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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第2章:青年・雌伏編 ~魔王との邂逅と、猿の影~

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第13話:プレゼン① ~未来の裏切り者リスト~(改稿版)

俺(明智光秀)が恭しく差し出した上質な和紙の巻物を、織田信長は無言で受け取った。

シュルッ、と巻物が開かれる音が、水を打ったように静まり返った清洲城の大広間に響く。


信長の黒曜石のような瞳が、そこに記された墨の文字を上から下へと素早く追っていく。

そして、その顔に微かな驚きと、深い疑念の影がよぎった。


「……十兵衛。ここに記されている者たちの名、本気で書いたのか?」


信長が、地を這うような低い声で問いかける。

「はい。いずれ必ず上様に反旗を翻し、最も痛いタイミングで背後から決定的な牙を剥く者たちです。一分の狂いもございません」


俺が淡々と、まるで明日の天気を告げるかのような平坦な声で答えると、信長は巻物に書かれた最初の名前を、ゆっくりと口に出して読み上げた。


「……北近江の『浅井長政あさいながまさ』」


その名が広間に響いた瞬間。

大広間の空気が、文字通り完全に凍りついた。


「――き、貴様ッ! 御前でなんという妄言を吐くか!!」


たまらず床を蹴り立てて立ち上がり、広間が震えるほどの怒鳴り声を上げたのは、「鬼柴田」の異名をとる織田家の筆頭家老・柴田勝家だった。

彼の顔は朱に染まり、首の血管がはち切れんばかりに膨れ上がり、怒気で広い肩が激しく震えている。腰の刀に手をかけ、今にも俺を一刀両断せんばかりの猛烈な殺気を放っていた。

隣に座る丹羽長秀や佐久間信盛も、言葉には出さないものの、明確な敵意と侮蔑の目で俺を睨みつけている。


それも当然だ。俺が裏切りの筆頭に挙げた「浅井長政」は、北近江を統べる気鋭の若き大名であり、信長の最愛の妹・お市の方を娶った義弟なのだ。

本来の正史であれば、両家が同盟を結び、お市が嫁ぐのは2年後の1567年。しかし、歴史改変の歪みか、すでにその婚姻と同盟は成されていると帰蝶から聞かされていた。


今の織田家にとって、浅井家は上洛ルートを支える文字通りの「生命線」であり、最も強固な『絶対の同盟国』である。その義弟を裏切り者呼ばわりするのは、信長への侮辱に等しい。一歩間違えれば同盟を破綻させ、歴史をさらなる混沌へ突き落としかねない――まさに、万死に値する暴言だった。


「たかが美濃の浪人風情が、浅井殿を愚弄するか! 上様とお市様が結ばれた固き盟約を、預言者気取りでケチをつけるとは言語道断! 上様、この無礼者、それがしが即座に斬り捨てまする!」


勝家が抜刀しかけた、まさにその時だった。


「……控えよ、権六(勝家)」


信長の氷のように冷たい声が広間に響いた。

たった一言。それだけで、怒り狂っていた勝家はビクッと肩を震わせ、渋々といった様子で刀から手を離し、元の位置に平伏した。だが、信長自身の目も決して笑ってはいなかった。


「ふん……戯言たわごとを」

信長は顎を撫でながら、俺を射抜くように睨みつけた。

「市を嫁がせ、固い血の盟約を結んだ浅井が、この俺を裏切るというのか? ……理由を申してみよ。もし俺を納得させるだけの理がなければ、貴様の首は胴体と永久に離れ離れになるぞ」


「理由なら、明確にございます」

俺は一切動じることなく、信長の殺気を正面から受け止めながら、冷静に答えた。


「お市様を嫁がせ、政略結婚を結んだから絶対に安全だというのは、あまりにも古く、希望的観測に満ちた考え方です。……浅井家内部の『権力構造』と『地政学』を分析すれば、彼らが織田を裏切るのは、占いや預言などではなく『論理的な必然』なのです」


「権力構造だと?」

丹羽長秀が、訝しげに眉をひそめた。


俺は扇子を広げ、脳内の歴史データから導き出した現代の『組織論』を展開し始めた。


「浅井家は、織田家との同盟よりも、古くから付き合いのある越前の『朝倉家』との旧交を、構造上優先せざるを得ない派閥を内部に抱え込んでいます。当主である浅井長政殿がいかに上様を慕い、お市様を愛していようとも……浅井家の海北、赤尾、雨森といった重臣たちや、隠居したはずの父・久政殿は、強硬な『親・朝倉派』の急先鋒です」


俺は、信長に向かって一歩も引かずに断言した。


「いずれ上様が上洛を果たした後、言うことを聞かない朝倉義景を攻める時が必ず来ます。その時、浅井の重臣たちは必ず長政殿を押し切り、あるいは彼を幽閉してでも暴走し、我々の背後を突きます。……個人の愛情や同盟の絆よりも、長年培われた血縁と地縁の呪縛、そして『織田という巨大すぎる新興勢力への恐怖』の方が、彼らの組織にとっては遥かに強いのです」


