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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第1章:幼年・美濃編 ~チート赤ん坊、マムシを飼い慣らす~

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第6話:神童の憂鬱と、完璧な擬態(改稿版)

俺が「戦国最大の敗北者・明智光秀」という絶望的な運命を背負った赤ん坊としてこの世界に転生し、脳内図書館(絶対記憶)というチート能力に覚醒してから、五年という歳月が経過した。


時は天文2年(1533年)。俺は数えで六歳になっていた。


「『子曰く、学んで時に之を習う、亦説よろこばしからずや。朋遠方より来たる有り、亦楽しからずや……』」

「おお……見事じゃ。十兵衛は本当に賢い子じゃ! 教えたいろはをあっという間に覚え、今や四書五経すらもそらんじるとは!」

「まさに明智の麒麟児にございますな。この分であれば、十兵衛様が元服なさる頃には、明智家は盤石の安泰。御屋形様もさぞお喜びのことでしょう」


春の陽気が心地よい武家屋敷の縁側。

俺が分厚い漢籍の書物(論語)を広げてスラスラと音読してみせると、周囲を取り囲む家臣たちが、ヒソヒソと、しかし隠しきれない熱狂と興奮を帯びた称賛の声を漏らした。

彼らの目には、俺が明智家をさらなる繁栄へと導く「神仏の申し子」にでも見えているのだろう。


「えへへ、褒められちゃった。もっとお勉強して、立派な武士になるね!」


俺は、子供らしい無邪気な笑顔を顔にぴったりと貼り付け、元気よく返事をした。家臣たちはその可愛らしい振る舞いに「おお、なんと健気な……」と目尻を下げている。


だが、俺の内心はひどく冷めきっていた。心の中で、深いため息をつく。


(そりゃあ、覚えるさ。俺の脳内には広辞苑から漢和辞典、現代語訳付きの中国古典の全データ、さらには歴史学者による最新の論文解釈まで、すべての知識が一字一句違わず完璧に入っているんだからな)


むしろ、俺にとっては「初見のふりをして、わざとたどたどしく読む」ことの方が、何倍も高度な技術を要求される難行だった。

本当なら「この一文の解釈は朱子学の観点からはこうだが、陽明学的には……」などと論じることすらできるのだが、そんなことを六歳の幼児が言い出したら大騒ぎになる。だから、わざと難しい漢字のところで少しだけ言葉に詰まる演技を入れたりして、ギリギリの「神童ライン」を調整しているのだ。


この五年間、俺が何をやっていたかというと、ひたすら生き残るための「基礎固め」と、周囲の目を欺くための「完璧な擬態」である。


赤ん坊の体では物理的に何もできなかったため、まずは「戦国時代の言語(発音や特有のイントネーション)」を完全にマスターすることに全神経を集中させた。

現代の日本語と、この時代の言葉は、文法や単語のニュアンスが微妙に、しかし決定的に違う。加えて、ここは美濃国(岐阜県)だ。当時の美濃特有の鈍った方言や、武家社会ならではの階級に合わせた言葉遣いが複雑に絡み合っている。


俺は、周囲の大人たちの会話を脳内の『絶対記憶』に片っ端から録音するようにサンプリングし、自分の喉の構造と擦り合わせるという地道な作業を繰り返した。

少しでも現代語のアクセントが混じれば「妙な喋り方をする子だ」と違和感を持たれる。俺はそれを完全に削ぎ落とし、誰の耳にも心地よい、自然で完璧な「戦国美濃の言葉」を習得したのだ。これには想像以上の脳のカロリーを消費したが、今後の交渉事において絶対に不可欠なスキルだった。


そして、もう一つ俺を悩ませたのが「異常者バグ」と思われないためのバランス調整である。


(もし俺が脳内の知識を全開にして、三歳で大人の武将たちの政治的議論に「その税制は非効率だ。複式簿記を導入しろ」とか「火薬はウンコから作れるぞ」なんて論理的に口を挟んだら、どうなるか?)


