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ゴブリンの群れを倒せ!

 ジェンが詠唱した瞬間、灼熱の炎が演習場全体を包み込んだ。

 一次試験で規格外の破壊力を見せたフレイムショットの威力を、遥かに上回る。

 空を覆うほど巨大な炎の渦。その中心から、無数の火球が雨のように降り注ぐ。

 その一つ一つが、先ほどドラゴンが放った火球を上回る威力だった。


「ぐわあああ!!」


「きゃああああっ!!」


 凄まじい爆風が吹き荒れ、その余波は味方のいる場所にまで及んだ。


「まだゴブリンは残ってるな……ジャッジメント!」


 ジェンが再び魔法陣を展開した瞬間、空から無数の雷撃が降り注ぐ。

 一撃ごとに地面が抉れ、雷鳴が演習場全体に響き渡った。


「あれは……雷属性の最上級魔法……って、危なっ!」


 分析していたアヤメの横を、雷撃によって吹き飛ばされたゴブリンの棍棒が通過する。


「まだだ……!みんなが戦いやすいようにもっとゴブリンを減らさないと!」


 その言葉と同時に、さらに三つの魔法陣が浮かび上がる。

 一つは青白い光。一つは茶色の光。一つは緑色の光。

 水、土、風。

 それぞれの属性を示す色に輝く三つの魔法陣。

 火、水、雷、土、風。

 五つの基本属性。それら全ての最上級魔法が、今この場で同時に展開されていた。


「ブリザード!」


「カタストロフ!」


「テンペスト!」


 三つの魔法が放たれる。

 その瞬間、先ほどの炎と雷に加わり――五つの最上級魔法が同時に演習場を覆った。

 炎が空を焼く。雷が大地を穿つ。氷の嵐が吹き荒れる。巨大な岩塊が降り注ぐ。暴風が全てを巻き上げる。

 その様はまさに天変地異そのものだった。


「まずいですね……!僕の計算が正しければ――このままだとドラゴンに殺されるよりも先にあの魔法に巻き込まれて死にます!」


「ふむ、奇遇だな。俺も全く同じ計算結果だ!」


「計算しなくても分かるでしょ!早く逃げるよおおお!!」


 アヤメの叫びと共に、三人は慌ててその場から離れる。


「有り得ない……何が起こっているのですか……!Z級の彼が、どうして!」


 イグザムだけは、その場に立ち尽くしたまま呆然としていた。


「ほら、試験官さんも!」


 走りながらアヤメは声を掛ける。


「……はい」


 イグザムも静かに三人の後を追った。

 それを見たジェンは、首を傾げる。


「みんなが離れていく……?そうか!俺がゴブリン達をまとめて倒しやすいように、距離を取ってくれたのか!」


 すぐに納得する。そして、


「だったら――もっと遠慮なくできる」


 その瞬間。

 演習場を覆っていた炎、雷、氷、土、風の魔法が消え去る。

 しかし、五つの魔法陣だけは残っていた。

 ゆっくりと浮かび上がった五つの魔法陣が、互いに引き寄せられるように動き始める。

 五つの魔法陣が重なり合い、やがて一つの巨大な魔法陣へと変化していく。

 そして――。

 虹色の光が、演習場を照らした。


「魔法陣が合わさった!?」


 遠くから見ていたアヤメが目を見開く。


「一体何を……!」


 その答えを、ジェンは静かに口にした。


「――レインボーノヴァ」


 瞬間。

 虹色の光が爆発した。

 五つの属性が混ざり合い、純粋な破壊エネルギーへと変換された一撃。


「ギャッ――」


 ゴブリン達は断末魔を上げる暇すらなかった。

 虹色の光に触れた瞬間、その存在ごと消え去っていく。


「ガアアアッ――」


 そして当然。その光はドラゴンすらも飲み込んだ。

 巨大な身体、強靭な鱗、圧倒的な力――その全てが、光の中へ消えていく。


 やがて光が収まる。辺りには静寂だけが残った。

 あれほど辺りを埋め尽くしていた魔獣の群れも、圧倒的な存在感を放っていたドラゴンも、まるで最初から何も存在しなかったかのように消え去り、更地だけが残っていた。

 ジェンは全ての力を使い果たしたかのように、その場へ膝をつく。


「何とか……ゴブリン達は倒せた」


 荒く息をつきながら、後ろにいる四人へ視線を向ける。


「けど、俺にできるのはここまでだ――ドラゴン討伐は、みんなに任せたぞ……」


「「「「いや、もう全部終わってんだよ!!!」」」」


 四人の声が見事に重なった。


「……あれ?」


 ジェンは首を傾げ、改めて辺りを見渡す。

 そこで初めて、あれほど巨大だったドラゴンの姿が跡形もなく消えていることに気付いた。


 □


 一方その頃――。


(やばいですやばいですやばいです!! なんなんですか、あのでっかいドラゴン!! それを一瞬で倒しちゃうジェンさんも、一体なんなんですか!!)


