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学校で地味メガネな僕がバイト先ではシゴデキな件。~年上彼女との秘密の恋に、新人の同クラギャルが割り込んできた~  作者: acid-junky


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18/22

衛星の墜落、独欲のシャワー

 脳内スイッチをオフにして帰宅した悠真は、倒れ込むようにベッドに横たわった。思考能力が生存可能レベルまで最小化されているため、今の彼には、今日という一日のログを脳内再生することしかできない。


 発端は、あの試着室での出来事だ。

 悠真は何とか周囲の耳目を欺き、試着室から脱出。

 美月は、悠真の「正解」を書き換えたあのハイビスカス柄のビキニを迷わず購入し、「海に行くの、楽しみだね」と、逃げ場を塞ぐような妖艶な微笑みを向けた。


 店を出た後の美月は、まるで何かの制約から解き放たれたかのように、以前よりもずっと大胆に、そして自然に体を密着させてきた。ショッピングの間、細い二の腕が自分の袖に触れ続け、不意に、抗いようのない柔らかい感触が悠真の腕に押し当てられる。そのたびに、悠真の歩調は目に見えて乱れた。


 ディナーのイタリアンレストランでも、その攻勢は止まらなかった。

「はい、悠真くん。これ、美味しいよ」

 甲斐甲斐しく料理を取り分ける姿は、いつもの『理想の彼女』そのもの。だが、美月はいつもなら頼まないワインを注文した。

「ごめんね、私だけ……少しだけ、酔いたいの」

 未成年の悠真に謝りながらグラスを傾ける美月の頬は、微かなアルコールで桃色に染まっていく。うっとりとした、熱を帯びた瞳で見つめられ、甘く湿った声で名前を呼ばれるたび、悠真の論理回路はエラーを起こしそうになった。


 極めつけは、食後の公園だった。

 夜風に吹かれながら、腕を絡ませて歩いていたふたりが、街灯の届かない影で足を止める。

「ねえ……悠真くん……キスして」

 美月はそう囁いて吸い込まれそうな瞳で悠真を見上げたあと、そっと目を閉じ、背伸びをして唇をせがんだ。

 

 悠真は、巨大な重力に捕らえられた衛星のように、抗う術もなく美月の唇に自分のそれを重ねた。  

 重なった唇は、試着室で触れた肌の熱そのもので、一度重なると、離れるという選択肢は消滅した。深く、長く、互いの輪郭が溶け合うような抱擁。


 脳内のアラートは最大音量で鳴り響いていた。

「これ以上は、取り返しがつかない」

 本能が告げる危険信号に従い、半ば強引に美月を送り届け、逃げるように帰宅してきた。だが、もしあの時、最後の理性を振り絞らなければ、間違いなく最後の一線を越えていたに違いない。


(……どうして、美月さんはあそこまで大胆に……)

 そこには、焦燥に似た強烈な意志が介在しているように感じられた。まるで、悠真の中にある「何か」を、強引に塗りつぶし、消し去ろうとしているかのような。


 だが、理由はどうあれ。


 美月に対する『敬愛』という名の安全装置は、今、跡形もなく破壊された。

 後に残ったのは、いち男子高校生としての、剥き出しの『渇望』だけだった。



 同じ頃、美月は自宅のシャワー室で、肌を叩く熱い飛沫に身を委ねていた。

 タイルに跳ねる水の音だけが響く密室。目を閉じれば、今も首筋や腰のあたりに残っているかのような、あの強引な感触が生々しく蘇る。


 試着室の、あの逃げ場のない狭さ。

 背中の紐を結ぶ悠真の指先が、隠しきれず震えていたこと。

 振り返った瞬間、彼の瞳から静かな落ち着いた光が消え、自分を丸ごと飲み込もうとするような、熱い眼差しに変わったこと。


(……あんな顔、させちゃった)


 美月は自分の肩を抱きしめ、ふふ、と喉の奥で低く笑った。

 狙い通りだ。ソラに見せていた熱量なんて、あの時の悠真が自分にぶつけてくるものに比べれば、ただの火遊びにすら見えない。


 けれど、計算外だったこともある。


 公園でキスした時、折れそうなほど強く自分を求めてきた、あの腕の力。そして、熱い唇。  


 美月は指先で自分の唇をなぞった。まだそこに彼の吸い付くような熱が張り付いている気がして、身体の芯がじりじりと疼いた。

 彼を壊して、自分色に塗りつぶしてやるつもりだったのに。いざその熱に当てられてみると、自分まで毒が回ったみたいに頭がふわふわする。


 鏡に映る自分の顔を見る。


 上気した肌。潤んだ瞳。そこにあるのは、完璧な勝利を収めた演出家の顔じゃない。一人の男にめちゃくちゃにされることを、心のどこかで期待してしまっている……ただの、欲張りな女の顔だ。


(いいよ、悠真くん。もっともっと、私を求めて……誰のことも考えられなくなるくらい、私でいっぱいにしてあげる)


 シャワーを止め、美月はタオルで滴る水を拭う。


 今度、会うのは「クローバー」だろうか。そのとき、彼はどんな顔をして自分を見るだろう。

 

 もう、これまでの「綺麗な二人」には戻れない。

 その確信が、美月の胸をこの上ない悦びで満たしていた。


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