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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第1章:幼年・美濃編 ~チート赤ん坊、マムシを飼い慣らす~

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第25話:帰蝶プロデュース ~最強のエージェント教育~(改稿版)

「ただの妻でもありません。もっと重要な、この歴史の裏側を動かす極上の役目です」


俺は帰蝶の瞳を真っ直ぐに見返して言った。


俺の脳内に蓄積された歴史オタクとしてのデータによれば、史実の帰蝶(後世で言うところの濃姫)は、織田信長に正室として嫁いだという記録を最後に、歴史の表舞台からぷっつりと姿を消してしまう。

信長の正室という、戦国時代において最も重要で注目されるべきポジションにありながら、いつ死んだのか、どのような生涯を送ったのか、信長との夫婦仲はどうだったのかすら、明確な史料が一切残されていない「謎に包まれた女性」なのだ。


一説には、輿入れしてすぐに病死したとも、父である斎藤道三が長良川の戦いで討ち死にした直後、実家の後ろ盾を失ったことで離縁され、美濃へ送り返されたとも言われている。

また別の説では、本能寺の変のその日まで信長の傍に寄り添い、燃え盛る炎の中で薙刀を振るって共に戦い、焼け死んだというドラマチックな創作めいた逸話すらある。だが、どれも推測の域を出ない。真実は、歴史の深い闇の中だ。


だが、この俺が、可愛い妹分である彼女を「ただ歴史の闇に消えるだけの、使い捨ての政略の駒」にしておくはずがない。

俺が彼女を、歴史上類を見ない「最強のプロデューサー兼、俺の尾張での現地エージェント(工作員)」として完璧に育成し、魔王の隣へと送り込めばいいだけの話なのだから。


「この数ヶ月間、私が貴女に何を教えてきたか、覚えておいでですか?」


俺の問いに、帰蝶は不安の影を拭い去り、少し誇らしげに、美しい胸を張った。


「ええ、もちろんよ。十兵衛が作った『いろは歌』を用いた、高度な暗号の作成と解読法。……それから、堺の商人たちが使うという『複式簿記』の基礎と、複雑な裏帳簿から金の流れの矛盾や横領を見抜く術。……さらには、人の顔の筋肉の微細な動きから隠された嘘や悪意を見破る方法や、銀のかんざしや特定の薬草を用いた、食べ物に盛られた毒の判別法まで」


彼女の言う通りだ。

俺は帰蝶の尾張への輿入れが決まってからの数ヶ月間、ただ指を咥えて見守っていたわけではない。俺の持つ【現代の諜報技術インテリジェンス】や【経済・心理学の知識】のエッセンスを、彼女の優秀な頭脳に徹底的に叩き込んできたのだ。


例えば暗号技術。ただの符丁の入れ替えではなく、現代の「ヴィジュネル暗号」の原理を応用した、当事者同士しか知らない「鍵となる言葉」を持たなければ絶対に解読不可能な多表式の暗号を教え込んだ。

心理学については、現代の「微表情学」を基にし、口元や眉間のピクつき、無意識の視線の動きから、相手が真実を語っているか、腹の底で殺意を隠しているかを瞬時に見抜くプロファイリング技術を伝授した。

さらに、毒殺を回避するための初歩的な化学反応の知識まで。


彼女の知能と吸収力は凄まじかった。マムシの血を引く娘というだけでなく、彼女自身の生きるための本能が、スポンジが水を吸うように俺の知識を自分のものにしていったのだ。

今の彼女は、深窓の姫君などではない。そこらの並の武将や忍びなど足元にも及ばない、極めて優秀で、そして恐ろしく危険な『エージェント』に仕上がっている。


「その通りです。帰蝶様、貴女には、信長の『最高の理解者』であり、同時に彼の命を守る『最強の盾』となっていただきます」


俺は帰蝶の前に歩み寄り、誰にも聞かれないように声を潜めた。


「古い常識にとらわれない彼は、いずれ必ず、古い価値観を持つ織田家内の身内の家臣たちと激しく対立し、命を狙われることになります」


史実において、信長の最大の試練は他国からの侵略ではなく、「身内の裏切り」だった。

父親である信秀が死んだ後、古い権威にすがる古参の重臣たち(林秀貞や柴田勝家など)は、奇抜な信長を排除し、行儀の良い弟である信行(信勝)を次期当主に担ぎ上げようと画策する。信長は、実の弟や信頼していたはずの家臣たちから次々と刃を向けられ、四面楚歌の絶望的な孤立状態に陥るのだ。


「誰もが彼を馬鹿だと嘲笑い、裏切り、暗殺を企てる。……その時、貴女だけが彼の見ている広い世界を理解し、その背中を守るのです。彼が孤独に陥り、誰も信じられなくなった時は、貴女が彼を支えなさい」


俺は、彼女の黒曜石のような目を真っ直ぐに見つめて言った。


「そして、彼が戦の資金や情報に困窮した時は、私がこの美濃に構築した『莫大な資金力』と『情報網スパイネットワーク』を使って、裏から彼を全力で助けてください」


尾張を内側から食い破るための間者として潜り込むのではない。

尾張の魔王を、美濃のチート能力でプロデュースし、共に天下へと押し上げるための強固な共同戦線。その中核に、この帰蝶を配置するのだ。


「十兵衛の代わりに、私がその『天才』の隣で盤面を動かせ、と言うのね」


帰蝶の口元に、父親である斎藤道三にそっくりな、好戦的で美しく、そしてゾクゾクするような魔性の笑みが浮かんだ。

政略の駒として絶望していた少女は、歴史を裏から操るという果てしない野望のスケール感に触れ、完全に「戦国の女」としての覚醒を果たしたのだ。


「ええ。貴女にしかできない、極上の役目です。……私と貴女で、あの織田信長という魔王をコントロールし、この日の本の歴史そのものを、我々の都合のいいように書き換えてやりましょう」


俺たちが悪党同士のように顔を見合わせて笑い合っていると、ふと、帰蝶の笑顔がスッと消えた。

彼女は、一抹の不安を覗かせるように、俺の顔を真剣な眼差しで見つめ返した。


「……でも、十兵衛。もしあなたの推測が外れていて、あの織田信長という男が、本当にただの『度し難い馬鹿』であり、狂人だったら?」

「……」

「私の価値を少しも理解できず、私をただの人質として蔑み、暴力で虐げるような暴君だったとしたら……私は、どうすればいいの? 大人しく、妻として耐え忍んで死を待つしかないの?」


政略結婚における最悪のケースだ。

戦国時代において、妻は夫の所有物も同然である。実家に逃げ帰ることなど許されず、虐げられれば泣き寝入りするしかない。それがこの狂った時代の絶対的な常識だった。


だが、そんな常識は、俺の辞書には存在しない。

帰蝶の問いに対する答えは、俺の中で最初から完全に決まっていた。

俺の可愛い妹分を、史実の通りに泣き寝入りさせ、歴史の闇に葬らせるつもりなど、毛頭ない。


俺は、周囲の茂みや屋根の上に、道三の放った忍びや護衛の気配が誰一人として潜んでいないことを、研ぎ澄ませた五感で完全に確認した。

そして、ゆっくりと自分の着物の懐に手を入れた。


「――その時は、こうしてください」


俺は、懐の奥深くから、ずしりと重い「黒光りする鉄の塊」を取り出した。

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