↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/16

俺にできること

 ――その頃。

 俺は、ただ三人の戦いを見ていた。

「ウィンドカッター!」


 アヤメが風の刃を放つ。ドラゴンの翼を狙った攻撃は、寸分の狂いもなく弱点へと向かっていく。


「左から来ます!」


「分かっている!」


 ダマキの声に合わせ、オズキが地面を蹴り攻撃を避ける。


「アースメテオ!」


 降り注ぐ石の塊がドラゴンにあたり、動きを一瞬だけ止める。


「ナイス!そのまま押し切るよ!」


「はい、アヤメさん!」


「任せてください、アヤメさん!」


 三人は息ぴったりに動いていた。

 さっきまで、互いに別々に戦っていたはずなのに。  今では完全に一つのパーティーとして機能している。


「……すごいな」


 思わず、そんな言葉が漏れた。

 三人とも、自分にできることを理解して戦っている。

 それに比べて――


「……俺は」


 俺は、何もできていなかった。

 ゴブリン相手にすら怯えていた俺が、ドラゴンなんかと戦えるわけがない。


「……やっぱり、俺じゃ無理なのか」


 小さく呟く。

 推薦枠に選ばれた三人は、本物の実力者だった。

 A級スキル。優れた才能。確かな技術。

 その中で、俺だけが――

 そんなことを考えている間にも、三人の戦いは続いていた。

 ドラゴンの咆哮。魔法の光。爆発音。

 その中心で戦う三人の姿は、まるで別世界の人間のようだった。


「……俺も」


 拳を握る。


「俺も、何かしないと……」


 そう思うのに、身体は動かなかった。

 ただ見ているだけ。また俺は、何もできないまま終わるのか。

 そんな考えが、頭から離れなかった。

 アヤメも、ダマキも、オズキも戦っている。三人とも、それぞれの力で必死にこの状況に立ち向かっている。

 それなのに、俺の足は動かなかった。


「……いつまでそんなところにいるんですか」


 その時、後ろから声が聞こえた。

 振り向くと、そこにはイグザムが立っていた。


「早く離れますよ」


 その表情には、いつもの厳しさはなかった。

 ただ、全てを諦めたような疲れた顔をしていた。


「けど……俺も戦わないと!」


 思わず声を上げる。

 ここで逃げたら、本当に何もできないまま終わってしまう。

 しかし、イグザムは冷たい視線を向けた。


「できもしないことを言うのはやめてください。現にあなたは、あの竜が現れてから一歩も動けていなかったじゃないですか」


 言い返そうとした。でも、言葉が出なかった。図星だった。


「けど――」


「どうせ貴方は、あのウィークという男に持ち上げられて、流されるままここへ来たのでしょう」


「……」


「自分が勇者パーティーに選ばれるなんて思っていない。けれど、せっかく推薦されたのに途中で諦めるのも悪い。だからせめて最後までやるだけやってみよう。……そんな事でも考えて、この場に立っているだけではないのですか」


 何も言えなかった。実際、その通りだった。

 俺は最初から、自分が選ばれるなんて思っていなかった。

 ただ、ウィークが信じてくれたから。 期待してくれたから。

 その気持ちに応えたかっただけだった。


「どうせここにいたって、何もできやしませんよ。――私と同じように」


「え……?」


 その言葉に、思わず顔を上げた。


「……私も、あの竜を前に足がすくみました。ただ、彼らが戦う姿を眺めていることしかできなかったのです」


 その声には、悔しさが滲んでいた。


「だから……何もできない者同士、一緒に逃げましょう」


 その言葉は、俺を誘っているようで。

 同時に、自分自身へ言い聞かせているようにも聞こえた。


「イグザムさんは……王国騎士じゃないんですか?」


 俺は疑問を口にする。

 彼はどう見ても騎士のような格好をしていた。

 すると――。


「違う!!私は王国騎士などではない!」


 突然、イグザムが声を荒らげた。

 その叫びに、俺は驚く。


「……私は、本当は王国騎士になりたかった。国のために戦う剣に、民を守る盾に、そう願って、騎士団へ志願した。試験でも、それなりの成績は残した。自分には資格があると思っていた」


「だが――合格したのは、私より成績の低い者達だった」


 イグザムの表情が歪む。


「理由はただ一つ。私のスキルが……C級だったからだ。彼らは皆、B級以上のスキルを持っていた」


 静かな怒りが、その声に混じる。


「そして、さらに屈辱だった。騎士になれなかった私へ、国が与えた役目は――勇者パーティー推薦枠の試験官。騎士の代わりではなく、私のスキルを便利な道具として利用するための、一時的な仕事です」


「正式な騎士でもない。国に認められたわけでもない。ただ、スキルを使えるから呼ばれただけ」


 イグザムは自嘲するように笑った。


「……それでも、国の役に立てるなら、騎士の真似事でもできるなら、そう思って、この仕事を引き受けた。ですが――」


 ドラゴンを見る。


「こうして強大な敵を前にして、私は何もできなかった。結局、騎士になれなかったのは当然だったのでしょう」


「神は、その者に相応しいランクのスキルを与えると言われています。ならば……私は所詮、C級スキルに相応しい人間だった」


 イグザムは自分に言い聞かせるように、小さく息を吐く。


「スキルのランクは、その人間自身の価値を示す。最初からC級の私に出来ることなどたかがしれている。それは――貴方も同じはずです」


「誰に期待されようが、本当は分かっているはずです。自分には無理だと。Z級の貴方には、勇者パーティーに入ることも、あの竜と戦うことも、できるはずがないんですよ……!」


