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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第3章:天下布武・完全攻略(チート)編 ~先回りされる秀吉~

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第3話:墨俣の地と、川を下る「魔法」(改稿版)

翌朝。

尾張国と美濃国の国境を隔てる大河、木曽川のほとり――『墨俣すのまた』。


梅雨の気配を孕んだ、鉛色の重たい雲が空を覆う中、織田信長が率いる数千の本隊は、川沿いに陣を敷いていた。

湿度が高く、風の無い蒸し暑い朝だった。陣中の将兵たちは、数日前にこの地で大敗を喫した苦い記憶から、どこか重苦しい空気を纏い、固唾を飲んで目の前の光景を見つめていた。


「……十兵衛。見事に何もないではないか」


陣の最前列で床几しょうぎに腰を下ろした信長は、腕を組みながら不機嫌そうに目の前の景色を一瞥した。

信長の視線の先、木曽川の支流に囲まれた中洲のようになっている墨俣の地には、ただ雑草が生い茂り、泥にまみれた広大な『更地』が広がっているだけだった。

数日前に、柴田勝家や佐久間信盛が苦労して立てかけようとし、敵の襲撃を受けて焼き払われた「木の柵の残骸」と、無惨に放置された死体の血痕が、黒くこびりついている。


そればかりではない。

川幅の広い木曽川を挟んだ対岸には、美濃国の斎藤軍の陣地がずらりと並んでいた。

彼らは対岸に織田軍が姿を現すや否や、弓や鉄砲を構えるどころか、川縁に立ってゲラゲラと腹を抱えて笑い、下品な野次を飛ばしてきた。


「おおーい! また織田の負け犬どもが、城を建てに来たぞォ!」

「今度は何日持つかな! また俺たちが火をつけて燃やしてやるから、せいぜい頑張って木を切れよォ!」


斎藤軍の兵士たちが、尻を叩いて織田軍を挑発している。

柴田勝家が「おのれ、美濃の雑兵どもめ……! 上様、某にもう一度兵をお貸しくだされ! 今度こそあの対岸の連中を皆殺しにして、砦を築いてみせまする!」と顔を真っ赤にして息巻いたが、信長はそれを手で制した。


「魔法とやらはどうした、十兵衛」

信長の声音には、隠しきれない期待と、もしこれがハッタリであった場合は即座に首を刎ねるという、冷酷な魔王の殺気が混じっていた。


「昨日、完成していると言ったな。まさか、お前の口から出たのがただの出任せだったとは言わせんぞ」

「明智殿! いくら上様のお気に入りとはいえ、これ以上全軍の前で無様な恥を晒す気か! 早くお主の『魔法』とやらを見せてみよ!」

丹羽長秀も、忌々しげに俺(明智光秀)を睨みつけた。


その武将たちの背後、本陣の末席で。

木下藤吉郎(のちの秀吉)は、血走った目で俺の背中を睨みつけていた。

彼の心臓は、期待と狂喜で早鐘のように鳴り響いていた。


(あの日……立政寺の廊下で、この男はわしの『川から丸太を流す』という策を完全に見破り、「先回りして喰う」と宣言しおった。……ならば、今から来るのは間違いなく川からのいかだじゃろう。だが……!)


藤吉郎は、泥の地面に爪を立て、必死に湧き上がる笑いを噛み殺していた。


(この死地において、川から流した丸太を短時間で組み上げるには、地元の地形を知り尽くした荒くれ者……『川並衆(蜂須賀小六たち)』の協力が絶対に不可欠じゃ! 泥水すすって彼らを手懐けたわしならともかく、ぽっと出の明智に彼らを動かせるはずがない! 素人の足軽どもだけで丸太が組めるものか! 必ず失敗する!)


藤吉郎が、己の出世のすべてを懸けて「明智の失敗」を祈った、まさにその時だった。


「上様。ご安心ください。魔法の『仕込み』は、すでに終わっております」


俺は涼しい顔で微笑むと、右手に持っていた軍配――愛用の白檀の扇子を、高く空へと掲げた。

そして、対岸で馬鹿騒ぎをしている斎藤軍と、静まり返る織田軍の全将兵の視線を一身に集めながら、それを鋭く振り下ろした。


「作業開始!」


俺の通る声が響いた、その直後だった。


ブォォォォォォォォォォォン……!!!


俺の合図に呼応するように、木曽川の上流――尾張側の安全な山林の奥深くから、空気を震わせるような腹の底に響く法螺貝ほらがいの音が、何十も重なって鳴り響いた。


「な、なんだ!? 敵の伏兵か!?」

柴田勝家が慌てて刀に手をかけ、対岸の斎藤軍も「なんだなんだ」と騒ぎ始める。


「見よ! 川上から、何かが来るぞ!!」

物見の兵が、川の上流を指差して絶叫した。


朝の薄霧に包まれた木曽川の上流から、巨大な影が次々と姿を現した。

それは、数え切れないほどの無数の「いかだ」の群れだった。

十や二十という規模ではない。何百という長大な筏が、広い木曽川の川幅を完全に埋め尽くすようにして、濁流に乗って墨俣の岸へとものすごいスピードで迫ってきたのだ。


「……やはりやりおった! 上流から木を流しおったわ!」

藤吉郎は目を血走らせて筏の群れを睨みつけた。だが、その直後、彼の顔に醜い歓喜の笑みが浮かぶ。


(ほれ見ろ! 筏に乗っておるのは川並衆ではない! 鎧も着ていない、ただの素人の農民や足軽たちではないか! しかも、大工の親方の姿も見えん! あの男、やはり現場の実務を何も分かっておらん! 素人だけで、どうやって泥だらけの丸太を組むというのじゃ!? 絶対に失敗する! 崩れ落ちるに決まっておる!)


