グッドラック ~オリバー船長の酒場語り~ ③
ブラザー、まあ、飲めよ。
この一杯は、儂のおごりだ。
おまえさん、いい奴だな。
親父のことで泣いてくれるなんてよ。
ん? 親父が死んでその後を継いだのかって?
まあ……結果的には、そうなったな。
仲間の中で、儂は一番の泣き虫だったからなあ。
毎日、親父の墓に野花を持っていって、親父に文句を言っていた。
「なんで、死んじまったんだよ」
「もっと、教えてほしいことがあったのによ!」って。
ひっでえ話だろ?
親父の想いも何もかも、はな垂れ小僧の儂には抱えきれなかった。
親父の墓は海のすぐそばでよ。
泣いて、喚いていたらさ。
海がきれいだったんだよ。
真っ青で、地平線の向こうには何も見えなくて。
目を凝らしても、何も見つからない。
それを見てたら、儂はその先に行きたくなっちまったんだなあ。
――無性に。
親父と仲間と一緒に見たかった、あの先に行きたくなったんだよ。
それでまあ、立ち直ったんだよ。
かみさんには泣かれるし、仲間には泣かれるし。
心配かけちまった詫びにな。
儂が船長の役を引き受けたんだ。
な。結果的には、だろ?
がははは!
よしよし、おまえさんは聞き上手だ。
そんなおまえさんに、とびきりの話を聞かせてやろう。
次は、海賊船に乗ったって話だ。
***
おまえさんは公爵閣下の子ども、アランぼっちゃんと、セリアお嬢様を知っているか。
いいぼっちゃん、お嬢様でな。
お嬢様は亡くなった公爵閣下の奥様に似て優しくて、美人でな。
アランぼっちゃんは快活で儂らにも優しくてな。
ふたりとも公爵閣下にそっくりな金髪をお持ちなんだ。
おまえさんも知っていると思うけどよ、お嬢様は濡れ衣で国外追放されちまったんだ。
ありゃ、ひどい嵐の日だった。
怪我したアランぼっちゃんがお嬢様を抱えてギルドに来てな。
それで「ルベル帝国まで船を出してくれ。お嬢様を送り届けてくれ」ってギルド長に頭を下げるんだよ。
その時、儂らは国外追放されたなんて知らなくてな。
でもあの優しいぼっちゃんが、悲痛な顔で「頼む」と言ったんだ。
だから儂が名乗り出た。
ぼっちゃんが船を出せというんだ!
出すに決まっているだろ?
儂らは公爵閣下に恩義があるからな。
その恩を返す時だと思った。
お嬢様と船に乗り込んだけどよ。
王宮に行っていたお嬢様は、ひどく憔悴していてな。
物を言わずに、だまーってんだよ。
見ていられなかったよ……。
夜に高波が来て、船が転覆しかけてな。
その時、今まで部屋にいたお嬢様が甲板に飛び出してきたんだ。
それで波に攫われそうになった船を見て「わたしも水をかきだします!」って、言ってくださったんだ。
あの時、お嬢様の瞳は輝いていてな。
公爵閣下と同じ、意思の強さが見えたんだ。
儂は思ったよ。
この人は、
絶対、死なせちゃいけねえ人だって。
この人は、
この人のすることは、
きっと、多くの人を助ける――。
直感でそう思った。
血が燃える瞬間だったよ。
だから、儂はお嬢様に向かって叫んだ。
「船のことは船乗りに任せといてください! 絶対、お嬢様を帝国まで届けます! 領主様との約束ですから!」
嵐の中で、親父みたいに叫んだ。
「海の男は! 約束は絶対、守るんですッ! おい、野郎ども綱を引け! ここが正念場だ!」
お嬢様を船室に戻し、儂らは綱を引いた。
帆に祈った。
「いい子だから、持ってくれよなあ!」
船を信じて、儂らは嵐を切り抜けた。
明朝、ようやく嵐が過ぎた。
だけど、船はボロボロでな。航海するのがやっとって感じだった。
儂は舵を持ちながら、親父に謝ったよ。
「悪いな、親父。あんたの船、ダメにしまった……」
その時、水平線から太陽が出てきたんだよ。
金色で、眩しくて。儂を照らしてくれてな。
親父が「気にするな」と言ってくれたような気がしたんだ。
ほっとして、急に眠たくなってなあ。
儂は大あくびをこいた。
その時、お嬢様が甲板にやってきてくれたんだ。
一心に夜明けの海を見ていた。
儂はそんなお嬢様に声をかけた。
「嵐が去った後の海は、きれいでしょう?」
お嬢様は儂の方を向いて「はい」と答えてくださった。
だから儂は嬉しくなって、明るい声で笑った。
「儂の女房の若い頃にそっくりですわ! がはははは!」
大笑いした後、太陽に向かって儂は語り続けた。
親父みたいに。
「儂は学がねぇから、難しいことはわかんねえっす。だけど、お嬢様。生きてさえいれば、いいことはありますよ」
そう言って、儂は人差し指と中指を太陽に向かってクロスさせた。
グッドラックのサインを見て、お嬢様は首をひねっていた。
だから儂は、故郷のサインだったことや、公爵閣下からの恩を話した。
お嬢様は熱心に聞いてくださった。
お嬢様の瞳の中がだんだんと輝いてきてな。
向日葵が輝いているみたいだった。
ああ、この方は大丈夫だろう。
帝国でも輝いてくださるだろう。
儂はそう思った。
帝国に着いたら、不法侵入だってバレそうになってなあ。
だから声をかけてきた港の警備員に慣れ慣れしく声をかけた。
「がははは! 儂とブラザーの仲じゃないかっ」
「私と君は、顔見知りではないぞ?」
「がははは! 目が合った瞬間から、儂とおまえはマブダチだ!」
警備員に隙を作って、仲間がお嬢様を逃した。
――生きて、また輝いてください。
そんな思いを込めて、儂はお嬢様に背を向けてグッドラックのサインを送ったんだ。
儂の見立ては正しかったな。
お嬢様は今じゃ、ルベル帝国で保安隊という部隊で活躍してんだからよお!
すげえだろ?
さすが、儂らのお嬢様だ!
がはははは!
あ? 海賊の話はどうしたんだって?
焦るなよ、ブラザー。
ルベル帝国に着いたはいいものの、親父の船は使えなくなっちまったしな。
港の船大工に見てもらったら、修繕費がとんでもねえ額でよ。
仕方ねえから船を解体して、板や金具を売っぱらった。
それで帰りの路銀を作ったってわけだ。
それでサイユ王国行きの船を探して乗り込んだんだが……。
それが海賊船だったってわけよ!
がははは! おっどろく話だろ?




