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ある朝、僕の“それ”が消えた。  作者: 花束 いと


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26/28

第26話 ある朝、僕の“それ”が――





 ◇





 何もない空間で、僕は鼻をほじってた。


 人差し指の爪で鼻くそを引っかけて、奥からずるっと取り出す。

 汚くない、健康的な鼻くそが出てきた。



 ……こういう動画、好きなんだよな。


 角栓を抜くやつとか。

 耳かきをするやつとか。



 僕は、鼻くそを丸めて捨てようとした。

 真っ白い空間だ。

 一つくらい鼻くそがあったところで、バレやしないさ。


 そうして人差し指で鼻くそを弾いた、そのときだった。




 ピピピピピッ!!



「どわぁ!?」



 けたたましいアラームの音で目が覚める。

 僕は、いつもの自室にいた。



「なんだ夢かぁ」



 息を吐いて、腫れた頬をさする。

 なんだか、前にもこのくだりをしたような……。



「……ん?」



 安心したのも束の間。

 僕は、思わず首を傾げる。



 股間に、違和感があった。



 服の中で、何かが盛り上がっている。


 いや――


 勃ち上がっている!



「まさか……!!!」



 慌ててズボンとパンツを脱ごうとする。

 パンツのゴム部分が引っかかった。

 知ってる感触。

 知ってるひと工夫!



「ちんちんが……」



 股間に勃っていたのは、

 紛れもなく僕のちんちんだった。





 ◇





「おはよー!」



 人生で一番明るく、そして元気な挨拶が口から飛び出た。

 クラスメイトの驚く視線をガン無視して、僕は教室に入る。



 脚がぷるぷる震えてるって?

 緊張はしていない。

 昨日の後遺症だから、気にしないでほしい。



 ふと、奥田さんと目が合った。

 ぎこちないながら、手を振ってみる。



「奥田さん、僕ちんちんが戻ったよ」

「え、本当に!? ……よかったね。

 昨日の蒼井くん、確かにかっこよかったし。

 男を示せたんだね」

「……ま、まぁ」



 僕の顔を覗き込んだ奥田さんが、

 「ん?」怪訝そうな表情を浮かべた。



「ほっぺたどうしたの?」

「え!? な、なんでもないよ……!」

「そっか……?

 あっ、田所にも言ってみてよ。

 ちんちんのこと」

「……そうだね」



 奥田さんに背を見送られながら、僕は自分の席に座る。


 頬がずきりと痛んだ。

 思わずさすると、隣から小さく吹き出す気配がした。


 田所は、ニヤニヤしながら僕に言う。



「痛むかよ」

「……おかげさまで」

「もう一発お見舞いしてやってもいいんだぜ?」

「遠慮しておくよ……」



 昨日のことで思い知った。

 田所のパンチは、かなり強烈だ。



「僕、ちんちん戻ったよ」

「マジで!?」

「マジ。見せないけど」

「言われなくても見ねぇよ、チッ。

 グラウンド百週走ったから、男を示せたんじゃねぇの?」



 カバンを開こうとした手が止まる。



「昨日は……本当にひどかった」

「自業自得だろ」



 それでも、ため息を吐かずにはいられない。

 昨日は地獄だったのだから。







 ――物事には、順序がある。



 たとえばセックスの前には前戯があって、

 前戯の前には会話とか、部屋の掃除とか……それ以前の問題があるように。



 正直、語りたくはない。

 だけど、どうか僕のつまらない語りを聞いてほしい。



 どうして僕の頬が腫れていて、

 どうして僕の脚がガクガクなのかを――










ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます!

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