エピローグ
グラスを傾けながらジークは笑う。
「あの後、フロレンス様にみんなで一緒に風呂に行こうと、言われた時は流石に焦ったわ」
「母様は全然本気だったろうに。お前、最後まで抵抗してたよな」
「当たり前だろ。一緒に風呂とか、衝撃だったんだぞ」
「あの時はあんなに可愛かったのにな」
ルークが笑うが、ジークは眉をひそめる。
「まだ言うか。根に持ってんだからな。お前が勘違いしてたの」
ジークは、しっかり食べるうちにどんどん背が伸びて男の子らしい体格になってしまった。出会った時は小柄だったのに、残念だったとルークは言った。
「そういうお前だって、子供の頃は女みたいだっただろうが」
「は?どこがだ」
本ばかり読んでいたルークは、ジークからすれば華奢で、綺麗な目をしていて、短髪でなければ女の子みたいに見えていた。そんなことも、今でこそ笑い話だ。
それからの二人はフロレンスに連れられ、各国を周り、二人で木剣で遊んでは、めきめきと腕を上げていた。時に訪問先の近衛や護衛官から、剣を教わり、二人で競い合うように打ち合いをしていた。一人では素振りくらいしかできなかったが、二人で高め合えた。
ジークはグラスの中の酒を揺らした。
「フロレンス様には感謝してる」
ぽつりと漏れた言葉だった。あの日、フロレンスがジークを引き取らなければ、きっと今のジークは無い。ルークは笑う。ルークにとっても初めてできた友とも、兄弟とも呼べる存在だった。
「ああ」
二人は静かにグラスを傾けた。夜風がそっと木々を揺らす。あの日、帰る場所を失った少年は、新しい家族と、無二の友を得たのだった。




