第23話:【絶頂】猫の首輪は誰のもの? 怨霊ごと舐めとる消毒の口づけ
2人目攻略!
絶対零度の氷河へと変貌した特別教室の中で、白鐘の姫は、純白の腕の中に一人の少女を抱きかかえていた。
猫宮珠希。
クラスのムードメーカーであり、誰に対しても壁を作らない、陽だまりのような悪友ギャル。
だが今の彼女の身体は、氷のように冷え切り、生気という生気を失っていた。精神体から生身に戻りはしたが、希薄さは変わらない。
健康的に日焼けしていたはずの肌は死人のように青白く、その表面には、怨霊から注ぎ込まれた黒い「呪いの紋様」が、毒々しい蔦のようにびっしりと這い回っている。
「……はぁ、……ぁ、……」
珠希の喉から、掠れた、ひゅーひゅーという微弱な呼吸音が漏れる。
怨霊の本体である『餓鬼の揺り籠』は、すでに姫の圧倒的な力によって塵一つ残さず氷砕された。
しかし、珠希の体内に侵入した致死量の呪いの毒は、今もなお彼女の魂を蝕み、その命の灯火を完全に吹き消そうと暴れ回っている。
『マスター。対象の生命維持システム、完全崩壊まで残りわずか。呪いの浸食率が魂の深部にまで到達しています。……ただちに「解呪」を行わなければ、彼女は助かりません』
シキの無機質なアラートが、静まり返った氷の空間に響く。
――分かっているわ。本当に、世話の焼ける雌猫ね。
姫は、金色の蛇の瞳を細め、腕の中で苦しそうに顔を歪める珠希を見下ろした。
男であった清春の「あいつを助けたい」という必死の焦燥感は、姫というフィルターを通すことで、極限まで煮詰まった『傲慢な所有欲』へと変換されている。
こんな薄汚い泥の呪いに、私の許可なく彼女の命を奪われることなど、絶対に許さない。
彼女の魂を縛る首輪は、あの泥どもが掛けた汚い蔦などではない。私が直々に与える、絶対零度の鎖でなければならないのだ。
「……少し、痛いかもしれないけれど。私の庭をうろついた罰だと思って、我慢しなさい」
姫の赤い唇から、妖艶で、どこまでも甘い囁きがこぼれ落ちた。
姫は、冷たく白磁のような指先を伸ばし、珠希の首筋から鎖骨にかけて広がる黒い呪いの紋様を、そっと撫でた。
「あ……っ!」
珠希の身体が、ビクンと大きく跳ねた。
姫の指先が触れた瞬間、黒い紋様が「ジュッ!」と音を立てて焼け焦げ、黒い煙となって空中に蒸発したのだ。
それは、大妖怪の圧倒的な純度の妖力による、呪いの強制的な浄化。
しかし、それは同時に、珠希の神経を直接焼き切るような強烈な刺激でもあった。
「私の玩具に、こんな汚らしい泥の跡を残して……。本当に、腹立たしいわね」
姫は、不快そうに目を細めると、自らの顔を、珠希の首筋へとゆっくりと近づけた。
そして。
熟れきった毒林檎のような赤い唇を、黒い紋様が最も濃く集まっている彼女の喉元に、直接押し当てた。
チュッ、と。
静かな氷の密室に、卑猥で生々しい水音が響く。
「ひ、あぁっ……!?」
珠希の口から、悲鳴にも似た、しかし酷く甘く掠れた喘ぎ声が漏れた。
姫の冷たい唇と、そこから這い出した滑らかな舌が、珠希の肌に刻まれた呪いを、文字通り「舐め取って」いく。
ジュゥゥゥゥッ……!
