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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第1章:幼年・美濃編 ~チート赤ん坊、マムシを飼い慣らす~

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第20話:回避された悲劇と、生涯の誓い(改稿版)

俺が自らの腕と、熙子の柔らかな腕に小刀で傷をつけ、『種痘(牛痘ワクチン)』を施してから数日後のこと。


現代医学の免疫学の理論通り、俺と熙子の身体には、牛痘ウイルスに対する免疫システムが構築される過程での「副反応」が現れた。三十八度前後の軽い発熱と、全身の気怠い倦怠感である。


「ああ……十兵衛様、身体が……熱いです……」

「大丈夫だ。これは身体の中に入った弱い毒と、お前の身体が戦って、本物の病を弾き返すための『見えない鎧』を作っている証拠だ。数日で必ず熱は下がる。俺がついているから、安心して眠れ」


当時の常識からすれば、俺のやった行為は完全に「呪い」が発動したようにしか見えない。妻木家の大人たちは「ほれ見たことか、獣の血などを入れるからだ!」とパニックになりかけたが、俺は道三の腹心という絶対的な権力で彼らを黙らせた。


俺自身も熱に浮かされながらも、妻木家に泊まり込み、熙子の看病に文字通りつきっきりで当たった。

彼女の部屋の換気を徹底させ、俺が持ち込んだ梅干しを入れた白湯を少しずつ飲ませて水分と塩分を補給し、消化に良く栄養価の高い食事(出汁で柔らかく煮込んだうどんや、貴重な鶏卵を溶いた粥)を俺自身の手で食べさせた。


俺の不退転の覚悟と、現代の衛生管理に基づく的確な看病のおかげで、三日も寝込むと、熙子の熱は嘘のようにスッと引いていった。


「……十兵衛様。本当に、痛いのも熱いのも、どこかへ行ってしまいました」

「言っただろう? 俺の知識は、絶対にお前を守るって」


彼女の白い腕には、免疫を完全に獲得した証である「小さなカサブタ(種痘痕)」だけがぽつんと残った。俺の腕にあるものと、まったく同じ形の、二人だけの秘密の刻印だ。


そして、その後の数ヶ月間。

美濃国全土を襲った天然痘(見目定めの病)の猛威は、凄まじいものだった。

俺が道三に助言し、莫大な資金を使って街道の封鎖や隔離政策を徹底させたため、他国に比べれば被害はかなり抑えられたものの、それでも多くの村が地獄絵図と化した。

無数の命が奪われ、生き残った人々の顔にも、一生消えない無慈悲な水疱のあばたを残していったのだ。


だが――俺が種痘を施した妻木家には、そして最愛の熙子には、病魔は一切近づくことすらできなかった。


同じ空気を吸い、同じ国にいながら、彼女の周囲にだけは、まるで強力な結界が張られているかのように、彼女は完全に『絶対安全圏』に守られていたのだ。

歴史の強制力という、無数の人間をすり潰してきた見えない死神は、一人の歴史オタクが持つ現代医学チートと執念の前に、完全に屈服し、這いつくばって敗れ去ったのである。


「十兵衛様! ご覧ください、今日もこんなに綺麗に花が咲いております!」


初夏を思わせる、柔らかな陽射しが降り注ぐ妻木家の庭先。

俺の呼ぶ声に振り返った熙子が、弾むような声で、色鮮やかな季節の花を指差した。


その顔には、発疹の痕など一つもない。

一点の曇りもない、白磁のように滑らかな肌。血色の良い桜色の唇。そして、黒曜石のように輝く大きな瞳。

太陽の光を受けて眩しいほどに輝く彼女の無垢な笑顔は、まるでこの世のすべての穢れから隔離された、神聖な奇跡のようだった。


(……勝った)


俺は、庭の飛び石に立ち尽くし、彼女のその美しい顔を瞬きもせずに見つめながら、心の底から安堵の息を吐き出した。


もしあの時、俺が前世の記憶を持っていなければ。

もし俺が「史実だから」と諦めて、行動を起こすのが一歩でも遅れていれば。

彼女はこの太陽のような笑顔を失い、史実通りに絶望の涙を流して、暗い部屋の奥で一生を終える覚悟を決めていたかもしれない。後世の人間に「身代わり伝説の悲劇のヒロイン」として、勝手に美談として消費されていたかもしれない。


そう思うと、俺は柄にもなく目頭が熱くなり、胸の奥がギュッと締め付けられるような激しい愛おしさに襲われた。


「ああ、綺麗だな。……お前の方が」

「も、もうっ! 十兵衛様はすぐそうやって、私のことをからかって遊ぶのですから!」


真っ赤になって抗議する熙子。

そのあまりの愛おしさに、俺はたまらず歩み寄り、手を伸ばした。そして、彼女の華奢な体を、そっと、だが絶対に離さないという力強さを込めて、自分の腕の中に抱き寄せた。


「きゃっ……じゅ、十兵衛様!?」

「からかってなどいない。俺はいつだって、お前に対して本心しか言わない男だ」


俺の胸の中で、熙子は最初は驚いて身をこわばらせていたが、やがて俺の心臓の鼓動と温もりに安心しきったように身を委ね、小さく、幸せそうに微笑んだ。


この日、俺は妻木家の当主に対し、正式に熙子との婚約を申し入れた。


天然痘の流行を事前の隔離政策でおさえ込み、美濃の被害を最小限に食い止めた行政手腕。

さらに「石見の銀」と「硝石丘」という莫大な富を生み出す錬金術を操り、あの怪物・斎藤道三の『裏の腹心』として、すでに圧倒的な財力と知略で頭角を現し始めた「明智十兵衛光秀」という男。

おまけに、得体の知れない秘術(種痘)によって、娘の命と見目を完全に守り抜いてみせたのだ。


妻木家は、俺をもはやただの国衆の若きせがれとしてではなく、一族の未来と運命を託す『絶対的な救世主』として、諸手を挙げて、そして畏敬の念すら抱いて大歓迎した。

こうして、俺と熙子の結びつきは、誰にも引き裂くことのできない盤石なものとなったのである。


「熙子」


婚約の儀式が済み、二人きりになった縁側で、俺は彼女の手をしっかりと握りしめて告げた。


「俺はこれからの人生、どんな手を使ってでも、どれほど血と泥にまみれようとも、この戦国の盤面を勝ち上がる。お前を、この世で一番幸せな女にしてみせる。……だから、一生俺のそばにいてくれ」


俺の言葉は、戦国時代における「家と家を繋ぐための政略結婚」のそれではない。一人の男としての、強烈でエゴイスティックな、魂からのプロポーズだった。


「……はい。私のような者でよろしければ。どうか、一生お側においてくださいませ。十兵衛様……」


俺の胸の中で、熙子が幸福の熱い涙をポロポロと零しながら、ギュッと俺の背中に腕を回した。

その力強い抱擁は、あの日、小川のほとりで繋いだ小さな手の温もりと、同じ熱を持っていた。


こうして、史実の「髪を売る黒髪伝説」や「病と喪失の美談」を、無残に、そして惨めになぞるはずだった明智光秀の運命は、完全に消滅した。

一人の歴史オタクの執念によって、悲劇のレールは粉々に打ち砕かれたのだ。


これから先の俺たちの人生は、二人で永遠の覇権パックス・ジャポニカと、誰にも脅かされることのない絶対的な幸せを目指す、新しい「歴史改変の物語」へと完全に書き換えられたのだった。

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