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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第2章:青年・雌伏編 ~魔王との邂逅と、猿の影~

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第6話:永禄の変と、幽閉された次期将軍(改稿版)

永禄8年(1565年)5月19日。

京の都を、いや、日の本の歴史そのものを根底から揺るがす、凄惨かつ衝撃的な大事件が起きた。


『永禄の変』――。

室町幕府第十三代将軍・足利義輝が、畿内の実権を完全に掌握しようと目論む三好三人衆と松永久秀の嫡男・久通が率いる一万もの大軍勢によって、居所である二条御所を急襲され、壮絶な討死を遂げたのである。


俺の脳内にある【絶対記憶の大図書館】が、史料に記されたその日の凄惨な光景を、容赦なく脳髄に再生する。

足利義輝は、ただ神輿として担がれるだけの飾り物の将軍ではなかった。剣聖・塚原卜伝から直々に奥義を伝授された『剣豪将軍』である。

彼は、御所に乱入してきた無数の敵兵を前にしても決して怯むことなく、足利将軍家に代々伝わる名刀――童子切安綱、三日月宗近、大般若長光といった国宝級の刀剣を、自身の周囲の畳の上に何本も突き立てた。

そして、襲い来る敵兵を次々と斬り伏せ、刃がこぼれて血脂で斬れなくなるたびに、新しい名刀へと持ち替えながら、鬼神の如き奮戦を見せたという。


だが、個人の武勇がいかに優れていようと、数千、数万という圧倒的な『数の暴力』の前では無力だ。

最後は、四方から一斉に障子を被せられて身動きを封じられ、その上から無数の槍で滅多刺しにされるという、武家の棟梁にあるまじき凄惨な最期を遂げた。


将軍が、家臣に殺された。

それは、約二百年続いてきた室町幕府の絶対的な権威が、完全に地に堕ちたことを意味する。天下は「神仏や血筋など関係ない。武力と野心を持つ者こそが正義である」という、真の下克上のカオスへと突入していくことになったのだ。


そして、その血生臭い暗殺劇の余波は、京の都から遠く離れた奈良・大和国にも及んでいた。


「……ひぃっ! だ、誰かおらんか! 外で足音がしたぞ! 私の首も、兄上のようにはねられるのか!?」


大和国、興福寺・一乗院。

深夜の薄暗い寝所で、一人の男が豪奢な布団を頭からすっぽりと被り、ガタガタと歯の根を鳴らして震え上がっていた。


この男こそが、暗殺された将軍・足利義輝の実の弟であり、仏門に入って『覚慶かくけい』と名乗っていた男――のちの室町幕府第十五代将軍・足利義昭である。


兄の暗殺劇から、すでに数日が経過している。

覚慶が幽閉されている一乗院の周囲は、すでに松永・三好方に与する完全武装した兵たちによって、幾重にも包囲されていた。

次期将軍の最有力候補であり、幕府再興の象徴(神輿)となり得る彼を、現体制を完全に牛耳ろうとしている三好三人衆たちが、生かしておく理由などどこにもない。

「明日にも、いや今夜にも刺客が押し入り、寝首を掻かれるのではないか」

その極限の恐怖と絶望で、覚慶は食事も喉を通らず、一睡もできずに、ただ布団の中で怯えることしかできなかった。


「なぜだ……。私は争いを嫌い、仏の道に入ったというのに。なぜ、このような恐ろしい目に遭わねばならぬのだ……!」


覚慶は、武将としての厳格な教育を受けてきた兄・義輝とは違い、幼い頃から僧侶として平穏に生きてきた男だ。刀の振り方も知らなければ、血生臭い謀略の経験もない。

そんな温室育ちの彼にとって、自分の命が理不尽な暴力によっていつ奪われてもおかしくないという現実は、あまりにも耐え難い精神的苦痛だった。


(……史実通りであるならば、この絶望の淵にいる彼を救出するのは、細川藤孝や一色藤長といった、足利家に仕える忠義に厚い幕臣たちだ)


俺――明智十兵衛光秀は、夜の闇に完全に溶け込みながら、興福寺の分厚い土塀のすぐ外で、冷ややかにほくそ笑んだ。


俺の脳内にある歴史データが、史実における「覚慶(足利義昭)の脱出劇」の顛末を正確に示している。

細川藤孝たちは、主君の弟を救うために知恵を絞り、自らの身の危険を顧みず、夜陰に乗じて覚慶を寺から脱出させることに成功する。彼らの忠誠心と勇気は、確かに武士のかがみとして賞賛されるべきものだ。


