↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/16

二次試験

 俺は、魔法の種類を変えるという咄嗟の判断によって、何とか一次試験を突破することに成功した。


「では、続いて二次試験へ移ります」


 イグザムが淡々と告げる。

 一次試験は、どうにか乗り越えることができた。  だが、二次試験はどうだろうか。

 正直、ここまで来られるとは思っていなかった。  勇者パーティーに選ばれるなんて、最初から考えてはいない。それでも、せめて最後まで食らいつきたい。


「一次試験は、あくまで最低限の能力を見るためのもの。本当の意味で合否を判断するのはこの二次試験になります」


「じゃあこの試験で決まるのか……」


 俺が呟くと、イグザムは構わず続けた。


「それでは、二次試験の内容を説明します。二次試験は――模擬戦闘です」


 そう告げた瞬間、再び地面に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 一次試験の時と同じように、演習場の床が淡い光に包まれる。次の瞬間。

 地面から何かがせり上がってきた。


「……え?」


 姿を現したのは、緑色の肌をした小型の魔獣。そして、その後ろから現れたのは巨大な体躯を持つ魔獣だった。あれは恐らく、ゴブリンとオーガ。


「ま、魔獣!?」


 ダマキが驚きの声を上げる。


「『試験官《プロクター》』はこんなことまでできるのか」


 俺も目の前の光景に息を呑む。


「この魔獣達を相手に戦っていただき、その戦闘能力を評価します」


 イグザムは平然と言った。


「で、でも魔獣なんて出して大丈夫なんですか!?」


 俺は思わず尋ねる。

 もし俺たちが負ければ、この魔獣達が王城内に放たれることになるのではないか。


「ご安心ください」


 イグザムは近くにいたゴブリンへ視線を向ける。


「私のスキルによって生成された模擬魔獣は、私の意思でいつでも消滅させることができます」


 そう言った瞬間、ゴブリンの姿が淡い光となって消えた。

 どうやら安全性は確保されているらしい。


「それでは――」


 イグザムが手を叩く。


「魔獣達も戦いたくて仕方がないようですので、第二試験を開始します」


 その瞬間。

 魔獣達が一斉にこちらへ向かって駆け出した。


「面白くなってきたね〜!ウィンドカッター」


 真っ先に動いたのはアヤメだった。放たれた風の刃が魔獣達を切り裂く。


「俺の記録によると、この魔獣は土属性に弱い。アースメテオ!」


 続いてオズキが前へ出る。空中に巨大な岩塊が形成され、魔獣達へ降り注ぐ。


「最適な魔法、最適な動きで、最高の効率を――アイスソードォ!!」


 ダマキは氷の剣を生み出した。迫る魔獣を一瞬で斬り伏せる。

 三人とも迷いがない。

 それぞれが自分の得意分野を理解し、最も効率的な方法で魔獣を倒していく。

 だが――


「……」


 俺は、その場から動けずにいた。

 的に魔法を当てる訓練。木刀での模擬戦。

 それなら経験がある。

 でも、本物の魔獣と向き合ったことなんて一度もなかった。

 目の前で牙を剥き、殺意を向けてくる存在。

 頭では戦わなければいけないと理解している。

 それでも、体が恐怖を感じて動かなかった。


「……けど、そんなこと言ってられないよな……」


 その瞬間。

 横からゴブリンが飛び出してきた。


「っ!?」


 棍棒を振り上げ、俺へ向かって振り下ろす。


「うわっ!」


 反射的に避けようとして、俺は地面へ尻もちをついた。


「く、来るな……!」


 近い。近すぎる。

 魔獣の息遣いも、振り上げられた棍棒も、すべてが鮮明に感じられる。

 魔法を使おうとする。だが、脳裏に浮かんだのは一次試験で腕が震え、魔法を外した光景だった。

 また失敗するんじゃないか。

