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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第3章:天下布武・完全攻略(チート)編 ~先回りされる秀吉~

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第1話:鬼門・墨俣と、苛立つ魔王(改稿版)

秀吉の心情を変更しました。

永禄9年(1566年)。初夏。

尾張国の中心に位置する、清洲城。

梅雨の到来を間近に控えた、じっとりと肌にまとわりつくような湿気を帯びた重苦しい風が、軍議の間に張り詰めた空気をさらに息苦しいものにしていた。


昨年の秋。俺(明智光秀)は、次期将軍・足利義昭を奉じてこの清洲城で織田信長と邂逅を果たし、圧倒的な資金力と未来のビジョンを提示することで、異例の抜擢を受け「織田家の筆頭家老」の座に就いた。


それから間もなくして、歴史の歯車が大きく動いた。

俺が絶対記憶のチート知識を駆使して「灰吹法(銀精錬)」や「硝石丘(火薬の国産化)」をプレゼンし、長年巨大なパトロンとして取り込んでいた美濃の国主『マムシ』こと斎藤道三。

俺の裏工作によって長男・義龍のクーデターは未然に防がれ、彼は史実よりも長く生きながらえて尾張と強固な同盟を結んでいたが……怪物と呼ばれた男も寄る年波には勝てず、ついに寿命でこの世を去ったのだ。


現在、美濃の国主は道三の孫にあたる『斎藤龍興たつおき』が継いでいる。

しかし、一代で美濃を掠め取った偉大なる祖父に比べて、龍興の器はあまりにも小さく、暗愚であった。酒と女に溺れ、祖父の代から国を支えてきた重臣たちを蔑ろにし、織田との同盟をあっさりと破棄したのである。


それを機に、俺は信長の右腕として、本格的に「美濃の解体と攻略」に取り掛かっていた。

俺は道三が生きているうちから、堺の大商人・今井宗久のネットワークを美濃の隅々にまで張り巡らせている。俺が仕掛けたのは、武力による侵攻ではなく、現代の金融と物流操作を応用した『経済的兵糧攻め(ハイパーインフレーションの誘発)』だ。

美濃の特産品である美濃和紙や茶を買い叩き、逆に他国からの輸入に頼らざるを得ない「塩」や「鉄」、そして「火薬」の流通を意図的に絞り、価格を高騰させたのだ。


結果として、現在の斎藤家の財政は、内部からカラカラに乾いた骨組みだけの状態に陥っている。

すでに西美濃三人衆(稲葉一鉄、安藤守就、氏家卜全)などの有力な国衆たちは、俺の事前の根回しによって織田家へ寝返る準備を完全に整えていた。


あとは、物理的に織田の軍を送り込んで、息の根を止めるだけだ。

……だが、ここで一つの『致命的な問題』が生じていた。


「美濃を完全に制圧する。……そのためには、どうしてもあの場所が要る」


上座に座る信長が、不機嫌な顔で床に広げられた巨大な絵図面の一点を、扇子の先で強く叩いた。

そこは、木曽川と長良川という二つの巨大な河川が合流する地点。尾張と美濃の国境地帯に位置する、軍事および水運の最重要拠点――『墨俣すのまた』である。


「ここに前線基地となる砦を築け。そこから兵站ロジスティクスを伸ばし、美濃の喉元に食らいつく。……だが、柴田も佐久間も、無様に失敗して尻尾を巻いて逃げ帰りおったな」


信長の冷酷極まる視線が、並み居る家臣たちを射抜いた。

その視線の先で、織田家が誇る双璧とも言える猛将、柴田勝家と佐久間信盛の二人が、顔を真っ赤にして平伏していた。普段は「鬼柴田」と恐れられる豪傑も、今ばかりはその広い背中を屈辱と恐怖で小刻みに震わせている。


「も、申し訳ござらぬ、上様……! 言い訳になりませぬが、あの墨俣は敵の領地内、しかも川に囲まれた防衛困難な死地! 大工や人足を連れて行き、山で木を切り倒し、骨組みを立てようとしたところを、敵の川並衆(ゲリラ部隊)に強襲され……!」

