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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第2章:青年・雌伏編 ~魔王との邂逅と、猿の影~

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第19話:未来を見透かす悪魔の囁き(改稿版)

明智十兵衛光秀の口から発せられたその言葉は、木下藤吉郎(のちの豊臣秀吉)にとって、まさに自らの心臓を素手で鷲掴みにされたかのような、致命的な一撃だった。


「なっ――――!!?」


藤吉郎の全身が、落雷に打たれたように激しく跳ね上がった。

心臓が破裂せんばかりに脈打ち、彼の顔から、ついに最後の一滴の血の気までが完全に引き退いていく。

呼吸の仕方を忘れたかのように、喉の奥からヒュッ、ヒュッと空気を無理やり吸い込む不自然な音が漏れた。


無理もない。

『墨俣一夜城』。

それは、織田信長が美濃国を完全に攻略する上で絶対に欠かせない最重要拠点であるが、敵である斎藤軍の激しい攻撃と地の利の悪さにより、すでに織田家の重臣たちが幾度も築城に失敗し、多数の死傷者を出して撤退を余儀なくされている、いわくつきの死地である。


藤吉郎は、ここで「一晩で城を建てる」という、当時の築城の常識を根底から覆す策を考えついた。

敵の目の届かない川の上流、安全な尾張側の山林であらかじめ木材を切り出して寸法通りに加工しておき、それをいかだに組んで木曽川の急流に乗せて一気に流す。そして、現地で一気に組み立てるという、現代のプレハブ工法に近い革新的な発想だ。


そして、その作業を成功させるために、木曽川周辺を縄張りとする野盗や水軍の頭目・蜂須賀小六はちすかころくたち『川並衆かわなみしゅう』の元へ夜な夜な通い、酒を酌み交わし、泥に額を擦りつけて頭を下げ、自腹を切った大金を握らせて、極秘裏に根回しを進めていたのだ。


これは、藤吉郎が己の出世のすべてを一発逆転に懸けて密かに練り上げている、彼だけのトップシークレットだった。

手柄を横取りされないよう、信長にすらまだ提案していない。誰よりも信頼している愛妻の「ねね」にすら、一言も漏らしていない。己の頭の中と、蜂須賀小六との密約の中だけにしか存在しない、至高の秘策だ。


それを。

今日、初めて会ったばかりの、美濃から来た男が、なぜ知っているのか。


「お、おまっ……な、なぜ、それを……!」

藤吉郎の唇が小刻みに震え、もはや先ほどまでの愛想笑いを取り繕うことすらできていない。額からは玉のような冷や汗が噴き出している。


間者スパイを放ったとでも思っているのか?」

俺は、藤吉郎の疑念を先回りして笑い飛ばした。


「馬鹿なことを考えるな。俺は美濃の国主である斎藤道三様の傍で、数え切れないほどの謀略を回してきた男だぞ? 蜂須賀小六のような義理堅い川の荒くれ者たちが、お前との密約を簡単にペラペラと他人に漏らすはずがないことくらい、分かっている」


「な……なら、なぜ……!」

藤吉郎の目が、恐怖で裏返りそうになっている。


「上流で木材を事前に加工し、筏にして川を下らせ、現地で一気に組み立てる。……敵地で悠長に木を切ってカンナをかけるから襲われるのであれば、安全な場所で『城の部品』を作り、現地に運んでハメ込むだけにすればいい。実に見事な発想だ」


俺は、藤吉郎の脳内にしかないはずの計画の全貌を、まるで彼が書いた設計図を直接読み上げているかのように、淀みなくスラスラと語り始めた。


「これならば、敵が気づいた時にはすでに防衛の要である骨組みと柵が完成している。蜂須賀たちのゲリラ部隊に周囲の警護を任せれば、一夜にして敵の喉元に砦を築くことが可能だ。……お前のその、常識に囚われない『兵站と土木の融合』の才能は、確かに天下の逸品だ」


「あ、あ、ああ……」

藤吉郎は、床にへたり込んだまま、ガタガタと全身を震わせた。


間諜ではない。誰にも漏らしていないのだから。

ならば、どうやってこの男は知ったのだ? まさか、本当にこの男は、人間の頭の中を直接覗き込むことができる妖怪変化の類なのか?

