲哀と、そして得体の知れない『狂気』が混ざり合っていた。


「分かっている。お前が正しい。……だが、俺は耐えられんのだ」


信長は、身を乗り出し、俺の顔のすぐ近くで、悪魔の囁きのように告白した。


「時々、思うのだ。……この美しく完成された安土城に、俺自身の手で火を放ち、お前たち家臣を一人残らず殺し尽くしてしまえば。再びあのヒリヒリとした熱と、極彩色の世界を取り戻せるのではないかと……」


「――ッ!!」

俺の背筋に、氷柱を叩き込まれたような強烈な悪寒が走った。


それは冗談でもなんでもない。信長という男の本能が導き出した、純粋な破壊衝動の結論だった。

彼にとって、完成したシステム(平和な日本)は、もはや自分の魂を縛り付ける息苦しい牢獄でしかないのだ。牢獄から抜け出すためには、すべてを破壊するしかない。


信長自身も、自分のその異常な思考に気づいているのだろう。

彼は、握りしめていた杯から手を離し、深く、深い溜息をついた。


「……十兵衛。俺は、このままでは、俺自身の手で、俺たちが創ったこの国をぶっ壊してしまうかもしれん」


魔王の、あまりにも悲しく、そして切実なSOSだった。


「……」

俺は、沈黙したまま、目の前で虚無に苦しむ親友バディの姿を見つめていた。


俺が歴史改変を始めた理由は、自分が生き残るため、そして愛する熙子を幸せにするためだ。

だが、この十数年、俺の非常識な提案をすべて受け入れ、莫大な資本を投じて実現させ、共に天下を創り上げてきたこの男を見捨てることなど、俺には絶対にできない。


(平和な日本を維持するためには、この破壊神を日本の外へ排除しなければならない。……だが、ただ殺して歴史の闇に葬るなんて、そんなつまらないバッドエンドは、俺が許さない)


俺の歴史オタクとしての知識と、一人の人間としての意地が、一つの『究極の解決策』を導き出していた。


「……上様」


俺は、信長の虚無に満ちた目を真っ直ぐに見据え、静かに、だが確かな熱を込めて言った。


「もし、この日の本に燃やすべき『薪』がもうないというのであれば。……私が、貴方様のために、誰も見たことのない、無限に広がる『新しい遊び場』をご用意いたしましょう」


「……なんだと?」

信長が、怪訝そうに眉をひそめる。


俺は、懐から折りたたまれた大きな羊皮紙を取り出し、信長の目の前の絨毯にバサリと広げた。

俺が南蛮の商人から極秘裏に買い取り、現代の記憶と擦り合わせて書き起こした『世界地図ワールドマップ』である。


「上様のその底知れぬ炎は、この狭い島国に収めておくには大きすぎる。……ならば、この鳥籠(日本)をぶっ壊して、海の向こうへ行きませんか。世界の覇者として」


信長の目が、大きく見開かれた。

退屈という地獄に沈みかけていた魔王の心に、一筋の強烈な光が差し込んだ瞬間だった。

【読者の皆様へのお願い】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と、ページ下部からの【星評価】をお願いいたします!

皆様の応援が、執筆の最大の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