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皇国のアリーシャ  作者: 岡井チマ
第三部
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エピローグ

 一年後。産声が、静かな朝の空気に響いていた。長い夜が終わり、薄い光がカーテン越しに差し込んでいる。


 全身の力が抜けたように重く、それでも胸の奥は不思議なほど穏やかだった。


「はじめまして。わたくしの子……」


 腕の中に渡された小さな命を見つめながら、アリーシャは微かに笑う。濡れた産毛は淡く金色に光っていた。大きな声で元気よく泣いているのは、アリーシャとルークの二人目の皇子だった。


 この子がどんな未来を歩むのか――まだ何も分からない。けれど、守りたいと、それだけは強く思えた。


「よく頑張ったな、アリーシャ」


 顔を上げると、ルークが立っていた。腕には一歳になったアルシオを抱いている。アルシオの生まれた時とは違い、狼狽える様子はない。無事に我が子が生まれた喜びと、アリーシャを気遣う穏やかな眼差しがあった。


 ルークは、腕の中のアルシオに静かに語りかける。


「アルシオ。お前の弟だ」


 アルシオは父の腕の中で、じっと生まれた弟を見つめている。その様子が微笑ましく、アリーシャの胸がやわらかく満たされた。


 ルークの手が、そっとアリーシャの頬に触れる。


「ありがとう、アリーシャ。ゆっくり休んでくれ」


「ええ……そうさせてもらうわね。――ルーク、ありがとう」


 ルークはアリーシャと、生まれた赤子の額にそれぞれ口付けを落とした。


 政略で始まった関係だったはずなのに。


 いつの間にか、この人は――自分の世界の中心になっていた。


「……ねえ」


 アリーシャは静かに言う。


「この子たちを、守っていけるかしら」


 それは母としての問いであり、同時に――女皇としての問いでもあった。


 ルークは、迷わず答える。


「大丈夫だ。――お前と一緒ならな」


 その言葉に、胸の奥の何かがほどけた。


 この国は小さい。周囲には大国があり、時に翻弄される。


 それでも――ここには守るべきものがある。


 腕の中の命。

 隣に立つ人。

 そして、この国そのもの。


 アリーシャはゆっくりと瞳を閉じた。


 窓の外には、澄み渡った朝が広がっている。


 セレスティア皇国もまた、新しい時代へと歩み出していた。


 ――この小さな命とともに。


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