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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第2章:青年・雌伏編 ~魔王との邂逅と、猿の影~

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第1話:越前・一乗谷の泥舟(改稿版)

天文21年(1552年)。

春の柔らかな日差しが、若葉の萌える美濃の山々を照らし出していた。


俺と妻の熙子ひろこは美濃国を出発し、諸国漫遊の旅に出ていた。

表向きの身分は、「特定の主君を持たず、己の武芸と軍学の見聞を広めるために諸国を巡る、流浪の兵法者」である。

だが、その実態はまったく違う。俺の懐と、背後を固める護衛たちの荷の中には、美濃の国主・斎藤道三から託された莫大な工作資金が唸りを上げていた。


俺が道三にプレゼンし、実用化にこぎつけた『灰吹法(銀の精錬技術)』と『硝石丘(火薬の国産化)』。これらが数年の間に美濃へもたらした天文学的な利益の、ほんの一部である。

マムシの義父は、出発の朝、山のように積まれた黄金と白銀の束を前にして「好きに使え。そして外の世界を見て、さらに化けてこい」と不敵に笑い、俺たちを送り出してくれたのだ。


「十兵衛様、外の景色がとても綺麗ですわ。美濃の山とはまた違う、荒々しくも雄大な風景ですね」

「ああ、越前国(現在の福井県)に入ったからな。道は少し険しくなるが、駕籠かごの乗り心地はどうだ? 疲れていないか?」

「はい! この駕籠、少しも揺れませんし、中はふかふかで、まるで自分のお部屋にいるようです」


特注のステルス・キャンピングカー仕様の駕籠の中から、熙子が小窓を開けて嬉しそうに顔を覗かせる。俺の現代知識を活かして板バネ(サスペンション機構)を仕込んだその駕籠は、舗装されていない戦国時代の悪路にあっても、中の熙子に一切の疲労を感じさせない作りになっていた。


史実における明智光秀が、没落の末に美濃を追われ、泥水と血をすするような思いで越前へと逃げ延びた「極貧の逃避行」とは真逆である。俺たちは今、潤沢な資金と最高級の装備、そして俺の古武術データで鍛え上げられた一騎当千の少数精鋭の護衛部隊に囲まれ、極上の新婚旅行(視察ツアー)を満喫していた。


俺たちがまず足を運んだのは、越前国の中心地にして、名門・朝倉氏が百年以上にわたって栄華を築き上げてきた本拠地、『一乗谷いちじょうだに』だった。


「ほぅ……これが『北陸の小京都』か。確かに、美濃の荒々しい城下町とは違って、見事なものだな」

「ええ、十兵衛様。どこからともなく、お香の匂いやお囃子の音が聞こえてまいります。まるで都にでも来たかのような、雅な空気が漂っておりますね」


連なる山々に抱かれた一乗谷の町並みは、戦国乱世にあるまじき別天地だった。

谷筋に沿って整然と区画された広大な武家屋敷。計画的に引き込まれた足羽川の豊かな水流が水路を巡り、庭園を潤している。大通りを行き交う商人や文化人たちの装いも、美濃や尾張のそれとは比べ物にならないほど華やかで、上方(京都)の最新の流行を取り入れていた。


だが、俺の脳内にインストールされた【絶対記憶の大図書館】は、この美しい街を一目見た瞬間に、その致命的な「脆弱さ」を容赦なく弾き出し、警告のアラートを鳴らしていた。


(……綺麗だが、所詮は箱庭だ。防衛の概念が欠落している)


俺は馬上から、周囲の山々と町の構造を冷徹に分析した。

一乗谷は、山に囲まれているとはいえ、町を取り囲む強固な城壁もなければ、敵の進軍を阻むような深い水堀もない。武家屋敷の土塀は低く、あくまで「美観」と「権威の象徴」としての役割しか持っていない。

『自分たちの領地に、他国の大軍が攻め込んでくるはずがない』という、名門故の驕りと、長年の平和ボケが生み出した、致命的な防衛構想の欠陥だった。


史実において、この数十年後。織田信長の大軍勢が越前へ侵攻してきた際、一乗谷はなんの抵抗もできないまま、わずか数日で火の海となり、百年の栄華は灰燼かいじんに帰すことになる。

その確定された悲惨な未来の光景が、俺の脳裏にはありありと浮かんでいた。


(名門・朝倉家。史実の明智光秀が、十年もの長きにわたって仕官を求め、燻り続けた相手。……さて、ここの当主は、俺が乗るに足る神輿なのか、それとも沈みゆく泥舟なのか。直接、俺の目で見極めさせてもらうとしよう)


数日後、俺は朝倉家の当主・朝倉義景あさくらよしかげに謁見する機会を得た。


「見事な蹴鞠けまりにございますな、お館様!」

「うむ、うむ! 都の公家衆にも劣らぬであろう。さあ、次はそちの番じゃ!」


一乗谷の中心にある豪奢な館の庭。

きらびやかな狩衣かりぎぬを着崩した義景が、楽しげに鞠を蹴り上げている。取り巻きの重臣たち――朝倉景鏡かげあきらをはじめとする面々は、へらへらと愛想笑いを浮かべて拍手喝采を送っていた。