舌が這うたびに、怨霊の呪いが黒い靄となって昇華し、浄化されていく。
それは、火傷をした皮膚に氷を押し当てられるような痛みを伴うはずだった。
現に、珠希の身体は激しいショックに痙攣し、弓なりに反り返っている。
だが。
彼女は化け猫の半妖だ。
常人にはただの激痛としか感じられない姫の妖力による浄化が、彼女の本能には、全く別の「異常な快楽信号」として処理されてしまっていた。
姫の身体から放たれる、むせ返るほどに濃密で甘い匂い。
そして、肌を這う舌から直接注ぎ込まれる、高純度の『妖力』。
それは、化け猫の血を引く珠希にとって、脳髄をドロドロに溶かし、理性を根こそぎ奪い去る【極上のマタタビ】そのものだった。
「あ……、あぁっ……。は、ぁっ、んんっ……!」
珠希の濁っていた瞳に、急激に熱が灯り始める。
死の恐怖と絶望で冷え切っていた身体が、内側からカッと燃え上がるように熱を持ち、皮膚の下を何かが這い回るような、狂おしい疼きに支配されていく。
怖い。痛い。
なのに、もっと触れてほしい。
もっと、その甘い匂いを、冷たい舌の感触を、私にちょうだい。
死に瀕していたはずの珠希の指先が、無意識のうちに動き、自分を抱きかかえる姫の純白のドレスを、ギュッと強く握りしめた。
逃げようとするのではない。自ら、その甘い地獄の底へとすがりつこうとする、雌猫としての完全なる服従のポーズ。
「……ふふっ。本当に、素直で良い子。あなたのその猫の血が、私の匂いにどうしようもなく惹きつけられているのが分かるわ」
姫は、珠希の反応に心の底から愉悦を覚え、クスクスと艶やかに笑った。
表面の呪いは、大方舐め取った。
肌は元の健康的な白さを取り戻しつつあるが、問題は、魂の深部にまで根を張っている呪いの毒だ。
これを完全に引き剥がし、消毒するには、外側から舐めるだけでは足りない。
「でも、まだ終わっていないわ。身体の中まで入り込んだ泥は……中から直接、綺麗にしてあげないといけないものね」
姫の金色の蛇の瞳が、残酷な愛おしさを孕んで、珠希の顔を覗き込んだ。
冷たく細い指先が、珠希の顎を強引に掬い上げる。
逃げ場はない。
珠希の視界は、圧倒的な美貌と、自分を支配する最強の捕食者の存在感で完全に埋め尽くされた。
「……ん、……ぁ……」
珠希の半開きの唇から、熱っぽい吐息が漏れる。
「しっかり開けなさい。私の毒(匂い)で、あなたの内側をすべて、塗り替えてあげるから」
次の瞬間。
姫の赤い唇が、珠希の唇を完全に塞いだ。
「んんっ!!? ん、あ、ぐぅっ……!」
珠希の瞳孔が、限界まで見開かれた。
口づけと共に、姫の冷たい舌が、強引に珠希の口腔内へと侵入してくる。
それは、優しさなど微塵もない、純粋な『蹂躙』と『消毒』の儀式だった。
姫の舌が、珠希の口蓋を舐め上げ、舌の裏側まで執拗に絡め取っていく。
ちゅぷ、くちゃり、と。
静かな氷の密室に、二人の舌が交わり、唾液が混ざり合う、卑猥な水音が響き渡る。
そして、交わる舌を通して、姫の強大な妖力が、珠希の体内へと一気に注ぎ込まれた。
「あ、が……っ、あぁぁぁっ……!」
珠希の脳内で、閃光が弾けた。
体内に巣食っていた怨霊の呪いが、姫の圧倒的な妖力に触れ、悲鳴を上げて浄化されていく。
だが、その浄化の過程は、珠希の精神に致死量を超える「快楽」という名のマタタビを強制的に過剰摂取させることと同義だった。
脳が、沸騰する。
自分が誰なのか、ここがどこなのか、そんな人間の理性が、すべて甘い匂いの濁流に飲み込まれて真っ白に消し飛んでいく。
「んちゅ、……れろ、……ふぁ、ぁん……っ、んんんっ!!」
珠希の身体が、感電したようにビクンビクンと激しく跳ねた。
