試験官
王国騎士に案内された俺たちは、王城地下に設けられた演習場へと足を踏み入れた。
「では、遅ればせながら改めて自己紹介を。私の名はイグザム。皆様を審査する試験官です」
先ほどまで案内役だった時とは違う、重みのある声で告げる。
「へぇ〜。ただの案内役じゃなかったんだ」
アヤメが感心したように呟く。
「それでは、これより勇者パーティー推薦枠選考試験を開始します」
イグザムは堂々と宣言した。
しかし、この場所は広い石造りの空間があるだけで、試験に使われそうな道具も、他の試験官の姿も見当たらない。
「……一体、このような場所で何をするのですか?」
同じ疑問を抱いたであろうダマキが眼鏡をくいっと押し上げながら尋ねた。
「試験には――私のスキルを使用します」
「スキルを?」
俺が疑問を浮かべた瞬間、イグザムの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がり演習場全体が淡い光に包まれた。
「なっ……!」
オズキが目を見開く。
「私のスキルは『試験官』」
イグザムが片手を前へかざす。
すると少し離れた場所で、何もなかった地面から四つの標的がせり上がるように姿を現した。
「このスキルは、場所を問わず試験場を構築し、受験者に最適な試験を与える能力です」
「『試験官』……。試験内容を自動で構築するC級スキルかぁ。まさに試験官向きの能力だね〜」
アヤメは腕をまくり、書き込まれたメモを見ながら呟く。
その言葉に、イグザムの眉がほんの僅かに動いた気がした。自分のスキルを知っていた事への驚きか、それともそれ以外か。
だが、その表情は一瞬で消える。
「……では、第一試験を始めます。前方の標的へ、一番得意な魔法を一発。当ててください」
イグザムは四つの標的へ視線を向けた。木の支柱の上に円形の標的が取り付けられたシンプルな的。距離はおおよそ三十メートルと言ったところか。
「なんだ簡単じゃん!これぐらいすぐ当てられちゃうよ〜」
アヤメは得意げに笑う。
実際、ある程度魔法の訓練を積んだ者なら問題なく当てられる距離だった。これなら俺でも当てられそうだ。
「はい。――このままでは、そうでしょうね」
そう言ってイグザムが指を鳴らす。
次の瞬間、木の支柱に取り付けられていた円形の的だけがふわりと浮かび上がり、不規則な軌道で縦横無尽に飛び回り始めた。
「なっ……!」
ダマキが目を見開く。
「実戦では、敵は止まってなどくれません。勇者パーティーを目指すのであれば、この程度の標的には当ててもらわねば困ります」
俺も的当ての訓練なら何度も経験してきた。だが、動く標的を相手にしたことは一度もない。
試験の難易度は一気に跳ね上がり、俺はただ呆然と空を舞う標的を見上げていた。
「チャンスは二回。二発以内に標的へ命中させてください。それができなければ――即失格です」
「二回以内に……あれを?」
思わず顔が引きつる。
あんな不規則に動く標的を、たった二発で射抜けというのか。
「自分には無理だと思うのであれば、今ここで辞退していただいても構いません。この程度もこなせない者に、勇者パーティーは務まりませんから」
そう言うイグザムの視線は、真っ直ぐ俺へ向けられていた。
……そうだ。別に諦めたっていい。
もともと俺は勇者パーティーに選ばれるなんて思っていなかった。ウィークに半ば強引に背中を押されて、ここへ来ただけだ。
ここで辞退したって、誰も困りやしない――
『君なら大丈夫だと信じているよ』
――その言葉が、不意に脳裏をよぎる。
……そうだ。
あいつは、俺を信じてくれている。
だったら、その期待だけは裏切りたくない。
合格できなくてもいい。それでも最初の試験で失格なんてつまらない結果じゃ、ウィークに顔向けができない。ましてや挑戦する前に逃げ出しただなんて以ての外だ。
「……いいえ。リタイアはしません。やってやる!」
その声に、他の三人も口元を僅かに緩め頷いた。
「そうですか。では――第一試験、開始です」