現代のネット小説の『なろう系主人公』なら、周囲が「おお、すげえ!」と無条件にひれ伏して大絶賛してくれるかもしれない。

だが、ここは現実の、血なまぐさく迷信深い戦国時代だ。


そんな得体の知れない知識をひけらかす幼児は、「神童」という枠を通り越して、「妖怪」や「狐憑き」、あるいは「人間ではない悪魔の化け物」として気味悪がられるだけだ。

当時の人間の宗教観において、理解の及ばない異端の存在は『恐怖』の対象でしかない。最悪の場合、身内の権力争いや他家の陰謀に巻き込まれ、「得体が知れないから」「将来の脅威になるから」という理由だけで、毒殺・暗殺される危険すらあるのだ。

優秀すぎるがゆえに、出る杭として打たれる。それが戦国のリアルである。


だから俺は、脳内にある無限の知識とチート能力のうち、ほんの「1パーセント」だけを慎重に計算して小出しにすることにした。

周囲には『少しばかり物覚えが良く、大人しく利発な、将来有望な可愛い跡取り息子』として振る舞うことに徹したのである。

爪を隠すどころか、指の先まで分厚い手袋で隠し通す。それが、無力な幼児期を生き延びるための最善の生存戦略(サバイバル術)だった。


「十兵衛様、そろそろ剣術の稽古の時間にございますぞ。木刀をお持ちください」


庭の向こうから、武術の指南役である武骨な家臣が声をかけてきた。


「わぁい! 行く行くー! 今日こそおじ上に勝つんだから!」


俺は書物をパタンと閉じ、子供らしく元気よく短い足をばたつかせて縁側から庭へと駆け出す。

渡された子供用の小さな木刀を握り、指南役に向かって構えをとる。


「はぁっ!」と可愛らしい声を上げて木刀を振り下ろしながら、俺は再び内心で舌打ちをした。


(ああ、クソッ……体が、全く思い通りに動かない!)


本当は、こんな古臭く隙だらけの剣術の型などやらなくても、俺の脳内には前世で読み込んだ古武術の歩法、人体力学、さらには現代の近接格闘術(CQC)や軍隊式サバイバル術のデータがギッシリと詰まっている。

敵の攻撃の軌道を物理学的に予測し、無駄を一切省いた最小限の動きで相手の関節を外し、急所を的確に破壊する最も効率的な戦闘術。大人の体格と筋肉さえ手に入れば、それを完璧に再現できる自信があった。


だが、今はまだ六歳。

悲しいかな、筋力も、持久力も、リーチも圧倒的に足りない。骨格は未発達で、重心のコントロールすらおぼつかない。

頭の中のシミュレーションでは指南役の脇腹に強烈な蹴りを叩き込んでいるのに、現実の俺の体は、ヨタヨタと木刀を振り回すのが精一杯なのだ。知識と肉体の絶望的なギャップに、歯痒さでギリッと奥歯を噛み締める。


(焦る必要はない。戦場で槍や刀を振り回して無双するのは、筋肉ダルマの脳筋どもに任せておけばいい)


俺はわざとバランスを崩して尻餅をつき、「あいたた……」と子供らしくべそをかく演技をしながら、冷静に現状を分析した。

戦国時代の勝敗を決するのは、個人の武勇ではない。「経済力」と「情報」、そして「兵站ロジスティクス」だ。

俺の本当の武器は、筋肉でも剣技でもない。『頭脳』であり、未来を知り、現代の技術を引き出せる『絶対記憶』なのだ。


肉体が成長し、俺が一人前の武士として元服するその日まで。

俺は完璧な擬態を続けながら、脳内図書館の中で「歴史を書き換えるための壮大な設計図」を静かに、そして冷酷に練り上げるのだ。


青空を見上げながら、俺は誰にも気づかれないように、心の奥底で鋭い牙を研ぎ澄ませていた。

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