肺の中の酸素が奪われ、息ができない。
だが、苦しくはない。
ただひたすらに、気持ちいい。
頭のてっぺんから爪の先まで、自分の存在のすべてが、この美しいお姉様の匂いと味でドロドロに溶かされて、再構築されていくような、恐ろしくも甘美な全能感。
珠希の腕が、無意識のうちに姫の首に巻きつき、自分からさらに深く口づけを求めようと、姫の背中にすがりついた。
のどから、「ゴロゴロ……」という、本物の猫が極上の快感を得た時のような、無自覚な喉鳴りが漏れ始める。
男の人が苦手だった図書委員の綾でさえ、理性を飛ばして屈服した強烈なフェロモン。
ましてや、化け猫の半妖である珠希にとって、姫から直接注がれるマタタビの原液は、もはや逆らうことなど絶対に不可能な、魂の書き換え作業だった。
永遠にも思える、長くて、淫らな蹂躙の時間。
やがて、体内の呪いが一滴残らず浄化され、代わりに姫の『匂い』が細胞の隅々にまで定着したことを確認すると。
姫は、ゆっくりと、珠希の唇から自らの唇を離した。
ぷつり、と。
二人の間に、銀色の唾液の糸が艶めかしく引かれ、空中で切れて消える。
「はぁっ、はぁっ、あ……ぁ……んっ……」
姫の腕の中で、珠希は完全に腰を砕かれ、だらりと首を垂れていた。
彼女の全身は、異常なほどの熱を帯び、汗で濡れた肌が月明かりに妖しく光っている。
瞳の焦点は完全に合いを失い、とろけきった表情で虚空を見つめながら、だらしなく半開きの唇から荒い呼吸を繰り返している。
死の淵にあった青白さは消え失せ。
そこにあるのは、極上の快楽を教え込まれ、主人の匂いなしでは生きられない身体に作り変えられた、哀れで可愛い「牝猫」の姿だった。
『マスター。対象の体内から、特級呪物の反応が完全に消失しました。解呪プロセス、および対象への「マーキング」の完了を確認。……お見事です。これで彼女も、一生あなたから離れられない立派な依存体質ですね』
シキの音声が、どこか呆れたような、それでいて状況を楽しんでいるようなトーンで響く。
――ええ。これでようやく、私の気が済んだわ。
姫は、とろけた顔で喘ぎ続ける珠希を見下ろして、心の底から満足そうに微笑んだ。
彼女の白い肌からは、怨霊の不快な泥の匂いは完全に消え去り。
代わりに、姫と同じ、むせ返るように甘く冷たい『香水』の匂いが、むんむんと立ち昇っている。
「良い子ね。これで、あんな汚い泥どもは、二度とあなたに近づけないわ」
姫は、珠希の茶色い前髪を優しく撫で上げ、その額にチュッと、軽いリップ音を立てて最後の口づけ(承認の印)を落とした。
「この首輪の匂いを、魂の底まで刻み込んでおきなさい。……あなたはもう、私の可愛い飼い猫なのだから」
その言葉を最後に。
姫の身体は、白銀の光の粒子となって、少しずつ暗闇の空気に溶け込み始めた。
役目を終えた大妖怪の意識が、男としての清春の自我へとバトンを渡し、深い眠りへと還っていく。
「……あ、……ぁ。……もっと。……おねえ、さま。……いい匂い、もっと……」
完全に気絶する寸前。
珠希は、消えゆく光に向けて虚ろに手を伸ばし、狂おしいほどの依存と発情に満ちた言葉を呟いて、そのまま深い眠りへと落ちていった。
かくして、特級怨霊による学園の危機は、最恐の蛇神の圧倒的な暴力によって人知れず幕を下ろした。
しかし。
事なかれ主義の男子高校生・日高清春にとっての「真の地獄」は、翌朝、完全に理性を吹き飛ばされた状態で料理部に乱入してくる、この発情ギャルの存在によって、さらなる修羅場を迎えることになるのである。
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次回お楽しみに。




