二次試験
俺は、魔法の種類を変えるという咄嗟の判断によって、何とか一次試験を突破することに成功した。
「では、続いて二次試験へ移ります」
イグザムが淡々と告げる。
一次試験は、どうにか乗り越えることができた。 だが、二次試験はどうだろうか。
正直、ここまで来られるとは思っていなかった。 勇者パーティーに選ばれるなんて、最初から考えてはいない。それでも、せめて最後まで食らいつきたい。
「一次試験は、あくまで最低限の能力を見るためのもの。本当の意味で合否を判断するのはこの二次試験になります」
「じゃあこの試験で決まるのか……」
俺が呟くと、イグザムは構わず続けた。
「それでは、二次試験の内容を説明します。二次試験は――模擬戦闘です」
そう告げた瞬間、再び地面に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
一次試験の時と同じように、演習場の床が淡い光に包まれる。次の瞬間。
地面から何かがせり上がってきた。
「……え?」
姿を現したのは、緑色の肌をした小型の魔獣。そして、その後ろから現れたのは巨大な体躯を持つ魔獣だった。あれは恐らく、ゴブリンとオーガ。
「ま、魔獣!?」
ダマキが驚きの声を上げる。
「『試験官』はこんなことまでできるのか」
俺も目の前の光景に息を呑む。
「この魔獣達を相手に戦っていただき、その戦闘能力を評価します」
イグザムは平然と言った。
「で、でも魔獣なんて出して大丈夫なんですか!?」
俺は思わず尋ねる。
もし俺たちが負ければ、この魔獣達が王城内に放たれることになるのではないか。
「ご安心ください」
イグザムは近くにいたゴブリンへ視線を向ける。
「私のスキルによって生成された模擬魔獣は、私の意思でいつでも消滅させることができます」
そう言った瞬間、ゴブリンの姿が淡い光となって消えた。
どうやら安全性は確保されているらしい。
「それでは――」
イグザムが手を叩く。
「魔獣達も戦いたくて仕方がないようですので、第二試験を開始します」
その瞬間。
魔獣達が一斉にこちらへ向かって駆け出した。
「面白くなってきたね〜!ウィンドカッター」
真っ先に動いたのはアヤメだった。放たれた風の刃が魔獣達を切り裂く。
「俺の記録によると、この魔獣は土属性に弱い。アースメテオ!」
続いてオズキが前へ出る。空中に巨大な岩塊が形成され、魔獣達へ降り注ぐ。
「最適な魔法、最適な動きで、最高の効率を――アイスソードォ!!」
ダマキは氷の剣を生み出した。迫る魔獣を一瞬で斬り伏せる。
三人とも迷いがない。
それぞれが自分の得意分野を理解し、最も効率的な方法で魔獣を倒していく。
だが――
「……」
俺は、その場から動けずにいた。
的に魔法を当てる訓練。木刀での模擬戦。
それなら経験がある。
でも、本物の魔獣と向き合ったことなんて一度もなかった。
目の前で牙を剥き、殺意を向けてくる存在。
頭では戦わなければいけないと理解している。
それでも、体が恐怖を感じて動かなかった。
「……けど、そんなこと言ってられないよな……」
その瞬間。
横からゴブリンが飛び出してきた。
「っ!?」
棍棒を振り上げ、俺へ向かって振り下ろす。
「うわっ!」
反射的に避けようとして、俺は地面へ尻もちをついた。
「く、来るな……!」
近い。近すぎる。
魔獣の息遣いも、振り上げられた棍棒も、すべてが鮮明に感じられる。
魔法を使おうとする。だが、脳裏に浮かんだのは一次試験で腕が震え、魔法を外した光景だった。
また失敗するんじゃないか。
そんな考えが一瞬よぎる。
「くそっ!」
俺はヤケクソ気味に拳を振り抜いた。
拳はゴブリンの身体へと直撃する。
次の瞬間、ゴブリンの身体は勢いよく吹き飛び、そのまま演習場の壁へと激突した。
轟音が響き、石壁が大きく砕ける。
そこには、先ほどフレイムショットが誤ってぶつかった場所とは別に、二つ目となる大きな穴が刻まれた。
――危なかった。何とかあのゴブリンには辛勝できたが、次もうまくいくとは限らない。
「それそれ!」
横を見ると、アヤメが持ち前のダガーナイフを取り出し、風魔法を織り交ぜながら魔獣たちを次々と切り伏せている。
オズキとダマキも、それぞれの得意分野を活かし、効率よく魔獣を倒していた。
そんな中で、俺だけが何もできていない。
「……やはり、所詮はこの程度ですか」
静かに呟いたイグザムの声が耳に入る。
やはり、試験が始まってからずっと俺に向けられている視線は冷たい。推薦枠に集められたのは、A級スキルを持つ実力者ばかり。その中に紛れ込んだZ級スキルの俺を、場違いだと思っているのだろう。
「……ここまでか」
俺は小さく息を吐いた。
一次試験はたまたま機転が利いただけ。 イグザムの言う通り、所詮俺の実力はこの程度だ。ウィークには申し訳ないが、ここで不合格になるだろう。
そう思いながら周囲へ目を向ける。
気づけば、三人の活躍で魔獣の数はかなり減っていた。だが次の瞬間、演習場を覆う魔法陣が再び淡く輝き始める。
倒された魔獣を補充するように、新たな魔獣たちが地面から次々と姿を現した。
――しかし。
魔法陣の輝きは、そこで収まらなかった。
光はさらに強さを増し、明滅を繰り返す。まるで何か異常が起きているかのように。
「……なんだ?」
思わず眉をひそめる。
嫌な予感がしてイグザムを見ると、彼もまた魔法陣を見つめたまま目を見開いていた。
「……これは」
イグザムの表情が初めて大きく揺らぐ。
その直後だった。
――ゴゴゴゴゴッ!!
地面が激しく隆起し、魔法陣の中心が大きく盛り上がる。
次の瞬間、巨大な影が土煙を突き破って飛び出した。
広げれば人を何十人も覆い隠せそうな漆黒の翼。
岩すら容易く砕きそうな鋭い鉤爪。
全身を覆う硬質な鱗。
「ガオオオオオオオオオォォォン!!」
耳をつんざく咆哮が演習場全体を震わせる。
――ドラゴンだった。
「な、なにぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
オズキが今までにない大声を上げる。
「試験官さん〜これも試験なんですか?」
アヤメが頬を引き攣りながら尋ねる。
「……いえ。私も、ここまでの魔獣が生み出されることを想定していません。これは――イレギュラーです」
その一言で、場の空気が凍りつく。
「ですが問題ありません。私のスキルで生成した模擬魔獣は、私の意思一つで消滅させることが――」
そこまで言いかけた、その瞬間。
「グルアァァァァァァァッッッ!!」
ドラゴンが再び咆哮を轟かせる。
――パリンッ。
澄んだ破砕音が響き渡った。
足元を覆っていた巨大な魔法陣に無数の亀裂が走り、ガラスのように砕け散る。
「……なっ、馬鹿な……まさか……!」
イグザムの顔色が変わる。
慌ててドラゴンへ手をかざす。
「消えろ!」
しかし、ドラゴンは微動だにしない。
「……消えない。そんな……こんなことは……あり得ない!」
イグザムの焦りを見て、俺はようやく理解した。
――これは、試験じゃない。
目の前にいるドラゴンは、イグザムのスキルでも制御できない存在。
勇者パーティー選考試験は――命懸けの戦いへと変わった。




