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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生オタクの覇権~【第2部(外伝):第六天魔王と黄金の軍師、世界蹂躙編スタート!】  作者: 天音天成
外伝:第1章:極東の怪物タッグ結成と、南蛮の洗礼

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第1話:大坂出航。未知なる世界へ、野心と胃痛の船出

天正十年(1582年)、初夏。

梅雨明けの眩しい陽光が降り注ぐ大坂の港は、凄まじい熱気と喧騒に包まれていた。


波止場に横付けされているのは、およそこの時代の人間が見たこともない異形の巨船である。

木造のガレオン船や南蛮船などではない。船全体が鈍く光る黒鉄の装甲で覆われており、風を孕むべき巨大な帆柱はどこにも存在しない。代わりに甲板の中央からそびえ立っているのは三本の太い煙突であり、そこからは天を衝くようにモクモクと黒煙が吐き出されていた。

さらには船体の両側面には、海水を掻き回すための巨大な外輪が備え付けられている。

明智光秀の脳内に存在する【絶対記憶】と未来の知識から生み出された化け物――装甲蒸気船である。


その巨船の甲板の最前列に立ち、潮風を一身に浴びていたのは、小柄だが誰よりもギラギラとした野心の炎を瞳に宿した男、羽柴秀吉だった。


「明智殿! 日本ひのもとの留守は頼みましたぞ! せいぜい安全な城の中で、平和ボケせんようにな!」


秀吉が防波堤に向かって大きく手を振って怒鳴ると、そこに見送りに来ていた明智光秀は、洋装のまま静かに、愛用の白檀の扇子を天高く掲げた。

それは、かつての敵であり、戦国の世を共に駆け抜けた同志への、偽らざる敬意とエールの表明であった。

秀吉は、その光秀の姿を網膜に焼き付けながら、口元に不敵な笑みを浮かべた。


(明智光秀……恐ろしい男よ。わしの才能が、日本の枠に収まりきらぬじゃと? だから、世界へ出て列強どもを蹂躙してこいじゃと? ガハハハハ! 本当に、とんでもない御仁じゃわい!)


山崎の戦いでの完全なる敗北。

あの日、秀吉は泥水の中で絶望のどん底にいた。自分がどれほど神速の機動を見せようとも、どれほど兵の士気を高めようとも、光秀の操る『近代兵器』という圧倒的な暴力と、未来を見通すような緻密な兵站の前には、すべてが無力だった。自分の才能など、あの男の掌の上で踊らされていたに過ぎないと完全に悟ったのだ。


だが、光秀は泥まみれの秀吉の胸ぐらを掴み、一枚の羊皮紙の世界地図を見せつけた。

そして、こう告げたのだ。


『本能寺で死んだのは影武者だ。上様は生きている。今頃、この世界地図の海を渡っている』と。


その瞬間、秀吉の中で死にかけていた野心が、けたたましい音を立てて再び爆発したのである。

信長が生きている。あの破壊の魔王が、自分を置いて、一足先にこの広大な世界という盤面へ飛び出しているというのだ。


ならば、自分が日本というちっぽけな島国で立ち止まっている暇などない。

光秀という底知れない怪物が日本を「法と経済」で統治するのなら、自分は信長と共に外の海へ出て、大航海時代とやらでふんぞり返る白人列強どもを暴力と才覚で塗り潰してやればいい。

それは敗者の島流しなどではない。明智光秀という男から託された、史上最大の『海外遠征軍総司令官』という栄誉ある任務なのだ。


ボォォォォォォォォォッ!!!