「さあ、失敗しろ! 無様に這いつくばれ!!」と、藤吉郎が心の底で絶叫した瞬間。


驚愕すべき真実が、彼の目を疑わせた。

墨俣の岸に次々と接岸していく筏。そこから作業員たちの手によって陸へと荷降ろしされる「木材」を見た瞬間、藤吉郎の顔から歓喜の笑みが完全に凍りつき、剥がれ落ちた。


「な、なんだ……あれは……? 木の形が……!」

藤吉郎の理解の範疇を、事態は完全に超えようとしていた。


筏に積まれていたのは、藤吉郎が想像していたような「山から切り出してきたばかりの、曲がりくねった泥だらけの丸太」などではなかった。


それは、樹皮を綺麗に剥がされ、かんながかけられ、表面が滑らかな直線に整えられた『真新しい角材』だった。

しかもそれらは、数千本という膨大な量でありながら、**『寸分違わぬまったく同じ長さ、同じ太さ』**に、恐ろしいほどの精度で切り揃えられていたのである。

さらに、柱となる木材の両端には、あらかじめ複雑な「凹凸のジョイント(継ぎ手)加工」が精密に施されており、表面には墨で「あ」「い」「う」といった文字や、独自の記号がデカデカと書かれている。


「丸太ではない……? なぜ、あのように形が完璧に揃っている……?」

藤吉郎の口から、魂の抜けたような声が漏れた。


そう。俺がこの戦国時代に持ち込んだのは、泥臭い丸太の筏流しなどではない。

現代建築の基礎中の基礎であり、極限まで無駄を削ぎ落とした規格化建築――すなわち**【プレハブ工法(ツーバイフォーの概念を応用した組み立て建築)】**であった。


「……十兵衛。あの木材は、いったいなんだ。あのように切り揃えられた木など、見たこともないぞ」

信長が、床几から立ち上がり、目を血走らせて俺に尋ねた。


「上様。私が『準備は完了している』と申し上げた意味がお分かりいただけたでしょうか」

俺は扇子で、次々と岸に陸揚げされる規格化木材を指し示した。


「戦国時代の築城というものは、山から木を切り出し、現場の大工が一本一本、その木の曲がり具合や太さを見極めてノコギリを引き、ホゾ穴を掘って現物合わせで組み上げていくのが常識です。……だからこそ、腕の良い職人と、何日もの『時間』が必要になる」


俺は、信長と、その後ろで呆然としている藤吉郎に向かって、現代工業の絶対的な合理性を叩きつけた。


「ならば、大工のカンと経験など一切不要な『同じ形の部品』を、安全な場所で大量生産してしまえばいいのです。……私は数ヶ月前から、今井宗久殿の莫大な資金を使い、尾張の奥地に巨大な工房を秘密裏に作りました。そこで何百人もの職人に、ただひたすらに、私が描いた図面通りの『同じ長さ、同じ太さ、同じ凹凸を持つ部品』だけを作らせ、備蓄し続けていたのです」


「部品……。城を、部品から作るというのか」

丹羽長秀が、そのあまりにも常識外れな概念に戦慄を覚えたように呟く。


「はい。ここにある木材は、すべてが完璧に計算された『城のパズルのピース』です」

俺はニヤリと笑い、岸辺で待機している作業員たちに向かって、扇子を大きく振り下ろした。


「よし! 荷降ろしを急げ! 現場では、一切木を切るな! カンナもノコギリも使うな! ただ印の通りに凹凸を合わせてめり込ませ、木のハンマーで叩き込め!」


俺の指示が響き渡ると、筏から木材を降ろした数百人の作業員たちが、一斉に動き出した。

彼らは熟練の大工ですらない。昨日までくわを握っていたただの農民や、俺が金で雇った素人の足軽たちだ。

だが、彼らに職人の技術など一切必要なかったのだ。


「おい、こっちの土台の穴は『あ』だぞ!」

「おう! じゃあ、この『あ』って書いてある柱を持ってこい! 挿し込むぞ!」


素人の足軽たちが、土台に開けられた凹み(あ)に、柱の凸部をスポンとはめ込む。

そして、上から巨大な木槌で「ドンッ!」と力任せに叩き込む。

ただそれだけだ。

カン! コン! ドンッ! ドンッ!

現場に、ノコギリで木を切る音や、カンナで削る音は一切響かない。大工同士の「寸法が合わねえぞ!」という怒声もない。

ただ、パズルのピースが完璧に組み合わさるような、小気味良い打撃音だけが、初夏の木曽川の川面にこだましていた。


まるで巨大な積み木かブロック玩具を組み立てるような圧倒的なスピードで、砦の骨組みが次々と、文字通り地面から「生えていく」ように組み上がっていく。

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