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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第3章:天下布武・完全攻略(チート)編 ~先回りされる秀吉~

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第8話:完全なるロジスティクス(兵站)(改稿版)

「な、明智様!? 何を仰られる!?」

藤吉郎の裏返ったような絶叫が、緊迫した陣幕の中に響き渡った。


彼にとって、この「殿」は己の命を代償にしてでも掴み取らねばならない、出世のための最後の蜘蛛の糸だった。それを、あろうことかこんな形で奪われるなど、絶対に許容できるものではない。


「これは決死の殿にござるぞ! 万に一つの生還も見込めぬ、絶望的な死地! 上様の頭脳であり、筆頭家老たる明智様のような大軍師が残れば、もし討ち死になされた場合、織田家にとって多大な損失になりまする!!」


藤吉郎は必死だった。

もっともらしい理屈を並べ立て、なんとかこの役目を自分に引き戻そうと必死に声を張り上げた。

「わしのような身分の低い者が捨て石となってこそ、意味があるのです! 上様、どうか、どうかこの藤吉郎に……!」


藤吉郎の言葉に、柴田勝家や佐久間信盛らも渋い顔で頷いた。


「藤吉郎の申す通りだ、明智殿。お主の知恵は今後も織田家に絶対不可欠。殿のような泥臭い肉弾戦は、我ら武骨者が引き受けるべきだ。お主は上様と共にお逃げなされ」


だが、武将たちの悲壮な覚悟と、藤吉郎の血を吐くような訴えを前にしても。

俺の表情は微塵も揺らがなかった。


俺はただ、薄く冷酷な笑みを浮かべたまま、懐から一枚の大きな「地図」を取り出し、陣幕の中央、信長の目の前の床にバサリと広げた。


「皆様、何か根本的な勘違いをされているようですが」


俺は扇子で地図をトンと叩き、陣幕の全員を見回した。


「私は、死ぬ気など毛頭ありませんよ」


歴史の悲劇を、圧倒的な資本と現代の兵站ロジスティクスで「快適な遠足」に塗り替える、悪魔の種明かしが始まる。陣幕の中に広げられた地図を扇子で叩きながら、俺(明智光秀)が涼しい顔で言い放つと。

悲壮な覚悟を決めていた柴田勝家たちも、そして命を賭けて殿しんがりに立候補した木下藤吉郎(秀吉)も、一様にポカンと口を開けた。


「万に一つの生還も見込めぬ、絶望的な死地? 違います。退却時のパニックや全滅を防ぐための『安全な撤退ルート』なら、すでに**『一年前に』**整備済みです」


「……は?」

藤吉郎の口から、間抜けな声が漏れた。

信長すらも、俺の言葉の意味が瞬時には理解できなかったらしく、怪訝な顔で地図を覗き込んだ。


「一年前に、だと……?」

信長が信じられないというように俺を見た。


「ええ。先ほども申し上げた通り、浅井長政が裏切ることは、私が立政寺で上様に『裏切り者リスト』を提出した一年前から、完全に確定していた『想定内の事象』ですから」


俺は扇子の先で、地図に引かれた一本の太い赤線をなぞった。

それは、越前の金ヶ崎から西へ抜け、若狭(福井県南部)の険しい山々を越えて、琵琶湖の西側を通り、安全な京都へと至る山道であった。

史実において、信長が浅井・朝倉の追撃に怯えながら、命からがら逃げ帰ったとされる「朽木谷くつきだに」を抜ける決死のサバイバルルートである。


「この若狭ルートは、一年前に私が堺の今井宗久殿から引き出した莫大な工作資金を使い、秘密裏に地元の村人や土木職人を大量に雇って『道幅を広げる舗装工事』を完全に終わらせてあります。道なき道を切り拓き、邪魔な岩を退け、橋をかけ直しました。……数万の大軍が夜通し歩いても、足場が崩れて滑落するようなことは絶対にありません」


陣幕の中が、ざわめき始めた。

一年前から、撤退用の山道を舗装していた……?