天地を震わせるような巨大な汽笛が鳴り響いた。

船底の蒸気機関が唸りを上げ、巨大な外輪が激しく海水を掻き立て始める。鉄の巨船が、ゆっくりと、しかし力強い推進力で大坂の港を離れ始めた。


「おおおおっ!? 動いた! 帆もないのに、風も吹いておらんのに、船が勝手に動いておるぞ!」

「清正、静かにせんか! だが……これは一体どういうからくりじゃ! 船底に何百人もの漕ぎ手が押し込められておるのか!?」


甲板の後方で、加藤清正と福島正則が大騒ぎしていた。彼らにとって、蒸気機関という概念は魔法に等しい。大身槍を握りしめ、見えない敵を威嚇するように辺りをキョロキョロと見回している彼らの姿は、なんとも滑稽であった。


「やかましいわお主ら! これは明智殿の知識で作られた『蒸気機関』という代物じゃ! 船底で石炭を燃やし、その力で巨大な水車を回しておるのだ。化け物などおらんわ!」

秀吉が一喝すると、二人は「し、石炭が燃える力で、これほど巨大な鉄の船が……?」と呆然と口を開けていた。


「殿……本当に、我らはこの鉄の塊で海を渡るのですね……」


そこへ、顔面を蒼白にさせた黒田官兵衛が、腹を抱えながらふらふらと歩み寄ってきた。彼の顔には、まだ船も揺れていないというのに、すでに深い疲労と深刻な胃痛の影が刻まれている。


「ガタガタ抜かすな官兵衛! この船の行き着く先に、わしらの新しい天下があるのじゃ。上様がわしらを待っておられるのだぞ!」

「……上様がご健在であられたことは、我らにとって何よりの朗報……と言いたいところですが」

官兵衛は、胃の辺りを強くさすりながら呻いた。

「その破壊の魔王たる上様と、殿という人たらしの怪物が、異国の地で合流するなど……考えただけでも南蛮の国々が不憫でなりません。明智殿は、我々という厄介払いを見事に済ませつつ、海外の脅威を我々に叩き潰させるおつもりだ。なんという悪魔の如き知略……あいたた……」


官兵衛の嘆きなどどこ吹く風で、秀吉は腹の底から笑い声を上げた。

「ガハハハハ! それが良いのではないか! 相手の懐に飛び込んでこき使われるのは、わしの最も得意とするところじゃ。明智殿の手のひらの上だろうがなんだろうが、この果てしない世界をわしらの好きに暴れ回れるのなら、安いものよ!」


「殿、申し上げます」


笑い飛ばす秀吉の背後から、一切の感情を交えない冷徹な声が響いた。

分厚い帳簿と算盤そろばんを抱えた、若きエリート官僚――石田三成である。彼は本編における日本の内閣官僚としての道ではなく、己の数字の才を世界で試すべく、秀吉に付き従って海を渡る道を選んだ「数字のバケモノ」だ。


「おう、三成。物資と兵の積み込みはどうなっておる」

「第一陣として、この同型艦三隻への乗船を完了したのは、殿の麾下より選抜された精鋭四千五百、および主要な将のみです。山崎の戦いで無傷で生き残った残存兵力約二万五千は、現在この大坂および堺の居留地にて待機させております」

「ふむ。三万の兵を一度に運ぶのは、流石の鉄船でも無理じゃからな。残りの連中はどうなる」

「ご安心ください」

三成は帳簿の頁をめくり、整然としたアラビア数字の羅列を指でなぞった。


「明智殿の完璧な手配により、堺の今井宗久殿が率いる今井財閥の巨大商船団が、順次ピストン輸送を行う手はずとなっております。明智殿から供与された『複式簿記』の緻密な計算に基づき、後続の兵糧、弾薬、清水、さらには予備の石炭に至るまで、補給線は一切途切れることなく海を越えて構築されております」


三成のその目には、狂信的とも言える明智光秀へのリスペクトが宿っていた。

「明智殿の算段には、一厘の狂いもありません。我々三万の兵力を最も効率よく、かつ安全に外の世界へ『出力』するためのロジスティクスを、あの御方はすでに数年先まで見越して組み上げておいでです。まさに神の如き頭脳……いえ、数字の申し子と言っても過言ではありません」


