勇者パーティー選考会
王都――王城。
勇者パーティー選考会当日。
巨大な城門を前に立った俺は、ごくりと唾を飲み込んだ。
「……ついに来ちゃったな」
思わず独り言が漏れる。
まさか自分が王城へ足を踏み入れる日が来るなんて、少し前までは想像もしなかった。
史上最悪の外れスキル、Z級『全能無敵絶対確殺』を授かった俺が、勇者パーティー候補としてここに呼ばれている。今でも場違いな気しかしない。
「緊張してる?」
隣から聞き慣れた声がした。
振り向くと、ダストレア・ウィークがいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「そりゃするさ。どう考えても俺はこの場にそぐわない」
苦笑しながら答えると、ウィークは肩をすくめた。
「そんなことはないさ。この場は君にこそ相応しい。もはや君のための舞台と言っても過言じゃない」
「それは過言も過言だろ」
王城の人に聞かれたら本気で怒られそうな発言に、思わずツッコむ。
すると、王国騎士がこちらへ歩み寄ってきた。
「ダストレア・ウィーク様とゴート・ジェン様ですね。推薦枠の方はこちらへ。S級スキル保持者の方は別室へご案内いたします」
事務的な口調だった。
そんな彼の俺へ向けられた視線だけが、妙に刺々しく感じられた。
「承知しました」
ウィークは頷くと、俺の肩を軽く叩いた。
「終わったらまた会おう。君なら大丈夫だと信じているよ」
「……だから買いかぶりすぎなんだって」
そう返す頃には、不思議と肩の力が少しだけ抜けていた。
俺は案内されたすぐ近くの扉に入り、ウィークは王国騎士に案内されていった。
「失礼します……」
扉を開けた瞬間、三人の視線が一斉に俺へ向く。
どうやら俺が最後の一人だったらしい。
部屋には三人の候補者がいた。
一人は、背筋を伸ばして椅子に座り、静かに本を読んでいる眼鏡の青年。
一人は、壁にもたれ、腕を組んだまま目を閉じている男。
そしてもう一人は、椅子に寝転がるような格好で天井を眺めている少女だった。
最初に口を開いたのは、本を閉じた眼鏡の青年だった。
「────現在時刻11時53分27.03秒。集合時間である12時まで残り6分33.97秒。遅刻ではありませんが、もう少し余裕を持って来るべきでしょう」
時計を見る素振りすらない。
まるで最初から時間を把握していたかのように、淀みなく言い切った。
「す、すまない……?」
思わず謝ると、青年は小さくため息をつく。
「はあ……まあ構いません。この件も含め、貴方というライバルの貴重なデータとして記録しておきます」
そう言うと、手にしていたノートへさらさらと何かを書き始めた。
……なるほど。分析家、いわゆるデータキャラか。勇者パーティーにも、こういう頭脳タイプは必要なのかもしれない。
そう思いながら、俺は残る二人へ視線を向ける。
壁にもたれた男と寝転がる少女。二人とも一癖ありそうではあるが、どちらも只者ではない雰囲気を纏っていた。
二人は一体どのようなタイプの人なんだろうか。
そう考えていると、腕を組んでいた男がゆっくりと目を開いた。
「貴様」
一言。
その低い声だけで部屋の空気が張り詰める。
「は、はい!」
「名は何という」
「……俺は、ゴート・ジェン」
「そうか。――貴重な名称データの提供、感謝する」
「え?」
男はいつの間にか手に持っていた紙とペンを使い、無表情のまま何かを書き始めた。
その瞬間、寝転がっていた少女まで羽ペンを構える。
「ふんふん。ゴート・ジェン、身長は160センチ程度。筋力は平均的。うんうん、これも貴重なデータだね~」
「……ん?」
少女は満足そうに頷きながら、次々と書き込んでいく。
「それと、一応言っておくけど君が勇者パーティーに選ばれることはないよ〜」
少女は自信満々に笑う。
「なぜなら――」
その瞬間。
「「「ボク(私・俺)が勇者パーティーに選ばれる確率は99%だから(ですから)」」」
三人の声が見事に重なった。
「――って、なんで全員データキャラなんだよ!」
俺のツッコミなど聞こえていないかのように、三人は互いを睨み合う。
「だから~、ボクが99%なんだって!」
「いえ、私です。正確には99.23%……」
「いや、俺が99%だ。俺の計算に狂いはない」
「99%を奪い合うなよ!」
こういう勝率を計算する奴は場に一人限りってのが鉄則だろうに……
「ふむ、50+49+0.23=99.23……私の計算にも間違いはないはずなのですが」
「思ったより単純な足し算だな!?その数字はどこから来てるんだよ!」
0.23とか何をどう計算したらその端数が単独で出てくるのやら……
「そのツッコミ力は平均より少し上ぐらいかな〜?このデータもメモメモっと……」
少女はそう言うと、再び羽ペンを走らせる。
……だが、俺はさっきから一つ気になっていることがあった。
「……なあ、お前さっきからどこにメモしてるんだ」
「え?手だけど」
そう言って少女は、自分の手の甲をひらりと見せる。
そこには細かな文字がびっしりと書き込まれていた。しかも手の甲だけでは足りなかったのか、腕のあたりまでぎっしりだ。
「なんなんだこのヘンテコ頭脳タイプ集団は……」
□
「……ダストレア・ウィーク様。一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか」
沈黙を破ったのは、ウィークを案内していた王国騎士だった。
「もちろんです。何でしょうか?」
ウィークが穏やかに答えると、騎士は険しい表情で口を開く。
「――ウィーク様は、我が国を愚弄するおつもりですか」
「……決して、そのようなつもりはありません」
「でしたら、なぜZ級スキルの者などを推薦枠へ?」
騎士の声には、苛立ちが滲んでいた。
「彼の名とスキルを聞いた時、正直に申し上げて、悪質な冗談か何かだと思いました」
ウィークは黙って耳を傾ける。
「勇者パーティーは、国の存亡を懸けた存在です。その候補者は、一人たりとも慎重に選ばなければならない」
騎士は足を止めず、淡々と言葉を続ける。
「その推薦という貴重な一枠を、Z級スキルの者に費やす。それは国を愚弄する行為と受け取られても仕方がない。……そうは思われませんか」
「……ええ」
ウィークは静かに頷いた。
「最低ランクのZ級。彼を勇者パーティー候補として不適格だと考えるお気持ちは、よく理解しています」
騎士の眉がぴくりと動く。
「……でしたら、なぜ」
「それでも、私は彼が勇者パーティーにふさわしいと信じています」
ウィークは迷いなく答えた。
「それはスキルではなく、彼自身の実力を評価しているからです」
「……」
「彼は強いです。僕よりもずっと」
その一言に、騎士はわずかに目を見開いた。
「……そうですか」
ちょうどその時、目的の部屋へと到着する。
「こちらが、S級スキル保持者の皆様の控えの間です。どうぞごゆっくりお過ごしください」
騎士は扉へ手を掛け、ふと思い出したように振り返る。
「――それと、これは余談ですが」
その口元に、初めて薄い笑みが浮かんだ。
「私は、推薦された皆さんを審査する試験官でもあります」
ウィークの表情がわずかに変わる。
「せいぜい、この目で見せていただきますよ。その彼の実力とやらを」
騎士は静かに言い放った。