戦国時代の武将たちにとって、戦とは「その場その場の臨機応変な対応」と「個人の武勇」で切り抜けるものだ。未来の敗北(撤退)を一年も前から予測し、莫大な金をかけて「逃げ道を作るための土木工事」をしておくなどという発想は、彼らの常識の範疇を完全に超えていた。


「驚くのはまだ早いですよ」

俺は扇子で、その赤線のルート上に点在する『三十の赤い丸印』を次々と指し示した。


「退却戦において、兵士がパニックに陥り、総崩れになる最大の原因は何だと思いますか? 敵の追撃の恐怖? いいえ、違います。……『飢え』と『疲労』、そして『弾薬の枯渇』です」


俺は、現代の軍事における最重要概念――【兵站ロジスティクス】の絶対的な重要性を、彼らに叩きつけた。


「人間は、腹が減って足が動かなくなり、撃つべき武器がなくなった時、恐怖で正気を失い、軍隊としての統率を失うのです。……ですから、私はこの撤退ルート上の三十箇所に、地元の木こりの小屋や炭焼き小屋に偽装した『補給拠点』をあらかじめ建てておきました」


「ほ、補給拠点だと……?」

丹羽長秀が息を呑む。


「はい。その小屋の地下には、数万人が数日食いつなげるだけの『備蓄米』と『真水』、そして『大量の火縄銃の弾丸と火薬』を隠匿してあります。さらに、各拠点には私の息のかかった炊き出しの要員を配置し、軍が通過するタイミングで『温かく、塩気の利いた握り飯』を作って配給させる手筈まで整えてあります」


「なっ……!?」

藤吉郎が、喉の奥でヒュッと息を吸い込み、完全に絶句した。


そう。帰り道が綺麗に舗装されており、道中の至る所に「温かい握り飯」と「真水」、そして「弾薬」がたっぷりと用意されている。

ならば、兵士たちは飢えることもなく、渇きに苦しむこともなく、武器がなくなる恐怖に怯えることもなく、ただ整然と歩くことができる。


「つまり、これは死の撤退戦などではありません」

俺は信長を見つめ、ニヤリと不敵に笑った。


「私は殿軍としてこの入り口の隘路あいろに残り、追撃してくる朝倉・浅井の軍勢を軽く足止めします。上様と皆様は、この安全なルートを通って、道中で美味しい握り飯を食いながら、ただの**『少し急ぎ足の遠足』**を楽しんで京へお戻りください。……何一つ、危険なことなどありませんよ」


完璧な兵站。

個人の武勇や、捨て石の精神論などに頼るのではなく、圧倒的な準備と資金力で「軍全体を安全かつシステマチックに移動させる」という、現代軍事の冷徹な基本である。


「……ふはっ、ふははははは!!」


沈黙を破ったのは、信長の腹の底からの大爆笑だった。


「一年前から逃げ道を作り、握り飯まで用意してあっただと! さすがは俺の十兵衛だ! 浅井の馬鹿共め、この織田信長を袋の鼠にしたつもりだろうが、最初から檻の鍵は開いていたどころか、逃げ道に極上の絨毯まで敷いてあったというわけだ!」

信長は上機嫌で立ち上がり、全軍に即座の撤退命令を下した。もはや陣幕の中に、悲壮感など欠片も残っていない。


だが、その足元で。

藤吉郎は、広げられた地図を見つめたまま、ガタガタと震えていた。


彼が己の命を懸け、血を吐くような思いで決意した「悲壮な忠義」と「決死の殿軍」。

それは、この男の前では、ただの『一年前に終わっていた事務処理』でしかなかったのだ。


(勝てない……! どんなに泥水すすって這い上がろうとしても、この男の足元にすら届かない……!!)


「泥臭い肉弾戦はわしらにお任せを」と豪語した自分が、ひどく滑稽なピエロのように思えてくる。

己の存在価値を根底から否定された藤吉郎の目から、屈辱と絶望の涙がボロボロとこぼれ落ちていた。


「さあ、藤吉郎殿。泣いている暇はないぞ。お前はしんがりではなく、荷駄隊(荷物運び)の指揮を執れ。逃げる道中は安全だが、荷物を落としては元も子もないからな」

俺が冷ややかに見下ろしながら命じると、藤吉郎は「は、ははっ……!」と嗚咽を漏らしながら平伏するしかなかった。

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