それとも、自分が何ヶ月も泥水すすって考え抜いた究極の奇策を、この男は『ただの座学』と『地形の分析』だけで、一瞬にして同じ結論に辿り着いたというのか?


どちらにせよ、藤吉郎にとってそれは、己の存在意義を根底から破壊されるほどの圧倒的な絶望だった。


「だ、だが……無駄だ」

俺は扇子で、藤吉郎の肩をトン、と軽く叩いた。


「え……?」

「その策は、見事だ。お前がそれを上様に進言し、見事に成功させれば、お前は間違いなく足軽頭から一気に部将クラスへと大出世を果たすだろう。……だが、俺は、お前にその手柄を立てさせるつもりはない」


俺は、冷徹な死神のような声で、のちの天下人に対する『歴史の強奪』を宣言した。


「お前が次に何を狙っているか、どんな手柄を立てようとしているか。どんな工作を仕掛けているか。……俺は、そのすべてを【事前に知っている】」


「……っ!!」


「そして、言っておくが。お前の手柄は、今後すべて、俺が『先回り』して喰わせてもらう」


俺の言葉が、冷たいくさびとなって藤吉郎の心臓に打ち込まれる。


「お前が思いつく程度の策は、俺の『知識』と、堺の今井宗久から引き出した『圧倒的な資本力』をもってすれば、すべてさらに巨大なスケールで、完璧な【上位互換】として実行可能だ。……この俺の前に、お前が自分の手柄として割り込む隙など、一寸たりとも存在しない」


史実において、秀吉が成し遂げた輝かしい功績の数々。

墨俣の一夜城。金ヶ崎の退き口での殿軍。備中高松城の水攻め。

俺は、それらすべてを「歴史オタクの現代知識」と「圧倒的な経済力」でスケールアップさせ、秀吉が活躍する前にすべて俺の手柄として実行してしまうつもりだった。


秀吉という天才を、ただ殺して排除するのではない。

彼の出世の芽をすべて刈り取り、彼に「明智光秀には絶対に勝てない」という絶対的なトラウマを植え付け、俺の手足として完全にコントロールする。

そうすることで、本能寺の変というバッドエンドの火種を完全に消滅させ、俺の目指す平和な世界パックス・ジャポニカへのピースとして利用し尽くすのだ。


「俺の描く盤面を乱すような真似をすれば、容赦はしない。……お前がこそこそと小細工を仕掛けようとも、俺はすべてお見通しだということを、ゆめゆめ忘れるな」


俺は身を離し、恐怖と混乱に顔を歪める藤吉郎を、まるで路傍の石ころを見るような冷ややかな目で見下ろした。


「精々、俺に遅れを取らないように、必死に泥水を啜って食らいついてこい。藤吉郎」


俺はそのまま翻り、背を向けて悠然と廊下を歩き去った。

反論する隙すら与えない、完全なる知識のマウント。

天才・秀吉の心をへし折り、己の存在の小ささを骨の髄まで叩き込むには、これで十分すぎるほどだった。


カツ、カツ、カツ……。

俺の足音が、静まり返った立政寺の廊下の奥へと遠ざかっていく。


取り残された藤吉郎は、無人の廊下の真ん中で、まるで強力な呪縛をかけられた石像のように硬直していた。


「精々、俺に遅れを取らないように、必死に泥水を啜って食らいついてこい。藤吉郎」


俺はそのまま翻り、背を向けて悠然と廊下を歩き去った。

反論する隙すら与えない、完全なる知識のマウント。

天才・秀吉の心をへし折り、己の存在の小ささを骨の髄まで叩き込むには、これで十分すぎるほどだった。

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