俺は庭の隅で、その光景を氷のように冷めた目で見つめていた。

脳内の『図書館』から、朝倉義景のデータを検索する。


(朝倉義景……文化人としては間違いなく超一流だ。領内の統治も現状はそこそこ安定している。だが、武将としての決断力と、乱世を食い破る野心は皆無。のちに足利義昭を保護しながらも上洛の好機を逃し続け、最後は織田信長に蹂躙されて一族もろとも滅び去る男……)


実際に一乗谷に滞在して数ヶ月、俺は朝倉家の中枢を冷静に観察してきたが、すべてはデータ通りの無能ぶりだった。

家臣団は無意味な派閥争いと足の引っ張り合いに明け暮れ、義景自身は酒と蹴鞠と和歌に溺れている。


「朝倉様」

俺は宴の合間を縫って、あえて進言を試みた。

「昨今、尾張では織田の若き当主が力を増し、南の海では南蛮の船が未知の武器をもたらしております。越前も今こそ商港を整備し、他国の情報と新たな技術を取り入れるべきかと存じますが」


途端に、庭の空気が白けた。

義景は不機嫌そうに扇子で口元を隠し、重臣の景鏡が鼻で笑って俺を嗜めた。

「よせよせ、美濃の浪人風情が。天下は足利公方様を中心に回っておるのだ。尾張の田舎侍や得体の知れぬ異人どものことなど、我が名門・朝倉が気にかける必要など欠片もないわ。そのような無骨な話は、この雅な宴にはふさわしくない」


(……駄目だこりゃ)


俺は心の底で深くため息をついた。

美濃のマムシが常に抱いていたような、ヒリヒリとする「野心」や「危機感」が、この一族には微塵もないのだ。

変化を恐れ、過去の栄光にすがりつく者たち。彼らは自分が乗っている船の底に穴が空いていることにすら気づいていない。


「……こんな泥舟に、何年も乗ってやる義理はないな」


その夜。

一乗谷で借り受けている上等な宿の部屋に戻った俺は、静かに決断を下した。


「十兵衛様? いかがなさいましたか。少しお疲れのようですが」

背後から、熙子がそっと俺の肩に触れた。彼女からは微かに、上質な椿油の香りが漂ってくる。

振り返ると、月の光に照らされた熙子の美しき黒髪が、絹のように艶やかな輝きを放っていた。


その髪を見た瞬間、俺の胸の奥がギュッと締め付けられた。


(史実の明智光秀は、この一乗谷で極貧の生活を送っていた。連歌会を催すことになったが、客をもてなす酒や肴を買う金すらない。その時、熙子は自らの命とも言えるこの美しい黒髪を切り売りして、夫の面目を保ったのだ……)


俺は思わず手を伸ばし、熙子の黒髪をそっと掬い上げた。

指先から伝わる滑らかな感触。前世の知識チートを持つ俺だからこそ知っている、彼女のあまりにも悲しく、そして尊い献身の記録。


「十兵衛様……?」

不思議そうに見つめる熙子を、俺は力強く抱き寄せた。


「熙子。俺は絶対に、お前に苦労などさせない。その美しい髪を、一筋たりとも失わせたりはしない」

「ふふっ、急にどうなされたのですか? 私は十兵衛様のそばにいられるだけで、すでに日本一の果報者でございますよ」


熙子は俺の胸に頬をすり寄せ、花がほころぶように微笑んだ。

その笑顔を守るためなら、俺は歴史の改変など何度でもやってやる。


史実の光秀は、真面目すぎたがゆえに、この沈みかけの泥舟で十年も燻り続けた。だが、俺は違う。結末が分かっている腐った組織で、貴重な時間を浪費してやるつもりは一秒たりともない。


「熙子、明日の朝一番で荷物をまとめろ。一乗谷はもう終わりだ」

「あら、もう次の地へ向かわれるのですね。今度はどちらへ?」

「日の本で最も金と情報が集まる場所――『堺』だ」


俺の言葉に、熙子は目を丸くした。

南蛮船が寄港し、鉄砲が取引され、莫大な富と欲望がうごめく独立自治都市・和泉国の堺。

そこには、俺の持つ【現代の金融・経済知識】と【技術チート】を最大限に活かせる土壌がある。武力ではなく、圧倒的な「経済力」と「ロジスティクス」で天下の盤面を支配するための、最初の基点だ。


翌朝。俺たちは一乗谷の宿をあっさりと引き払った。

朝倉家に別れの挨拶すら残さなかった。沈むことが確定している泥舟に乗り、優雅に蹴鞠に興じている連中を冷たく見捨て、俺の馬は新たな覇権の舞台である南へ向けて、軽やかに駆け出した。

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