 そんな考えが一瞬よぎる。


「くそっ!」


 俺はヤケクソ気味に拳を振り抜いた。

 拳はゴブリンの身体へと直撃する。

 次の瞬間、ゴブリンの身体は勢いよく吹き飛び、そのまま演習場の壁へと激突した。

 轟音が響き、石壁が大きく砕ける。

 そこには、先ほどフレイムショットが誤ってぶつかった場所とは別に、二つ目となる大きな穴が刻まれた。

 ――危なかった。何とかあのゴブリンには辛勝できたが、次もうまくいくとは限らない。


「それそれ!」


 横を見ると、アヤメが持ち前のダガーナイフを取り出し、風魔法を織り交ぜながら魔獣たちを次々と切り伏せている。

 オズキとダマキも、それぞれの得意分野を活かし、効率よく魔獣を倒していた。

 そんな中で、俺だけが何もできていない。


「……やはり、所詮はこの程度ですか」


 静かに呟いたイグザムの声が耳に入る。

 やはり、試験が始まってからずっと俺に向けられている視線は冷たい。推薦枠に集められたのは、A級スキルを持つ実力者ばかり。その中に紛れ込んだZ級スキルの俺を、場違いだと思っているのだろう。


「……ここまでか」


 俺は小さく息を吐いた。

 一次試験はたまたま機転が利いただけ。 イグザムの言う通り、所詮俺の実力はこの程度だ。ウィークには申し訳ないが、ここで不合格になるだろう。

 そう思いながら周囲へ目を向ける。

 気づけば、三人の活躍で魔獣の数はかなり減っていた。だが次の瞬間、演習場を覆う魔法陣が再び淡く輝き始める。

 倒された魔獣を補充するように、新たな魔獣たちが地面から次々と姿を現した。

 ――しかし。

 魔法陣の輝きは、そこで収まらなかった。

 光はさらに強さを増し、明滅を繰り返す。まるで何か異常が起きているかのように。


「……なんだ?」


 思わず眉をひそめる。

 嫌な予感がしてイグザムを見ると、彼もまた魔法陣を見つめたまま目を見開いていた。


「……これは」


 イグザムの表情が初めて大きく揺らぐ。

 その直後だった。

 ――ゴゴゴゴゴッ!!

 地面が激しく隆起し、魔法陣の中心が大きく盛り上がる。

 次の瞬間、巨大な影が土煙を突き破って飛び出した。

 広げれば人を何十人も覆い隠せそうな漆黒の翼。

 岩すら容易く砕きそうな鋭い鉤爪。

 全身を覆う硬質な鱗。


「ガオオオオオオオオオォォォン!!」


 耳をつんざく咆哮が演習場全体を震わせる。

 ――ドラゴンだった。


「な、なにぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


 オズキが今までにない大声を上げる。


「試験官さん〜これも試験なんですか?」


 アヤメが頬を引き攣りながら尋ねる。


「……いえ。私も、ここまでの魔獣が生み出されることを想定していません。これは――イレギュラーです」


 その一言で、場の空気が凍りつく。


「ですが問題ありません。私のスキルで生成した模擬魔獣は、私の意思一つで消滅させることが――」


 そこまで言いかけた、その瞬間。


「グルアァァァァァァァッッッ!!」


 ドラゴンが再び咆哮を轟かせる。

 ――パリンッ。

 澄んだ破砕音が響き渡った。

 足元を覆っていた巨大な魔法陣に無数の亀裂が走り、ガラスのように砕け散る。


「……なっ、馬鹿な……まさか……!」


 イグザムの顔色が変わる。

 慌ててドラゴンへ手をかざす。


「消えろ!」


 しかし、ドラゴンは微動だにしない。


「……消えない。そんな……こんなことは……あり得ない!」


 イグザムの焦りを見て、俺はようやく理解した。

 ――これは、試験じゃない。

 目の前にいるドラゴンは、イグザムのスキルでも制御できない存在。

 勇者パーティー選考試験は――命懸けの戦いへと変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。