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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第3章:天下布武・完全攻略(チート)編 ~先回りされる秀吉~

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第7話:猿の一世一代の立候補(改稿版)

「上様!! 長居は無用にございます! 敵の包囲の輪が完全に閉じる前に、直ちに全軍を退却させねば、我々は一兵残らず全滅いたしますぞ!!」


金ヶ崎城の陣幕の中で、常に冷静な判断力を持つ織田家の重臣・丹羽長秀が、顔面を蒼白にさせて叫んだ。

その悲痛な声に、柴田勝家や佐久間信盛ら歴戦の武将たちも、言葉を失いながら重く頷く。


前方には、本拠地・一乗谷から勢いを吹き返して押し寄せる数万の朝倉軍。

後方には、同盟を破棄し、織田軍の背後(近江ルート)を完全に塞ぐべく進軍してきた数万の浅井軍。

このまま金ヶ崎に留まれば、文字通り「袋の鼠」として、両軍の間に挟まれてすり潰されるのは火を見るより明らかだった。


だが、ただ「退却すればいい」という単純なものではない。

数万の大軍が、敵に背中を見せて撤退する。それは戦場において最も難しく、最も危険な行動である。

統率を失った兵士が一人でも逃げ出せば、それは連鎖的なパニック(総崩れ)を引き起こす。追撃してくる朝倉・浅井の軍勢に背後から蹂躙され、軍は壊滅し、総大将である信長自身の命すら危うくなるのだ。


この絶体絶命の危機において、全軍を無事に逃がすために最も重要で、そして最も死亡率が高い、過酷な任務がある。

最後尾に残り、押し寄せる敵の大軍を自らの命を盾にして食い止める、捨て石の部隊――『殿しんがり』である。


「誰が残る……? 誰がこの死地で、殿軍を務めて上様をお守りする……?」

柴田勝家が、額から脂汗を流しながら、周囲の武将たちを見渡した。


誰もが目を伏せ、重い沈黙が陣幕を支配した。

それは決して、彼らが臆病だからではない。殿軍を務めれば、文字通り十中八九、生きて尾張へは帰れないからだ。数万の敵を相手に、限られた手勢で玉砕するまで足止めをする。武士として最高の名誉ではあるが、それは確実な死を意味していた。


(……来た! 来た来た来た来たぁぁっ!!!)


その重苦しい沈黙の中で。

陣幕のもっとも下座、風の吹き込む末席に座っていた木下藤吉郎(秀吉)の全身の血が、マグマのように沸騰していた。


彼にとって、これは起死回生の、そして人生最大の「大チャンス」だった。

墨俣一夜城での完敗以来、藤吉郎は明智光秀という男に完璧に策を奪われ、圧倒的な頭脳と資本力の前に完全に萎縮していた。光秀が仕掛ける『経済封鎖』や『事前工作』といったスマートな戦い方には、自分は一生かかっても勝てないと絶望した。


だが、この「死の任務(殿軍)」だけは違う。


(あんな涼しい顔をした、公家のような綺麗な戦い方しか知らん明智に、こんな泥臭い役目が務まるはずがない! 殿軍には、知識や小綺麗な計算など一切通用せんのだ!)


味方を逃がすために、泥にまみれ、血を吐き、最後の一兵になるまで槍を振るって敵に食らいつく「狂気の沙汰」。

それこそが、農民から這い上がってきた自分にしかできない、究極の泥仕事ではないか。


(ここでわしが殿を務め、奇跡的に生還してみせれば! 上様の絶大な信頼を得て、わしは織田家随一の武将として、あいつの上に立てる!!)


藤吉郎は、目を見開き、口の端からよだれを垂らしそうなほどの凄まじい気迫で、床を蹴り立てて立ち上がった。


「上様!!!」


陣幕を震わせるほどの、魂からの怒声。

全員の視線が、末席から踊り出るように進み出た小柄な猿顔の男に集まった。


「ここはこの藤吉郎に、お任せくだされ!!」


藤吉郎は、信長の目の前で勢いよく床に額を擦りつけ、血を吐くような悲痛な、しかし力強い声で叫んだ。


「必ずや殿軍を務め上げ、追撃してくる朝倉・浅井の兵どもを食い止めてみせまする! 上様を無事にお逃がしするためならば、この藤吉郎、命など惜しくはありません!! どうか、どうかこの死に役、わしにお申し付けくだされ!!」


その凄まじい気迫と忠義に、歴戦の猛将たちすら息を飲んだ。

普段は調子の良い、愛嬌だけが取り柄だと思っていた男が、死を完全に覚悟した本物の「武士の顔」になっている。


「……藤吉郎。お前……」


信長すらも、藤吉郎の決死の忠義に一瞬心を打たれ、言葉を失っていた。

史実通りであれば、ここで信長は深く感動し、「よし、頼んだぞ猿!」と涙ながらに彼に殿軍を任せる。そして秀吉は、徳川家康らとともに死線を潜り抜け、奇跡の生還を果たし、織田家での不動の地位を築き上げるという、彼にとっての最大の見せ場となるはずだった。


だが――。

俺(明智光秀)は、歴史オタクとしてその熱い感動のドラマを熟知した上で、冷酷に、木っ端微塵にそのフラグをへし折った。


パチン、と。


俺が静かに広げた白檀の扇子の音が、藤吉郎の熱い叫びを、無情に断ち切った。


「藤吉郎。でしゃばるな」


俺は、まるで道端に転がっている邪魔な小石を払いのけるような、極めて冷淡で、温度のない声で言い放った。


「え……?」

床に額を擦りつけていた藤吉郎が、間の抜けた顔で俺を見上げる。


「お前のその泥臭い根性と、死を恐れぬ忠義だけは認めてやる。……だが、殿軍というのは気合や精神論だけで務まるものではない。数万の敵を相手取るには、高度な戦術計算と盤面の支配が必要だ」


俺は藤吉郎を一瞥し、鼻で笑った。

「お前のような小兵には、荷が重すぎる。……俺がやる」


「な……!?」

藤吉郎の顔面から、一瞬にして血の気が引いた。


俺は信長に向き直り、扇子を閉じて恭しく頭を下げた。

「上様。殿軍は、この明智十兵衛光秀が引き受けます。……藤吉郎は、京に帰るまでの間、おとなしく上様の冷えた草履でも温めておれ」


俺の言葉に、藤吉郎の顔面が、今度は屈辱と怒りで真っ赤に染まった。

自分の命を賭けた決死の覚悟と忠義を、鼻で笑われ、「お前は草履取りの仕事だけしていろ」と完全に一蹴されたのだ。

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― 新着の感想 ―
>陣幕の中で、冷静な知将・黒田官兵衛が血相を変えて叫んだ。 その言葉に、歴戦の武将たちも青ざめた顔で頷く。 え?クロカン?? 確かに赤松浦上攻めで面識はあるかもしれないが、、、
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