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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第1章:幼年・美濃編 ~チート赤ん坊、マムシを飼い慣らす~

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第19話:俺の知識のすべては、お前を守るためにある(改稿版)

俺が莫大な黄金をばら撒き、血眼になって美濃・尾張近郊を捜索させてから数日後。

俺の執念と資本力が、ついに歴史の死神を出し抜いた。


「殿! 見つかりました! 近江との国境近くの寂れた農村で、乳牛の乳房に奇妙な水疱(出来物)ができている牛が!」


泥だらけになって駆け込んできた家臣の報告を聞いた瞬間、俺は文字通り弾かれたように立ち上がった。

すぐさま自ら馬を飛ばしてその農村へ向かい、牛の症状を自分の目で直接確認する。牛の乳房の周囲に、天然痘によく似た、しかし牛自身はケロリとしている軽度の水疱がいくつもできていた。


間違いない。これが人類を天然痘の恐怖から解放する究極の盾――『牛痘ぎゅうとう』だ。


俺は震える手を必死に抑えながら、持参した小さな硝子ガラスの小瓶を取り出した。

堺の南蛮商人から大枚を叩いて買い上げておいた、密閉性の高い貴重な小瓶だ。俺は火で炙って念入りに消毒した小刀を使い、牛の水疱をそっと切り裂き、そこから滲み出た膿(牛痘ウイルス)を慎重に小瓶の中へ採取し、木の栓で固く密閉した。


「よし……間に合った。これで、絶対に守り抜ける」


俺は小瓶を幾重にも清潔な布で包み、懐の最も奥深く――心臓の鼓動が伝わる場所に忍ばせると、再び馬に跨った。

目指すは、俺の最愛の女性がいる妻木家の屋敷だ。


馬に鞭を入れ、美濃の街道を全力で駆け抜ける。

道中、いくつかの村を通り過ぎたが、すでに見目定めの病(天然痘)の猛威は確実にこの美濃の地を侵食し始めていた。

村の入り口は固く青竹で封鎖され、中からは苦痛に呻く声と、肉親の死を嘆く悲痛な泣き声が漏れ聞こえてくる。死体を焼く煙の臭いが、風に乗って鼻を突く。

まさに、この世の地獄だった。


妻木家の屋敷に到着すると、そこもまた、目に見えない病の恐怖に完全に支配されていた。

立派な門構えにはおびただしい数の魔除けの護符がベタベタと貼られ、庭先では祈祷師たちが胡散臭い経を唱え、得体の知れない香草を燻らせた煙が屋敷中を重く覆っている。


(こんな非科学的な煙や紙切れで、ウイルスが防げるものか……!)


俺は祈祷師たちを強引に掻き分け、屋敷の奥へと足を踏み入れた。


「十兵衛、様……っ」


縁側の奥の薄暗い部屋から、力ない声がした。

そこにいたのは、ひどく青ざめ、今にも倒れそうに震えている熙子だった。


数年前、小川のほとりで転んで泣いていた幼い少女は、今や息を呑むほど美しい、一人の可憐な女性へと成長を遂げている。

長く艶やかな黒髪、透き通るような白い肌、そして吸い込まれるような大きな黒曜石の瞳。その見目は、美濃はおろか他国にまで「妻木家に絶世の姫君あり」と噂が届くほどだ。


だが今、その美しい瞳には、逃れようのない暗い死の恐怖と、何より「自分の美しさを無慈悲に奪われること」への深い絶望が揺れていた。


「怖いのです。……美濃のあちこちで、たくさんの方が亡くなっていると聞きました。昨日まで元気だった人が、突然熱を出して、醜い姿に変わって死んでいくと」


熙子は、俺の顔を見るなり、堰を切ったように震える声で心情を吐露した。

その両手は、自分の美しい顔を隠すように、強く頬を覆っている。


「もし……もし私がその病にかかり、命が助かったとしても……顔に恐ろしい痕が残り、醜い姿に変わってしまったら。十兵衛様は、私を嫌いになってしまわれるのでしょうか」


彼女の目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。

これが、史実における「身代わり伝説」のフラグだ。彼女はこの恐怖と絶望の果てに、自分と瓜二つの妹を俺に嫁がせようとする。自分は身を引き、暗い部屋の奥で一生を終える覚悟を決めてしまうのだ。