史実において、信長を人生最大の死地――『金ヶ崎の退き口』へと追いやった元凶である。

あの絶望的な撤退戦を、俺は絶対に未然に防がなければならない。


「……信じられないのであれば、上洛を済ませた後、浅井には内緒で朝倉を攻めるフリをして『カマをかけて』みてください」

俺は不敵に笑い、具体的な対策案を提示した。


「本当に浅井が織田との同盟を第一に考えているなら、我々に同調するか、あるいは事前に朝倉との仲介を申し出てくるはずです。ですが、彼らは必ず不審な動きを見せ、背後から我々を挟み撃ちにしようと兵を動かします。……そうなる前に、あらかじめ退路を確保した上で罠を張り、浅井の裏切りを『事前に炙り出して』しまえばいい。そうすれば、我々は無傷のまま、裏切り者を大義名分をもって討ち滅ぼすことができます」


信長は、無言で俺の顔を見つめていた。

その瞳の奥で、俺の提示した論理的な推論と、浅井家内部の複雑な派閥事情という「情報の正確さ」が、凄まじい速度で咀嚼されているのが分かる。


「……なるほど。浅井の裏切りは、当主の意思ではなく、組織の構造的欠陥エラーゆえの必然か。……ならば、ここに書かれている他の者たちはどうだ? 松永久秀、荒木村重」


信長が顎で巻物を指し示した。彼はすでに、俺の言葉を単なる妄言ではなく、一つの「極めて高度な軍事情報」として扱い始めていた。


「大和国(奈良県)の松永久秀。……彼は、領地や金といった分かりやすい『欲望』で動く男ではありません。己の能力に対する絶対的な『自尊心プライド』で動く、厄介な怪物です」


俺は、現代の心理学に基づくプロファイリングを解説した。

史実において、松永久秀は信長に二度も反旗を翻し、最後は名器・平蜘蛛ひらぐもの茶釜とともに爆死するという、戦国随一のトリックスターである。


「彼を力で抑えつけ、名物を召し上げ、無理やり従属させても、彼の腹の底にある屈折した対抗心は決して消えません。いずれ上様が窮地に陥ったと見るや、己のプライドを満たすためだけに、必ず最も厄介なタイミングで裏切ります。彼を扱うには、圧倒的な力と同時に、彼の自尊心を巧みに満たしてやる『アメとムチの高度な心理操作』が必要不可欠です」


「……荒木村重は?」


「彼は『猜疑心と恐怖の塊』です。一度でも自分が疑われているのではないか、上様に粛清されるのではないかという疑心暗鬼に陥れば、どれほど優遇されていようとも、保身のために必ず裏切ります。彼には常に明確な評価と、過剰なほどの安心感を与え続けるか……あるいは、彼が疑念を抱き牙を剥く前に、早々に切り捨てるかの二択しかありません」


俺は巻物を広げ、信長の目の前に提示した。


「この巻物には、彼らだけでなく、武田信玄の西上作戦や、本願寺の蜂起といった、今後織田家を襲う致命的な『裏切りと危機のシナリオ』。そして、それらを引き起こす人間たちの『心理的動機』と、未然に防ぐための『物理的・政治的対策案』が、すべて緻密に記してあります」


信長は無言で巻物を手に取り、パラパラと目を通した。

そこに書かれているのは、未来人のオカルトめいた占いなどではない。各武将の性格、人間関係の機微、領地の経済状態、地政学的な不利といった、あらゆる情報を統合して導き出された、現代の「プロファイリング」と「リスクマネジメント」の極致だった。


「…………」


信長の目が、巻物の文字を追うごとに、驚愕に見開かれていく。

彼自身、兄弟や身内に裏切られた過去を持ち、人間不信のきらいがあり、常に周囲を警戒している男だ。だからこそ、俺の書いた「人間の負の感情のメカニズム」が、あまりにも恐ろしいほどに正確で、的を射ていることが痛いほどに理解できたのだろう。


「……面白い。これがすべて本当なら、貴様は天の目を持っていることになるな」

信長は巻物を閉じ、床几の手すりに肘をついて、ニヤリと猛禽類のような笑みを浮かべた。


「私はただ、人間の心のことわりと、歴史の必然を計算しているだけに過ぎません。……知恵とは、起きる前に危機を潰すためにあるのです」


俺が涼しい顔で答えると、広間に居並ぶ柴田や丹羽たちは、もはや反論する言葉を失い、俺という得体の知れない男の底知れぬ分析力に、完全に戦慄していた。

力押ししか知らない古い武将たちにとって、俺の「敵の心理と組織構造を読み解き、戦う前に無力化する」という戦法は、まるで悪魔の術のように見えたことだろう。


「よかろう。一つ目の手土産、確かに受け取った。これは百万の軍勢にも勝る、極上の盾(防壁)だ」


信長は、俺への警戒心を完全に解き、まるで新しい玩具を与えられた子供のように、目をギラギラと輝かせた。


「……だが、十兵衛。防ぐだけでは天下は獲れん。俺を世界の覇者にするというのなら、次は『矛(力)』を見せてみよ。二つ目の手土産とは、なんだ?」


信長の期待に満ちた問いかけ。

俺は、ここからが本当の「知の暴力」の始まりだとばかりに、懐からもう一つ、分厚く重い帳簿を取り出した。


武力ではない。血も流さない。

ただの数字と金で、国を丸ごと干し上がらせる、戦国時代の常識を根底から破壊する【マクロ経済(経済封鎖)】の青写真。


「はい。二つ目は……『経済封鎖と、貨幣統一の青写真』にございます」


最強の魔王の心臓を完全に鷲掴みにするための、歴史オタクの極大プレゼンテーションの後半戦が、今、幕を開ける。

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