第26話 ある朝、僕の“それ”が――
◇
何もない空間で、僕は鼻をほじってた。
人差し指の爪で鼻くそを引っかけて、奥からずるっと取り出す。
汚くない、健康的な鼻くそが出てきた。
……こういう動画、好きなんだよな。
角栓を抜くやつとか。
耳かきをするやつとか。
僕は、鼻くそを丸めて捨てようとした。
真っ白い空間だ。
一つくらい鼻くそがあったところで、バレやしないさ。
そうして人差し指で鼻くそを弾いた、そのときだった。
ピピピピピッ!!
「どわぁ!?」
けたたましいアラームの音で目が覚める。
僕は、いつもの自室にいた。
「なんだ夢かぁ」
息を吐いて、腫れた頬をさする。
なんだか、前にもこのくだりをしたような……。
「……ん?」
安心したのも束の間。
僕は、思わず首を傾げる。
股間に、違和感があった。
服の中で、何かが盛り上がっている。
いや――
勃ち上がっている!
「まさか……!!!」
慌ててズボンとパンツを脱ごうとする。
パンツのゴム部分が引っかかった。
知ってる感触。
知ってるひと工夫!
「ちんちんが……」
股間に勃っていたのは、
紛れもなく僕のちんちんだった。
◇
「おはよー!」
人生で一番明るく、そして元気な挨拶が口から飛び出た。
クラスメイトの驚く視線をガン無視して、僕は教室に入る。
脚がぷるぷる震えてるって?
緊張はしていない。
昨日の後遺症だから、気にしないでほしい。
ふと、奥田さんと目が合った。
ぎこちないながら、手を振ってみる。
「奥田さん、僕ちんちんが戻ったよ」
「え、本当に!? ……よかったね。
昨日の蒼井くん、確かにかっこよかったし。
男を示せたんだね」
「……ま、まぁ」
僕の顔を覗き込んだ奥田さんが、
「ん?」怪訝そうな表情を浮かべた。
「ほっぺたどうしたの?」
「え!? な、なんでもないよ……!」
「そっか……?
あっ、田所にも言ってみてよ。
ちんちんのこと」
「……そうだね」
奥田さんに背を見送られながら、僕は自分の席に座る。
頬がずきりと痛んだ。
思わずさすると、隣から小さく吹き出す気配がした。
田所は、ニヤニヤしながら僕に言う。
「痛むかよ」
「……おかげさまで」
「もう一発お見舞いしてやってもいいんだぜ?」
「遠慮しておくよ……」
昨日のことで思い知った。
田所のパンチは、かなり強烈だ。
「僕、ちんちん戻ったよ」
「マジで!?」
「マジ。見せないけど」
「言われなくても見ねぇよ、チッ。
グラウンド百週走ったから、男を示せたんじゃねぇの?」
カバンを開こうとした手が止まる。
「昨日は……本当にひどかった」
「自業自得だろ」
それでも、ため息を吐かずにはいられない。
昨日は地獄だったのだから。
――物事には、順序がある。
たとえばセックスの前には前戯があって、
前戯の前には会話とか、部屋の掃除とか……それ以前の問題があるように。
正直、語りたくはない。
だけど、どうか僕のつまらない語りを聞いてほしい。
どうして僕の頬が腫れていて、
どうして僕の脚がガクガクなのかを――
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