「流石は明智殿じゃ。いくさにおいては、兵站ロジスティクスこそが絶対の命綱じゃからな」

秀吉は満足そうに頷いた。自分が最前線で大暴れできるのも、後方で完璧な数字の管理と補給を行ってくれる三成や光秀のような存在があってこそだと、彼は誰よりも理解しているのだ。

「三成、お主には引き続き、この船団の全物資の帳簿管理を任せるぞ。南蛮の商人どもにぼったくられんよう、お主の異常な計算力で奴らの度肝を抜いてやれ!」

「はっ。不当な関税や為替の誤魔化しを仕掛けてくる輩がいれば、一銭の単位まで追い詰め、完膚なきまでに論破してご覧に入れます」

三成は冷たく目を細め、帳簿を閉じた。その頼もしい姿に、官兵衛はさらに胃を痛めていたが、秀吉は豪快に笑い飛ばした。


やがて、大坂の港が水平線の彼方へと見えなくなり、見渡す限りの紺碧の大海原が広がった頃。

秀吉は甲板から離れ、船長室キャビンへと足を踏み入れた。

重厚なマホガニー製の机の上には、光秀から託された一枚の分厚い羊皮紙――精緻に描かれた『世界地図』が広げられている。


「……明国、天竺、そしてヨーロッパ、か」


秀吉は、その地図に描かれた広大な大陸群を、指先でゆっくりとなぞった。

極東の小さな島国など、この世界全体から見れば、ほんの芥子粒のようなものだ。自分がこれまで血みどろになって奪い合っていた領土が、いかにちっぽけなものであったかを痛感させられる。


「あなた、あんまり一人ではしゃぎすぎると、またお腹を冷やしますよ」


不意に、背後から呆れたような声が掛けられた。

振り向くと、そこには盆に温かい白湯を乗せた妻・ねねが立っていた。彼女もまた、この未知なる航海に迷うことなく同行を選んだ、肝っ玉母ちゃんである。


「おお、ねね! はしゃがずにいられるものか! 外を見てみろ、あの狭かった日本が、もうあんなに小さく見えなくなったぞ!」

「はいはい、わかっていますよ。でも、これから何ヶ月も船の上なんですから、少しは落ち着いてくださいな。船酔いする者も出てくるでしょうから、私は薬湯の準備をしておきますよ」

ねねは優しく微笑みながら、白湯の入った茶碗を机に置いた。

彼女のこの献身と存在が、血気盛んな猛将たちをどれほど精神的に支えているか、秀吉は痛いほどわかっている。


「頼むぞ、ねね。お前がいれば百人力じゃわい」

秀吉は白湯を飲み干すと、再び世界地図へと視線を戻した。


信長は、この海の向こうで自分を待っている。

極東の小さな島国で、底辺の農民から身を起こし、天下人の玉座まで手をかけた自分。その規格外の野心とバイタリティを、今度は世界という巨大なキャンバスにぶつける時が来たのだ。


「待っておれよ、上様。そして見ておれよ、明智殿」


秀吉のギラギラとした双眸が、遠く西の海を見据えた。

「わしが必ず、この世界地図のすべてを、黄金色に塗り潰してやるわ!」


こうして、明智光秀というバグによって日本を追い出された戦国の怪物たちは、大航海時代という白人列強の遊び場を根底から破壊すべく、未知なる海へと力強く漕ぎ出したのである。

それは、世界の歴史がかつて経験したことのない、最悪で最高の「野心と胃痛の船出」であった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


光秀に日本を追い出された怪物たちの、世界を股にかける大航海がついに始まりました。

次回、第2話はあの猛将・清正と正則がかつてない強敵(船酔い)に悶絶するコメディ回です!


少しでも「続きが読みたい!」「官兵衛の胃が心配!」と思っていただけましたら、ぜひ下部の【ブックマーク追加】と【☆での評価】をよろしくお願いいたします!

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