だが、彼らには、決定的に、致命的に欠けているものがあった。

それは――『金(工作資金)』と『軍事力』だ。


彼ら幕臣は、京を追われて領地も収入も失い、文字通り「一文無し」の素寒貧すかんぴんだった。

そのため、覚慶を無事に寺から脱出させた後、彼らは身分を隠すために、次期将軍となるべき高貴な覚慶に、ボロボロの汚い衣服をまとわせた。まともな護衛も雇えず、駕籠かごすら用意できず、自らの足で夜の悪路を歩かせた。

路銀がないため、まともな宿にも泊まれず、農家の納屋や冷たいほこらで雨風を凌ぎ、粗末な粥やひえをすすりながら、諸国を乞食のように放浪することになるのだ。


甲賀から近江、若狭、そして俺が先に見限った越前の朝倉義景を頼るまで。

命の危険に晒されながら、何年にもわたる惨めで血を吐くような逃避行。


「……あの『極限の貧困と、惨めな放浪期間』こそが、すべての元凶なのだ」


俺は、漆黒の夜空を見上げながら、一人静かに呟いた。


史実の足利義昭は、この長きにわたる命懸けの逃避行の末に、激しいコンプレックスと猜疑心の塊のような、歪んだ男へと変貌してしまう。

「自分は将軍の血筋なのに、なぜこんな惨めな思いをしなければならないのか」

「誰も自分のことを心から敬っていないのではないか」

そんな被害妄想が、彼の心をどす黒く染め上げていく。


その結果、のちに彼を奉じて上洛を果たし、文字通り命の恩人となったはずの織田信長に対しても、彼は心の底から信用することができなかった。

「信長は、自分を傀儡(あやつり人形)にして天下を奪おうとしているのではないか」と常に恐れ、裏で全国の大名(武田や浅井・朝倉、毛利など)に密書を送りまくり、『信長包囲網』という最悪のデスゲームを仕掛けるトラブルメーカーと化す。

それが最終的に、室町幕府の完全な滅亡を引き起こし、日本中を血の海に沈めることになるのだ。


(ならば、解決策は至極簡単だ。……彼に『惨めな思い』など、ただの一秒もさせなければいい)


俺の懐には、堺の豪商・今井宗久と結託し、複式簿記と石鹸シャボンの独占販売によって引き出した、天文学的な額の『工作資金(極上の灰吹銀)』が唸りを上げている。


史実の細川藤孝たちが、忠義と勇気だけで挑んだ泥臭い脱出劇。

それを俺は、圧倒的な「札束ビンタ」による資本主義の暴力で、完璧にスマートな『超VIP待遇の夜の遠足』へと上書きしてやる。


最初から彼を「何不自由ない金ピカの神輿みこし」として徹底的に甘やかし、俺という存在に骨の髄まで完全依存させてしまえばいいのだ。

「自分で考える必要はない」「金も安全もすべて明智が用意してくれる」。そう思わせれば、彼は誰に密書を送ることもなく、ただ俺の用意した座布団の上で大人しく微笑むだけの、無害で最高の大義名分カードとなる。


「さて……魔王(信長)への最高の手土産を、お迎えに上がるとしようか」


俺は懐の重みを確認すると、闇夜に同化する黒装束のまま、音もなく興福寺の境内へと足を踏み入れた。


境内には、三好方から派遣された無数の兵士たちが、松明たいまつを焚いて厳重な警戒態勢を敷いている。覚慶のいる一乗院の周囲は、蟻の這い出る隙間もないほどだ。

だが、俺の口元には、余裕と冷酷さが入り混じった、悪魔のような笑みが浮かんでいた。


武力で血路を開く? 忍術で密かに連れ出す?

馬鹿馬鹿しい。そんなリスクを冒す必要など、どこにある。


俺は、門の前に立っている三好方の警備隊長らしき男の背後に、音もなく歩み寄った。


「誰だッ!?」

気配に気づいた隊長が、慌てて槍を構えて振り返る。その周囲の兵士たちも一斉に殺気を放ち、俺を囲み込んだ。


だが、俺は武器を抜くどころか、両手を広げて無抵抗を示し、懐からずしりと重い『皮袋』を取り出した。


「こんばんは、ご苦労様です。……少し、冷たい夜風にあたりながら、『極上の夢』を見るお話をしませんか?」


俺が皮袋の紐を解き、中に入っている眩いばかりの『灰吹銀』の輝きを彼らの目に見せつけた瞬間。

殺気立っていた兵士たちの動きが、魔法にかけられたようにピタリと停止したのだった。

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