第20話:世界への伏線と、第三章の終わり
秀吉の鋭い、魂を削るような問いかけに対し。
俺は涼しい顔のまま、扇子を広げて口元を隠した。
「……恐れる、か」
俺は、彼の言葉を否定しなかった。
ただ、彼の才能を誰よりも(史実の結末まで含めて)高く評価し、理解しているからこそ、あえて本当のことを言った。
「羽柴殿。お前ほどの男を、俺の目に入る範囲――この狭い中央の盆地で、ただの家臣としてこき使うのは、あまりに惜しい。……お前のその底なしの『人たらしの才』と、常識に囚われない『軍才』は、俺とは違うベクトルの極上の刃だ」
俺の言葉に、秀吉がわずかに目を見開く。
「西の毛利は手強いぞ。水軍を持ち、強固な国人領主の連合体だ。俺が仕掛ける経済封鎖だけでは、簡単には落ちない。お前が得意とする泥臭い調略、城攻め、兵糧攻め……そのすべてが必要になる戦場だ。……存分に、その才を発揮してこい」
ただの左遷ではない。俺が「自分にはできない泥臭い戦い」をお前に託すのだ。
そう告げると、秀吉の顔に浮かんでいた敵意が、ゆっくりと「野心」の炎へと変わっていった。
彼は己の才能が認められた歓喜と、それでも光秀を見返してやりたいという強烈な執念を胸に、ギリッと唇を噛みしめ、深く、深く頭を下げた。
「……承知、いたしました。この羽柴秀吉、上様と明智様のご期待に沿うべく、西国にて必ずや大功を立ててみせまする。……明智様が、決してわしを無視できなくなるほどの、とてつもない武功をな」
「期待しているよ」
俺は短く答え、翻って陣幕を後にした。
去っていく秀吉の陣幕を背にしながら、俺は夜空に浮かぶ冷たい月を見上げた。
(いいぞ、猿。その悔しさと、俺への強烈な野心を、西国の過酷な毛利戦線で極限まで研ぎ澄ませておけ)
史実のように、お前が俺の首を獲る(山崎の戦い)ためではない。
数年後。俺がこの国を平和裏に完全統一し、俺の愛する妻・熙子と平穏に暮らすため……この狭い日本に収まりきらなくなった『魔王・信長』を、外の世界へ逃がす時が必ず来る。
その時、お前を信長と共に『海外遠征軍の総司令官』として世界中へ派遣するための、最高に鋭く、強力な刃として鍛え上げておくのだ。
「さて……」
俺は夜風に吹かれながら、これからの壮大な道筋に思いを馳せた。
比叡山は下り、本願寺は消滅し、西国には秀吉を飛ばした。かつての強敵であった武田や上杉も、もはや俺が張り巡らせた経済制裁と物流網の支配の前に、風前の灯火である。
天下布武の総仕上げは、もう目の前だ。
そしてそれは同時に、この国の古い体制を完全に破壊し、世界の覇権を握るための第一歩。
愛する友であり、破壊の天才である『魔王・信長』と俺とで仕掛ける、世界最大の茶番劇――『本能寺の変』の準備が、いよいよ本格的に始まろうとしていた。
【第3章:天下布武・完全攻略編 完 ―― 第4章:魔王の孤独と「本能寺」へのカウントダウンへ続く】
これにて第3章が完結いたしました!
史実で信長を10年苦しめた石山合戦を「火薬のサプライチェーン買い占め」で半年で終わらせ、戦の出番を奪われ続けた秀吉がついに牙を剥くも、西国へ左遷されるというヒリヒリした展開でした。
次回からはいよいよ第4章!
天下統一が早まったことで生じた『魔王・信長の孤独』と、それを救うための前代未聞のクーデター準備がスタートします。お楽しみに!
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