「佐久間の申す通りにございます! 我ら武将が戦う前に、矢玉の飛び交う中で大工どもが恐れをなして逃げ出してしまい、築城どころの騒ぎではなく……!」


必死に弁明する二人に、信長は苛立たしげに「チッ」と舌打ちをした。


「言い訳はよい。現地でチマチマと木を切り、カンナをかけ、のんびりと家を建てようとするから、敵に隙を突かれるのだ。たかが砦一つ築けぬで、何が天下布武か」


信長の怒りはもっともだが、柴田や佐久間を責めるのは少し酷でもあった。

歴史オタクの俺から言わせれば、当時の築城術というのは、基本的に「現物合わせ」である。山に入って木を伐採し、それを大工が一本一本、現場で長さや曲がり具合を見極めながらノコギリで切り、ホゾ穴を掘って組み上げていくのだ。

敵の領土のど真ん中で、そんな悠長な大工作業を行うなど、現代の軍事常識から考えても自殺行為に近い。


「誰かおらんのか。敵の妨害を許さず、迅速にあの墨俣に城を築ける者は」


信長の低く、凄みのある声が、軍議の間に響き渡った。

水を打ったように静まり返る武将たち。誰もが息を潜め、視線を床に落としていた。


だが、その凍りついた空気の中で。

もっとも下座、風の吹き込む末席に控えていた一人の小柄な男だけが、全身から冷や汗を流しながらも、目を血走らせて必死に思考を回転させていた。


木下藤吉郎。のちの豊臣秀吉である。


(ここだ……! ここでわしが名乗りを上げれば、この織田家の中で一気に成り上がれる……!!)


農民の出から這い上がってきた藤吉郎にとって、これは天から降ってきた千載一遇の大好機だった。

彼はすでに、誰にも思いつかない「神がかった秘策」――上流で木を切り、筏に組んで川を流し、川並衆を使って一夜で砦を組み上げる『墨俣一夜城』の青写真を、その脳内に完成させていたのだ。


だが。

藤吉郎の心臓は、期待と同時に、張り裂けんばかりの「恐怖」で早鐘のように鳴り響いていた。


(……いや、待て。あの時の明智様の言葉は、いったい何だったのじゃ……!?)


藤吉郎の脳裏に、数ヶ月前、この清洲城の薄暗い廊下で明智光秀から告げられた、あの悪魔のような宣告がフラッシュバックする。


『お前は今、上様の美濃攻めの足がかりとして、墨俣に一夜にして砦を築く計画を、密かに進めているな?』

『言っておくが、お前の手柄は、今後すべて俺が先回りさせてもらう。この俺の前に、お前が割り込む隙など一寸たりとも存在しない』


あの日、藤吉郎は己の出世のすべてを懸けたトップシークレットを完璧に見透かされ、完膚なきまでに心をへし折られた。

明智光秀には絶対に勝てない。自分の頭の中はすべて読まれている。あの恐怖は、今も彼の骨の髄までこびりついている。


(あ、あの化け物は『先回りして喰う』と申された……。だが、いくら明智様が未来を見通す悪魔であろうと、あれはわしを牽制するための『ハッタリ』の可能性もあるはずじゃ!)


藤吉郎は、冷や汗を拭いながら、必死に己の恐怖を否定し、論理を組み立てようと足掻いていた。


(そうだ! 築城というものは、机上の空論や小綺麗な計算だけでは絶対にできんのだ! 莫大な木材を切り出す人足の手配、そして現場で木を組み上げるためには、地元のならず者である『川並衆』の協力が絶対に不可欠じゃ!)

藤吉郎は、己の胸に手を当てた。

(川並衆の頭目である蜂須賀小六はちすかころくは、わしが夜な夜な酒を酌み交わし、泥水すすって頭を下げて、すでにわしの手駒として完全に握っておる! 明智様がいくら天才であろうと、あの野盗どもを実務の根回しなしに動かせるはずがない! つまり、あの方はまだ『城を建てるための物理的な手足』を持っておらんのだ!)


藤吉郎の目に、ギラリとした野心の炎が蘇る。


(ならば、勝機はある! 明智様がわしの策を真似て実務の準備を始める前に……今、この瞬間にわしが上様に直訴してしまえばよいのだ! 御前で『わしに秘策あり!』と宣言し、既成事実を作ってしまえば、いかに明智様でも横取りすることはできまい!!)


恐怖を執念でねじ伏せ、藤吉郎は己の人生のすべてを賭けるつもりで、腹の底から声を振り絞った。


「上様!!!」


軍議の間の全員の視線が、末席から踊り出るようにして進み出た、猿顔の男に集まる。

藤吉郎が意気揚々と顔を上げ、「この藤吉郎めに、墨俣の築城をお任せくだされ!」と口を開きかけた、まさにその瞬間だった。

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