 イグザムの言葉が胸に突き刺さる。否定したい。けれど、その資格が今の俺にあるのか分からなかった。


「俺は――」


 その時だった。壊れたはずの魔法陣が、再び動き出した。

 しかし、イグザムが展開した時とは明らかに違う。  地面に浮かび上がった魔法陣は、黒く濁った光を放ち、まるで何か別の意思を持っているようだった。


「……また……!?」


 次の瞬間。

 魔法陣から、次々と魔獣が這い出してくる。

 先ほどドラゴンの火球によって吹き飛ばされたゴブリン達。それがまるで補充されるように、再び現れた。

 しかも――。


「多すぎる……!」


 ダマキが思わず声を漏らす。

 数は今までで一番多い。

 ゴブリン一体一体なら、俺でも倒せる。でも、今は違う。

 俺たちはドラゴンと戦っているんだ。

 この状況で、雑魚とはいえ大量の魔獣が増えるのは致命的だった。


「くっ……!」


 アヤメが迫ってきたゴブリンをダガーナイフで斬り伏せる。

 その一瞬。

 ドラゴンは、その隙を見逃さなかった。巨大な腕が振り下ろされる。


「――っ!」


 避ける暇などない。

 ドォォォンッ!!

 地面が揺れるほどの衝撃。ドラゴンの腕が、アヤメを押し潰した。


「ぐはっ……!」


「アヤメ!!」


 俺は叫んだ。

 さっきまで、何とか互角に戦えていたはずの戦況が、一瞬で崩れていく。

 新たに現れた魔獣、そこに圧倒的な力を持つドラゴン。


「……貴方も危ないですよ、早く逃げましょう。全てを諦めるのが身のためです」


 イグザムが静かに告げる。

 確かに、その通りだった。俺なんかがドラゴンと戦えるはずがない、逃げる方が正しい。

 俺にできることなんて、何にも――


「グッ……」


 その時だった。

 倒れたアヤメへ、一匹のゴブリンが近づいていく。

 手には棍棒。狙いは明らかだった。

 動けない彼女へ、とどめを刺そうとしている。

 俺は拳を握り締めた。

 実際、俺は流されるようにここへ来ただけだ。

 Z級スキルしか持たない俺に、勇者パーティーに相応しい力なんてない。

 もしかしたら、イグザムの言う通りなのかもしれない。

 俺自身の価値も、実力も――その程度なのかもしれない。

 でも、それでも。


「だからって……目の前で必死に戦ってるみんなを置いて逃げ出していい理由にはならないだろうが!!」


 気付けば、俺は走り出していた。

 拳を握り締める。

 そして――全力で振り抜いた。

 ドゴォンッ!!

 拳はゴブリンを捉え、その身体を遥か彼方へ吹き飛ばす。

 そのまま演習場の壁へ激突し、大きな音が響いた。


「なっ……!!」


 後ろから、イグザムの驚いた声が聞こえる。

 俺は振り返らない。

 勇者パーティーに相応しい人間じゃなくてもいい。

 ドラゴンに勝てるような力がなくてもいい。

 今の俺にできることがあるなら――それでいい。


「俺がゴブリン達を相手する!みんなはドラゴンに集中してくれ!」


  声を張り上げる。

 ドラゴンには勝てない。

 まだ俺には、あいつと真正面から戦う力なんてない。

 でも――。

 何もできないわけじゃない。

 俺は再び駆け出し、ダマキやオズキへ向かうゴブリンを、次々と殴り飛ばしていく。

 ドラゴンと戦うことはできない。

 だけど、仲間がドラゴンと戦える状況を作ることはできる。

 それが今の俺にできる、精一杯の戦い方だった。


「やるじゃないですか!」


 ダマキが驚いたように声を上げる。


「助かる!」


 オズキも短く叫ぶ。

 二人は改めてドラゴンへ向き直る。


「はああああ!!」


 オズキとダマキが駆け出す。

 その間にアヤメも立ち上がり、再び魔法陣を展開した。

 三人がドラゴンへ攻撃を仕掛ける中、俺は迫りくるゴブリン達を片っ端から殴り飛ばしていく。

 だが――。


「くそ……」


 いくら倒しても、数が減らない。

 このまま殴り続けるだけでは、いつまで経っても終わらない。

 なら――。


「……魔法を使わないと」


 そう思った瞬間、脳裏に一次試験の光景が蘇る。

 腕が震えた。狙いが逸れた。魔法を当てられなかった。

 また失敗するんじゃないか。そんな不安が一瞬だけ頭をよぎる。

 俺は周囲を見渡した。そこら中にいるゴブリン達。

 前から。横から。後ろから。

 演習場を埋め尽くすほどの数。


「……あれ?」


 ふと、気付く。よく考えたら、こんなに敵がいるんなら、多少狙いが外れたところで別に何の問題ないんじゃないか?

 その瞬間、肩の力が抜けた。的を狙う必要なんてない。一発で当てる必要もない。

 ただ、敵がいる場所へ何となく撃てばいい。


「……なんだ。これなら、さっきの的当てより簡単じゃないか」


 俺は空中に魔法陣を展開する。

 何も難しいことを考える必要はない。ただ――自分の持つ力を、そのままぶつければいい。

 そう考えた瞬間、空中に展開された魔法陣は今までとは比べ物にならないほど大きく広がっていく。

 眩い光が演習場を包み込んだ。


「……うそ、まさか、あれは……」


 アヤメがこちらを振り向いた。

 その表情が驚愕に染まっている。

 けれどアヤメ。そんなに驚く必要はないさ。

 今から俺が使うのはただの――。


「インフェルノ」


 ――ただの炎(・)属(・)性(・)の(・)最(・)上(・)級(・)魔(・)法(・)なんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。