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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第1章:幼年・美濃編 ~チート赤ん坊、マムシを飼い慣らす~

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第24話:帰蝶の不安と、魔王の真実(改稿版)

天文18年(1549年)。

俺が美濃に持ち込んだ「現代金融の罠(債権の買収とインフラ支配)」によって、斎藤義龍の謀反の芽が、一滴の血も流れることなく未然に粉砕されてから、数年の月日が流れていた。


内部の不安要素を完全に排除し、俺の『灰吹法』と『硝石丘』によって莫大な富と武力を蓄え続けた美濃国は、文字通り盤石の一枚岩となっていた。

そしてこの年、美濃の国主である斎藤道三と、南に隣接する尾張国(愛知県)の国主・織田信秀との間で、長年にわたる血みどろの国境抗争に終止符を打つ「強固な和睦と同盟」が結ばれることとなったのだ。


その同盟の最も重要なあかしとして、道三の愛娘である「帰蝶(きちょう・のちの濃姫)」が、織田信秀の嫡男である『織田三郎信長』へ正室として嫁ぐことが決定した。

これは、俺の脳内にある歴史の教科書にも間違いなく載っている、史実通りの展開である。


「……十兵衛。私は、本当にあの尾張の『大うつけ』に嫁がねばならないの?」


稲葉山城の奥深く、美しく手入れされた枯山水の庭園。

色鮮やかで上等な絹の小袖に身を包んだ帰蝶が、水面に浮かぶ錦鯉を見つめたまま、ひどく不安げな、今にも泣き出しそうな瞳で俺に問いかけてきた。


彼女は俺より少し年下で、現在数えで十五歳。マムシの娘として類まれなる美貌と聡明さを持ち合わせているが、今はその美しい顔が深い憂いに沈んでいる。

俺が道三の懐に入り込み、次々と圧倒的な成果チートを上げてからというもの、彼女は俺の才覚を誰よりも間近で見て、ひどく慕ってくれている。俺にとっても、この過酷な戦国時代において、賢く手のかからない、妹のような大切な存在だ。


(もちろん、俺の心の中の正室の座には、最愛の熙子が揺るぎなく座っているが)


「尾張の織田三郎信長といえば……身なりは常軌を逸して奇抜で、髪は茶筅髷ちゃせんまげを赤い紐で縛り上げ、着物の袖を外し、腰には瓢箪ひょうたんや火打ち袋をジャラジャラとぶら下げていると聞くわ。おまけに、町中で立ったまま瓜や餅を下品に食い歩き、すれ違う者の肩にぶつかっては喧嘩を吹っ掛けるような『手のつけられない度し難い馬鹿』だと、美濃中に悪い噂が広まっているじゃないの」


帰蝶の言葉には、抗えない運命への諦めと、精神に異常を来しているかもしれない男の下へ送られることへの、強い恐怖と絶望が混じっていた。


無理もない。当時の武家社会の常識からすれば、信長の行動は完全に「狂人」のそれである。

戦国時代の姫君は、家と家を結ぶための政略結婚の『道具(駒)』だ。実家が有利になればそれで良く、嫁いだ先の夫がどれほどの暴君であろうと、暗愚であろうと、文句を言うことは許されない。運が悪ければ、同盟が破棄された瞬間に人質としてはりつけにされて殺される運命にある。


「……私は、政略の駒として、そんな常識の通じない馬鹿な男に一生を捧げ、最期は無惨に死ぬのね」


自嘲気味に笑う帰蝶を見て、俺は小さく息を吐いた。

史実の帰蝶(濃姫)は、信長に嫁いだ後の記録が、歴史書からぷっつりと途絶えている。「謎に包まれた女性」であり、いつ死んだのか、子供がいたのかすら明確に分かっていないのだ。本能寺の変で信長と共に薙刀を振るって戦い、燃え盛る炎の中で焼け死んだという創作めいた説すらあるが、真実は深い闇の中である。


だが、この俺が、大切な妹分である彼女を「ただ歴史の闇に消えるだけの哀れな女」にしておくはずがない。


「ご安心ください、帰蝶様。尾張の織田信長は、決して『うつけ(馬鹿)』などではありません」


俺は庭の飛び石に腰を下ろし、彼女の不安を根底から払拭するように、優しく、だが確信に満ちた声で告げた。


「え……?」

帰蝶が、驚いたように顔を上げる。


俺の脳内にある『絶対記憶の大図書館』が高速で開き、未来の織田信長の行動記録、彼が後に行う「楽市楽座」などの先進的な経済政策、そして宣教師ルイス・フロイスが残した緻密な人物像のデータを瞬時に引き出し、空中のホログラムパネルに展開する。


「信長という男は、古い因習や良き常識、迷信を徹底的に嫌い、己の目で見たものしか信じない、恐ろしいほどの『合理主義の塊』です。彼が奇抜な格好をして町を遊び歩き、周囲からうつけと呼ばれているのには、明確な二つの理由があります」


俺は扇子を広げ、その一つ目の理由を口にした。


「一つは、完璧な『擬態』です」

「擬態……? 虫や獣が、敵から身を隠すように?」

「その通りです。織田家もまた、内部に多くの敵を抱えています。古い権威に縛られた家臣たちや、跡目争いを狙う優秀な弟、そして隣国の間者たち。信長は、あえて馬鹿を演じることで彼らに『あいつは頭が空っぽのうつけだから、今すぐ殺さなくても脅威ではない』と油断させ、己の命を守りながら、同時に『誰が本物の忠臣で、誰が裏切り者か』を、その冷徹な目でじっくりと観察しているのです」


「……あえて馬鹿を演じて、敵を泳がせていると言うの?」

帰蝶の目に、知的な光が戻り始める。マムシの娘である彼女は、そういう権謀術数のロジックを理解するのが早い。


「そして二つ目。彼はただ町で遊んでいるわけではありません」

俺は言葉を続ける。


「町中で立ったまま瓜や餅を買い食いしているのは、彼が『身分にこだわらず、領内の経済状況や物の値段の推移、商人や民の生の声』を、自らの肌と舌で直接視察しているからです。さらに、川で悪童たちと水遊びをしているのは、いざ他国と戦になった時のための『地形や水深、川の流れの速さ、地盤の固さ』を、自分の足で測量しているに過ぎません」


信長は、机の上でふんぞり返って、家臣からの都合の良い報告書だけを読んでいる古い武将たちとは、見ている世界が根本から違う。

彼は「現場百回」を地で行く、究極のリアリストなのだ。


「彼は、間違いなく天才です。古い時代を完膚なきまでに破壊し、いずれこの日の本の中心に立つ、巨大な器を持った『魔王』です」


俺の熱を帯びた言葉に、帰蝶は完全に目を丸くした。

幼い頃から大人の裏表を見て育った彼女は、俺の言葉の真意と、信長という男の隠されたスケールの大きさを、その直感ですぐに理解したようだった。


「……なるほど。十兵衛の言う通りなら、彼は恐ろしいほどの食わせ者ね。では、私はただの哀れな人質としてではなく、その恐ろしい天才の『妻』として、尾張に送られるというのね?」


帰蝶の口元に、父親である道三にそっくりな、好戦的で美しい笑みが浮かんだ。

絶望に沈んでいた姫君が、己の運命を切り開く戦国女性へと精神的な脱皮を果たした瞬間だった。

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