第4話:絶対記憶という名の神の力
(これは、単なる夢じゃない……)
俺は震える手で、『戦国期の気象データに関する研究』という本を棚から引き抜いた。
本を開くと、その内容が「文字を読む」という過程をすっ飛ばして、直接脳内にデータとして流れ込んできた。
【天文12年(1543年)秋。美濃国北部にて季節外れの記録的豪雨あり。長良川水系が氾濫し――】
「一字一句、完璧だ……」
前世の記憶というのは、本来曖昧なものだ。「あんな事件があったな」と大まかに覚えていても、正確な年月日や、関わった人物のフルネームまで完璧に暗記している人間などいない。
だが、この空間は違う。
俺の脳は、前世で見聞きしたすべての情報を【絶対記憶】として、完全にデータ化して保存しているのだ。
(検索機能は……あるのか?)
試しに、空間の中で強く念じてみた。
『検索……1528年(大永8年)の美濃国の気象データ!』
すると、無数の書架の中から数十冊の本が発光し、俺の目の前にポンッと一枚の羊皮紙のようなパネルが浮かび上がった。
そこには、過去の歴史書や日記から抽出された「大雨の時期」「旱魃の記録」「その年の米の収穫量」が、綺麗にリスト化されて表示されていた。
「……すげえ」
俺は、感嘆の息を漏らした。
これは、現代のインターネット検索を脳内に直接インストールしているようなものだ。
俺の脳内には、GoogleもWikipediaも存在しないこの時代において、過去と未来を見通す「神のデータベース」が備わっている。
戦国時代において、情報は命だ。
「明日雨が降るか」「三年後に飢饉が来るか」「敵の武将がいつ裏切るか」。
それらを事前に100%の精度で知ることができるのなら、それはもう、魔法や奇跡と同義である。
(火薬の製法は?……ある。硝石の人工的な作り方もある。南蛮貿易の相場は?……完璧に出る。現代の複式簿記のやり方は?……すべて引き出せる!)
次々と脳内に展開される知識の奔流に、俺は打ち震えた。
絶望の底にいた赤ん坊の俺に、天はとんでもない武器を与えてくれたのだ。