 透明化したまま一部始終を見ていたヘリンは、誰よりも離れた場所で小さくうずくまり、ぶるぶると震えていた。

 その視線の先では、ドラゴンを倒したジェンのもとへ四人が集まっている。


「なんなんですか、あの魔法……。凄いなんてものじゃありませんよ……!」


「五つの属性の最上級魔法を同時に使った上、それらを一つの魔法へ融合させるなんて……人間業じゃないね」


「……貴様、一体何者なんだ」


 全員が、驚愕の眼差しでジェンを見つめていた。

 当然だった。今ジェンが成し遂げたことは、誰が見ても常識外れだ。

 だが、それを見ていたヘリンは、それ以上に衝撃を受けていた。


(そんな……ゴート・ジェンの実力が、認められている……!?)


 魔王の呪いによって、今までジェンがどれほど常識外れのことをしても、その凄さは誰にも正しく認識されなかった。

 ついさっきだってそうだ。

 規格外の威力を持つフレイムショットを放っても、あまりにも巨大な氷山を作り出しても、周囲は「少し威力が高い」程度にしか受け取っていなかった。

 なのに今は違う。皆が初めて、ジェンの力を異常なものとして認識している。


(どうして……?一体何が起こってるんですか……!?)


 そんなヘリンの混乱など知らず、ジェンは周囲の視線に首を傾げた。


「……別に大したことはしてないよ。そういえば、みんなには俺のスキルの内容を話してなかったな。俺の《全能無敵絶対確殺》は、この世に存在する全ての魔法が使えるようになる能力なんだ」


「全ての魔法を……?」


「使えるように……?」


 三人は思わず顔を見合わせた。


(そうですよね……!?いくら魔王様の呪いでも、あんな魔法を見せられた後なら流石におかしいって思いますよね!――まずいです!『全能無敵絶対確殺』が実は最強だって、とうとうバレちゃいます……!)


 ヘリンは頭を抱える。

 しかし――。


「そんな……そんな弱いスキルで、ドラゴンを倒したんですか!?」


「なるほど……全ての魔法が使えるだけの能力でも、工夫次第で竜を倒すにまで至るのか……」


 二人の驚きは別のものに変わり、感心した態度を見せる。


(えっ!?セーフ!?セーフなんですか、これ!?)


 ヘリンだけが完全に置いていかれていた。

 そんな彼女をよそに、アヤメがふと疑問を口にする。


「でも、あんな大爆発を起こしたのに、どうしてジェンは無傷だったの? 防御魔法でも使ってた?」


 あの爆発は、緻密な魔力操作によって敵だけを巻き込むよう範囲を制御されていた。

 だが、魔法を放ったジェン本人だけは、その爆心地にいたはずだ。


「ああ。全ての魔法が使えて、あとは、身体能力が強化されるっていうのが『全能』の能力。それと別にどんな攻撃を受けても怪我をしないっていう『無敵』の能力があるんだ」


「なるほどね〜それで自分の攻撃に巻き込まれても被害は受けなかったわけかぁ……考えたね」


(考えた!?何をですか!?やってることただのゴリ押しですよね!?)


 ヘリンの心の叫びが響く。


「つまり貴方の能力は、魔法が全て使える代わりに身体が強化され、代償として一切ダメージを受けない能力……色々と制約やデメリットが多い能力を組み合わせて利用した。という訳ですか」


(今の説明のどこに制約とデメリットがあったんですか!?強い能力を強い能力でカバーしてるだけですよ!?)


「使い勝手の悪い能力をここまで使いこなすとは……見事だ」


(使い勝手の塊ですよこんなの!!)


 ヘリンは思わず頭を抱え、その場に崩れ落ちた。

 ――だが同時に、まだ能力の強さが露見していていなかったことに胸をなで下ろす。


「いやぁ~」


 当のジェンは照れくさそうに頭をかきながら、えへへと笑っている。

 その評価はいつの間にか、『規格外の力でドラゴンを圧倒した少年』から『弱い能力を工夫して使いこなし、なんとかドラゴンを倒した少年』へと変わっていた。

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