「こんな醜い顔のまま、立派な十兵衛様のお隣に立つことなどできません。それならば、いっそ……病にかかって顔が変わってしまう前に、私の命など……」


「――馬鹿なことを言うな!!」


俺はたまらず縁側に上がり、熙子の華奢な肩を、両手で強く、痛いほどに掴んだ。

俺の怒鳴り声に、熙子はビクッと肩を震わせ、大きな瞳を見開いた。


「いいか、よく聞け。お前が病気になろうが、顔にどんな痕が残ろうが、俺の気持ちは絶対に、死んでも変わらない! 俺が愛しているのはお前の見目じゃなく、お前自身だ!」


史実の光秀が言ったとされる言葉。それは紛れもない真実だ。

だが、俺は史実の光秀のように、ただ運命を受け入れて美談で終わらせるつもりはない。俺の現代知識チートは、悲劇を受け入れるためにあるのではない。悲劇そのものを根絶やしにするためにあるのだ。


「だがな、熙子。お前が病の苦痛にのたうち回り、鏡を見て涙を流すこと……それ自体を、この俺が絶対に許さない!」


「十兵衛、様……?」


俺の凄まじい気迫に圧倒され、熙子は涙を止めて俺の目を見つめ返した。


俺は懐から、厳重に包まれた小瓶と、あらかじめ火で炙って念入りに消毒しておいた鋭利な小刀を取り出した。


「今から俺がやることは、この時代の人間の目には、得体の知れない恐ろしい妖術か、狂気の沙汰に見えるかもしれない。……だが、俺を信じろ。これは遠い未来の、海の向こうの異国から俺が引き出した、命を救うための『絶対の知恵』だ。これをすれば、絶対に、お前はあの病にはかからない」


そう言うと、俺はまず、自分自身の左腕の袖をまくり上げた。

そして、小刀の刃先で、自分の腕の皮膚に浅く『十字』の傷をつけた。赤い血がツーッと滲み出す。


そこに、小瓶の栓を開け、採取したばかりの「牛痘の膿」を直接擦り込んだ。


「……っ!! なにをなさるのですか! 自らお体を傷つけるなど!」

熙子が悲鳴を上げ、俺の腕を止めようとすがりついてきた。


この時代、自らの身体に刃物を立て、あろうことか「獣の出来物の膿」を血の中に入れるなど、呪いか狂人の所業でしかない。彼女がパニックになるのも当然だ。


「安心しろ。数日間、軽く熱が出て怠くなるだけで、すぐに治る。その後には、本物の病を弾き返す最強の『見えない鎧』が身体の中にできるんだ」


俺は彼女の手を優しく払い、小刀をもう一度、持参したアルコール(強い蒸留酒)で拭き清めた。

そして、熙子の瞳を真っ直ぐに見据えた。


「さあ、腕を出してくれ。お前の命も、その美しい笑顔も、俺が必ず守り抜く。俺の脳内にあるすべての知識と力は……天下を獲るためじゃない。このためだけにあるんだ」


俺の声は静かだったが、そこには歴史という巨大な理不尽に一人で立ち向かう、歴史オタクの狂気的なまでの執念と、一片の嘘偽りもない深い愛情が込められていた。


熙子は、俺の目から一切の迷いがないことを見て取った。

どれほど常軌を逸した行為に見えようとも、目の前のこの男は、自分を救うためだけに命を懸けてくれている。幼い頃、膝の泥を洗い流してくれたあの時から、この男の手は常に自分を守るためだけに動いてきたのだと。


「……十兵衛様が……私のために、そこまでしてくださるのなら」


熙子は静かに涙を拭い、そして、凛とした表情で小さく、しかし力強く頷いた。


「私は、あなた様を信じます。私のこの身体も、命も、すべて……十兵衛様にお預けいたします」


彼女は震える手で自らの着物の袖をまくり上げ、雪のように白い、白魚のような美しい腕を俺に差し出した。

その顔には、もう病への恐怖はない。あるのは、一人の男に全幅の信頼を寄せる、戦国の女としての強い覚悟だった。


俺は祈るような気持ちで、小刀の先で彼女の柔らかな肌に小さく十字の傷をつけ、そこへ牛痘のウイルスを丁寧に擦り込んだ。


(これでいい。これで、お前は絶対に死なない)


俺の腕の中で、熙子が安堵の息を吐き、俺の胸に小さく頭を持たせかけた。


歴史の強制力という、無数の人間をすり潰してきた巨大な濁流。

それに、一人の歴史オタクが持つ現代医学の知識と、執念の愛で真っ向から喧嘩を売り、確定していた悲劇のレールを完全にへし折った瞬間だった。

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