プロローグ 父と従者
ジークとルークの出会いの短編です。内容的にかなりセンシティブな内容を含みます。重いです。
あと、ルークの母親であるフロレンスが出てきます。
木剣がぶつかり合う乾いた音が、訓練場に響いた。初夏の陽射しの下、アルシオとレックスは汗を流しながら打ち合っている。
「ここだ!」
レックスの木剣が振り下ろされる。アルシオは受け流し、半歩下がった。
「そこまで」
ルークの声に、二人は木剣を下ろす。
「ふぅ……」
アルシオは額の汗を拭った。レックスはその場にどかりと腰を下ろす。
「疲れたぁ……」
「まだまだだな」
ジークが鼻で笑う。
「このくらいの年代なら十分だ。俺たちの頃はもっと遊びのようなものだっただろ」
ルークが言うと、ジークは笑った。
「そうだったか?」
いつものやり取りに、アルシオとレックスは顔を見合わせる。二人とも自然と笑っていた。父とジークは、昔からこうなのだろう。主従というより友人に近い。いや、兄弟のようにも見える。
だからだろうか、アルシオはふと前から気になっていたことを口にした。
「そういえば」
ルークとジークがこちらを見る。
「父様とジークって、いつから一緒にいるの?」
一瞬だけ空気が止まった。ジークが露骨に嫌そうな顔をする。
「あー……」
「え?なに?」
アルシオは不思議そうにジークと父親を交互に見る。父も苦笑いをしている。聞いてはいけないことだったんだろうか。でも、やはり気になる。自分とレックスは生まれた時から一緒だった。では父とジークはどうだったのだろう。ルークは少しだけ考えるように視線を上げた。
「……俺が八歳だったな」
「お前が八歳で、俺が十歳だ」
「そんなに小さい頃から?」
アルシオが驚く。レックスも目を丸くした。
「最初から仲良かったの?」
今度はルークが少し笑った。
「いや」
「最悪だった」
ジークが即答する。
「え?」
アルシオは目を丸くする。レックスは吹き出した。
「嘘だぁ!」
ルークも頷いた。
「いや。本当に仲が悪かった」
今の二人からは想像もできない。アルシオとレックスは揃って困惑した顔をした。
「じゃあ何で仲良くなったの?」
アルシオがさらに尋ねる。するとジークは立ち上がった。
「終わりだ、終わり」
「えぇ?」
「鍛錬再開」
「誤魔化した!」
「うるせぇ」
ジークハルトは完全に誤魔化していた。ルークも特に助け船を出さない。結局、その日の鍛錬が終わるまで、二人は何も教えてくれなかった。ただ――。帰り際に、ルークとジークが並んで歩く背中を見ながら、アルシオは少しだけ思った。今の二人になるまでには、二人にどんな出来事があったのだろう、と。
*
その夜、執務を終えたルークが書類を閉じると、扉が軽く叩かれた。
「入れ」
返事をすると、顔を出したのはジークだった。手に酒瓶を一本持っていた。
「珍しいな」
「まぁ、たまにはいいだろ」
ジークはそう言って、勝手知ったる様子でソファへ腰を下ろした。ルークも苦笑して、反対側へと座る。
「アルシオ達のせいか」
「かもな」
グラスに酒を注ぐ。琥珀色の液体が静かに揺れた。
「あの頃は、いい思い出ばかりじゃないけどな」
「ああ」
「今思えば、母様も苦労したろうな」
「俺ら喧嘩ばっかりしてたしな」
「その度に、怒られてたな」
苦笑したが、しばらくの沈黙が落ちる。窓の外に目を向けると、夜風が木々を揺らしている。
「……母様なら、話してやれと言っただろうな」
ルークがぽつりと言う。ジークは鼻で笑った。
「そうだな。フロレンス様は、むしろ面白がって包み隠さず全部話すだろうな」
「違いない」
二人は小さく笑った。そして、自然とあの日のことを思い出していた。まだルークが八歳だった頃、フロレンスが一人の少年を連れて帰ってきた日のこと。――その少年の名はジークハルト。十歳だった。




